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続編 2

 広いショッピングセンターであることが幸いして見れば気落ちするカップルを再び目撃することもなく、気の置けない友人とのウィンドウショッピングは楽しかったこともあって、その日は一日楽しく過ごすことができた。
 お互い気を遣う相手もいないからと夕飯まで食べて帰ると、楽な格好に着替えて化粧だけ落としてそのまま布団にダイブし泥のように寝た。
 だけど一夜明けると戻ってきた憂鬱を、当然の結果だからと追い払おうとしてもなかなかうまくいかなかった。
 どうすべきなのかと考えても、どうしようもないというのが現実だ。
 近頃の吉田は日々私の前に現れるということがない。週に一度か二週に一度くらいの割合でメールが来て、都合が合えば待ち合わせて食事をするパターン。
 仕事が忙しいからだろうと思っていたけれど、目撃した現実から考えると彼は私を友人の枠に収めて少しずつフェードアウトするつもりなのだろう、おそらく。
 そのうち何事もなかったかのように玲子との噂が流れても、これまでの吉田が吉田だからきっと誰もがまたかと思うに違いない。
 吉田の存在に何かを期待したのかと問われれば、否定したくなる。だけど、無意識になにか期待はしていたのだろう。
 やっぱりねと笑って一晩で忘れられなかったくらいだから、しばらく引っ張る予感がした。気にするのはきっと、中途半端に煽られた私だけ。そう思うと余計に落ち込みそうだった。
 ああ本当に。軽い男がすることにはろくなことがない。気を許したのは失敗だった。
 安恵に経緯を話したならば、ほら言ったじゃないと笑われるだろう。あれから何も話していないし、今後話すとしてももう少し先だろうけれど。仕事にべったりの安恵と都合を合わせるのは既婚者の史子よりも困難だから、今のところ率先してどうこうしようと思わない。
 次に会う時には笑い話にできればいいわと自嘲気味に自分に言い聞かせた。



 私が落ち込もうと時間は確実に過ぎていき、日常は否応なしに私を追い立てる。
 プライベートのあれこれを仕事に持ち越すようなことはしないと断言したいところだけど、若干効率が落ちた気がするのは否定できない。
 玲子をはじめ何人かに不調の理由を聞かれてもまさか本当のことも言えず、当たり障りなく答えておいた。いやあ今回はなんだか痛みが激しくて、なんて冗談まじりにお腹を押さえたらみんな心得顔で納得してくれる。
 言い訳が効果を発揮している数日間で元のペースを取り戻し、よしもう平気かと思ったところで再び動揺する羽目になったのは、何事もなかったように平然と吉田からの様子伺いのメールが来たからだった。
 仕事が忙しい時期でもあったし、毎週必ず会っているわけではない。先週金曜日に会ったところだから、別に今週顔を合わせる必要は吉田には全くないと思う。
 なぜならばこの週末には仲良く玲子とデートをしていたのだから、友達の位置に落ち着いた私に気を遣う必要なんて吉田にはない。元々そこまで親しくなかったんだから、さりげなく間隔を空けて距離をとればいい。
 食事の時の吉田は常に紳士的で、あのアドバイスをそれなりに忠実になぞっている。さすがに真面目に毎回口説くようなことはないけれど――たぶんその努力はとうの昔に放棄して、なかったことになっているんだと思う――、少なくとも一滴も酒は飲まない。
 お互い飲めないわけでもないのに、常にノンアルコール。それなりには盛り上がるけど、酔った勢いでどうこうなんて展開が一滴も飲まずに訪れるわけがない。
 酔いの勢いがあれば何か違ったのかと考えはしても、きっとそれがあってもなかったこととして処理してしまったであろう自分が想像できるだけ空しい。
 ショッピングモールで連れ立って歩く吉田と玲子を目撃しなければ、本当に友達の位置に吉田を収めて疑問にも思わなかったはずだ。
 目撃してしまったからこそ、余計なことに気付いてしまった。気付かなければ気軽に応じられたのになと携帯を見てため息が漏れる。
 吉田は軽い男なようだけど、友人として付き合う分には悪くないヤツだ。思いの外気が合うので、一緒にいて苦痛じゃなかった。だからこそ時々食事を共にしていたのだから。
 頭の片隅に真剣な告白を追いやって、ただの食事友達――お酒は一滴も入らなかったから――の関係を築いたのは私だ。交わらない平行線に長続きしない軽い男がうんざりするのは、もっともな話だった。
 今日も誘いかけてくれたのは向こうも友人として悪くないと考えてくれているから、だろうか。
 だけど、これはよくないと思う。
 玲子は吉田が私に本気だと信じて疑っていなかったし、付き合い始めたのに前の想い人と二人きりで食事に行ったなんて知ったら気分を悪くするに決まっている。
 人の恋バナが好きな玲子自身の話はあまり聞いた記憶がないけれど、一途な人が好きなようなことは言っていた。
 玲子は可愛い後輩だ。少し複雑な気持ちはあるけど、吉田なんかのことで関係を悪くしたくはない。
 ――それに、これ以上吉田と行動を共にするのは私自身にとってもよろしくない。
 私はかつての自分のアドバイス通りにほぼ行動する吉田の術中に、どうやらまんまと嵌りつつあるようだから。

2009.10.30 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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