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二章 2.朝のお話〜エルラの場合〜

 エルラの朝の日課は、神殿へ参ることだ。
 エルムスランドの王宮にはとても大きな神殿がある。
 魔物封印の代償として、この世界における名を失い、変化させた神の神殿。
 人々は神の真の名を知ることなく仮の名を呼び続けているけれど、神を慕い続けていることにはかわりがない。
 だから、神殿は大きく立派な姿をしているし、昼間は一般へと開放されて多くの人が訪れる。
 朝――この時間はまだ一般の人々は来ないし、神官達の姿も滅多に見ることがない。静かで厳粛に満ちた空間で、一人祈りを捧げる。
 今日も一日良き日でありますように。
 ひざまずいて毎日変わらぬ願いを唱える。神はこの世界で存分に力を振るうことはできない――それは事実として知ってはいるけれど。
 しかしたとえ、この世界に存分な力を注げないとしても、きっとこの願いは神に届いている。だから、きっと悪くはならないはず。
 エルラはそう信じている。神は偉大なのだ。
 彼女は立ち上がって外に出た。柔らかい朝の光に神殿が仄かにきらめいているように見える。風がさらりと黒髪を揺らし、そっと押さえる。
 何気なしに振り返るとそこには今いた神殿も大きいがさらに後ろに大きい建築物がある。
 その姿は神殿よりも大きいし、引けを取らないくらいに手が込んでいる。無論、そこはエルムスランドらしく「金がかかって」いるわけではないのだが。
 竜の寝殿。
 そこは魔物封印の折に使い果たした力を取り戻すべく、眠り続ける竜の寝所。その中に鎮座するのは当然のことながら双子竜だ。
 世界を救った竜たちを野ざらしにすることを人々は納得できなかったし、なにより友人たちを大事に思う英雄王は嫌がった。
 当時、全てに疲れていた人々だけれど、文句も言わず彼等の上に屋根を作ったのがそのはじまりだ。
 国力が整い、余裕が出てくるにつれ改修、増築を重ねて今では神の神殿よりも立派な姿がそこにはある。
 竜たちの眠りを妨げてはならないからたとえ王家の者でさえ、容易にそこにはいることができないエルムスランドの聖域。
 エルラはそちらへ深く一礼した。
 偉大なる竜たちよ―――どうかゆっくりお休みくださいますように。
 そして、彼女の一日はここからが本番なのだ。

※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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