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二章 3.朝のお話〜レスティーの場合〜
レスティーの朝は、早かったり遅かったりする。
前の日早く寝たら早く起きることもあるが、寝るのが遅ければ間違いなく遅い。
平均して早くないということだ。むしろ遅いと言った方がはやいが。
ふかふかのベッドで幸せそうな寝息を立てているのをみると、戦意が損なわれてしまう。
フィニーはすう、と深呼吸しながら自らに言い聞かせた。
(さあ――起こしますわ! 起こしますわよ! 起こしますったらッ)
そうでもしないと気合が入らないのだ。
「姫様っ! 朝ですわよ!」
「すーすー」
起きない。
フィニーは頑張って声をかけたつもりだが、その声は普段より少し小さかったのだから当然だ。
「姫様ーっ」
いつも通りの声。
「朝食に遅れてしまいますわよ! 料理長が怒りますわっ」
「くー。すぴー」
まだ起きない。
「姫様ー」
情けない顔でフィニーは呟く。
レスティーの幸せな寝顔を見ていると、強く起こす気力がなくなってしまう。
レスティーをどう起こそうか戦闘態勢に入りつつ考える。
どうしてだろう?
何故毎日起こしにかかっているはずなのにうまい方法を思いつくことができないのは。
「ひーめーさーまー」
幸せに眠る姫君を軽く揺すって耳元で呼びかける。
レスティーの眠りは深い。起きる気配がまったくない。
早いときには目覚める日もあるが、今日は遅いパターンのようだ。
「料理長が怒り狂いますわよーぉ」
ゆさゆさゆさ。
「すー。くぴー」
「姫様ぁ」
フィニーがどうしようかと途方にくれかけた時、寝室の扉がゆっくり開いた。
音はない――が、気配でそれを知ってフィニーは振り返った。
この部屋に簡単に入り込める者は少ない。
「エルラ」
その数少ない一人の名をフィニーは呼んだ。
「おはよう、エルラ」
「おはよう」
短く答えて、エルラはレスティーとフィニーを交互に見た。
「まだ目覚められないの、姫様は」
「ええ」
答えながら、フィニーはやっと気付いた。
(うまい方法を考え付かないのはエルラがかわりに起こしてくれるからですわ!)
だからいい方法が思いつかないのだ。そうだ、そうに違いない。
一人で納得するフィニーを尻目にエルラはすたすたとベッドに近づいた。
「姫様! いつまで寝てらっしゃるのです!」
鋭い声で呼びかける。
「もう朝です!」
フィニーの呼びかけより数段大きい声だ。
それを耳元で聞かされて、さすがのレスティーも目を開いた。
「ううー」
寝ぼけ眼をこすりながら身を起こす。
「おはようございます。姫様」
「おはようございますぅー」
ふにゃふにゃした声で挨拶してよろよろ起き上がるレスティーをフィニーは慌てて支えた。
「姫様、ですからあれほど夜更かしはお控えくださいと……」
「説教は後にしてくださいな、エルラ。姫様の身支度が先ですわ」
ぴしゃんと、エルラに対しては言ってのけてフィニーはパタパタ走りはじめる。
レスティーはぼーっとベッドによっかかりながら目をこすっている。
「うにー。お着替えー」
「姫様! 何ですかその言葉づかいはっ! うにーって?」
「エルラ、後にしてくださいよー」
フィニーの言葉にそうそうとばかりにかっくんかっくん首を縦に振るレスティーに言いたいことは多々あったが――今は諦めて、エルラは沈黙を守ることにした。
いつもこんな感じでレスティーの朝は始まる。
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
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