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二章 6.おやつの前に

 感動的な面持ちで、エルラは熱弁を振るっていた。
「ああ! ようやく姫様がやる気になってくださった!」
「ですわねぇ〜」
 フィニーは半ばそれを聞き流しながら、泡だて器を動かす手を休めない。上の空の間延びした返答に、当然のことながらエルラは気づかず、口を動かし続けている。
 昼食の後、珍しくいそいそとレスティーが本を広げたのがその原因だ。
 あれから数時間、レスティーはじっと本を見続けている。
 しばらくそれを温かく見守っていた二人であったが、いつまでもそうしているわけにもいかないと最初に動き出したのはフィニーだった。
 この侍女は、じっとしていることが苦手らしい。
 いそいそと部屋に備え付けのミニキッチンに行きお菓子作りで暇をつぶそうとしている。
 「お茶菓子もできて暇つぶしに最高ですわよね」というのが彼女の言だ。
 単に貧乏性なだけかもしれない――高いお給金をもらっているのに、じっとしているのが申し訳ないだけだから。
 数代前の姫君の趣味が同じくお菓子作りだったので、ミニキッチンの設備は意外と整っている。
 使い勝手もよい――よくは知らないが、エルムスランド家にしては投資したのだろう。
「今までどれほど注意差し上げても、真面目に取り合ってくださらなかった姫様が――」
 エルラの口調は熱い。そりゃもう熱かった。
「はいはいー」
 まともに取り合おうともせずフィニーは適当に相づち。
 もう、この文言をどれだけ聞いただろう。きっと1度や2度じゃないと思う。数えてなんかいないけれど、きっと。
 エルラはしゃべるのは好きなのだが――本人が否定してもそうに違いないのだが、残念ながら語彙が少ない。
 堂堂巡りは日常茶飯事。なので適当に相づちを打ちながらフィニーは手を休めない。
 フィニーはフィニーで手元に集中しているのでそれどころでないのだし。
「そろそろかしら?」
 スポンジが冷えたか確認して、フィニーは満足げにうなずいた。
 ボウルの中のクリームもピンとツノがたってちょうどいい具合。 
 うきうきしながらスポンジを切り分けて、手際よくクリームをのせる。趣味と実益を兼ねているのだろう。
 頼んでもらってきた木苺のジャムを間に挟んで、更に上からクリーム。スポンジを上にのせて、全体をクリームでコーティングする。
「さて、こんなもので」
 飾りも何もないシンプルなケーキだが、まあこんなものだろう。
 うきうきしたままフィニーはお茶を入れようとして、そこではたと気づいた。
 おずおずと探るように、姫様の様子をうかがう。
 レスティーはまだじーっと本と見つめあっている。
「ええと、まだ読書中ですわね」
 今お茶を淹れても駄目だろう。きっと気づいてもらえないに違いない。
「おあづけ……ですわ」
 ちょっと残念そうに呟く。
 むぅ、とうなって彼女はとりあえず冷気の魔法をケーキにかけた。
 きっと姫様が小腹をすかせるころには冷えていることだろう。
「……できればすぐ味見をしたいのですけど」

※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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