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二章 9.王家の食卓・エルラの受難

 サナヴァ・エルムスランドが一日でもっとも楽しみにしているのは、夕食の時間である。
 愛する家族との食事。これに勝る幸せはないと、彼は思う。
 国王は幸せそうな顔をしている。
 のはいいんだが。
 居心地悪くエルラは身動ぎした。臣下の分際で国王と食事を共にするなど、何度経験しても慣れるわけがない。
 気さくに誘われるだけ迷惑だ――と思うのは不遜だが。
 それにしても、やはり他国の者からすればとんでもない話だ。
 無論、エルムスランド人にとってもそのとんでもなさはあまり変わらない。特にレッツィ家を含む貴族階級の者は。
 「黙っていればばれないよ」サナヴァ王は笑うが、そんな問題ではない――断じて。
 王も王妃も――当然のことながら姫も、まったく気にしたそぶりもなく食事を続けている。
 それに混じってにこやかに食事できるフィニーがエルラには信じられなかった。
 何でこんなことになってしまったのだろう。
 遠い目をしてエルラは考える。
 最初は三日ほど前だったろうか。冗談のように国王が言ったのだ。「君たちも一緒にどうだい?」にこやかに告げられたことを覚えている。
 力の限りご遠慮したのはエルラだけで、フィニーはどうなってもよさそうに静観していた。
 王の攻撃はすさまじいとエルラは思う。
 「ほらほら、いいからいいから」にこにこと手招きして、目配せで妻に応援を要請する。「こちらにいらっしゃいな」王妃もにっこり。
 その段階で、まだエルラは屈しなかった。
 どうでもよさそうに静観していたフィニーがなぜか「くっ」とこらえるような声を出したのは気になったが。
 ともかくとどめはレスティーだった。「きましょうよー」にっこり。
 それにフィニーが屈しないわけはない。むしろ屈しなかったらおかしい。
 エルラも集中攻撃に精神的によろよろだったので、屈してしまった。
 一度座って食事を共にすると、あとは簡単だ。次からは断りきれなくなる。三日前からこの状態だ。
 父に知られればなんと言うだろう。きっとしかられるだろう。卒倒するかもしれない――ばれなければいいなどと、子供のいたずらじゃあるまいし、ああ……。
 エルラは心中ため息を漏らす。
 王家の食卓といえど、そこまで上等な食材など使われていない。
 だが、それはそれなりに手の込んだ代物だ。まずくはない――むしろおいしい。
 だがしかし味がわからない。気の持ちようだとは思う。
 談笑する国王一家とフィニー。
 なぜこの状況に順応できるんだフィニー。何度も尋ねたが答えは変わらない。「無愛想にしても仕方ないですわよ?」間違ってはないと思う。思うが――根本的などこかが違うと思うのは気のせいだろうか。
 ひどく居心地が悪い。
 そりゃあもう居心地が悪い。
 緊張のし過ぎで料理の味すらわからない。むしろろくに食事が喉を通らない。
(ダイエットになるかもしれない……)
 それくらいしかフォローできない自分が悲しい。
 エルラは周囲にばれないようにため息を漏らした。
 そりゃあ体重は気になるが、体力まで落ちてもらったら商売上がったりなので、エルラはステーキを切り分けてなんとか口に突っ込んだ。

※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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