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四章 16.王妃の秘密

 レスティーの言い方にフィニーは苦笑した。見慣れたその表情にレスティーは安心感を覚える。
「それに、なんでフィニーは元に戻れたの?」
 そして、不思議そうに問いかける。実際不思議でたまらない――レスティーは記憶をさかのぼった。
「元に戻れないから大変って言ってたのに」
 言う口がついとがってしまうのは、嘘をつかれたと感じたからだ。
 フィニーはレスティーの思いに気付いて、落ち着かせるようにゆっくりと首を横に振った。
「どこからどういえばいいのか、私も迷っているんですの。まず、はじめに先ほどの質問に答えますわね――準備はよろしいかしら?」
 フィニーに言われてレスティーは一も二もなくうなずいた。
 拳を握りしめて、身を乗り出す。準備は万端だ。
「エルラ?」
 フィニーは姫様の様子にゆっくりうなずいてからエルラに視線を移した。
 フィニーが自分にもきちんと問いかけてくれたので、エルラは意外そうに目を見開く。姫様がうなずいたらすぐにも言いそうな彼女なのに。
 よろしいかと言われたら、断じてよろしくはない。与えられた情報はとうにエルラの許容量を超えている。頭は常に回転しているけれど空回り。
 これまでの驚きを素直に表現しろと言われれば、迷わず意味もなく叫ぶだろう。それをしないのは仕える主の前でみっともなく叫ぶわけにはいかない、その思いが頭にこびりついてるからだ。
 これ以上余計な情報が増えたら、気が触れたりはしないだろうか?
 どこか冷静な部分が聞いては駄目だと告げている。最初、竜の化身だと思っていたフィニーは言ったのだ――「驚く準備はよろしいかしら?」
 今回もあえて準備などと言う表現をする以上、なにかとんでもないことを言うつもりなんだろう、
 そんなことを考えてしまえる理性を呪いたかった。いっそ気付かねば前と同じで「これ以上何に驚けばいいんだ」と言えたのに。
 エルラは頭を振って、姫様を見た。不思議そうな顔で振り返っている。
 異を唱えるのは諦めるしかないようだった。エルラだって気になっていることだし、それにフィニーほどではないにしてもエルラも姫様には弱いのだ。
 それでも心の準備として、いったん瞳を閉じて息を整える。戦いに挑む――そんなつもりで気持ちを落ち着けた。
 すっと冷えるように心が冴え渡った、その瞬間にエルラは再び目を見開く。
 平常心、と心で唱えて豪華なメンバーを視界に収める。国王と王妃と姫様と竜の化身。そんな中に自分が混じっている不幸はあとで嘆こう。
「大丈夫だ」
 うなずくとフィニーはにっこりとうなずいた。その微笑みに大人じみた余裕を感じるのは「彼女の本来の」姿を知ってしまったからだろうか。
「フィニー」
 すぐに口を開かない彼女にレスティーがせがむように呼びかける。その声に大人の余裕を消して、彼女は顔をくしゃりと歪めた。
「私、ルディア様には生まれたときからお世話になっていますから」
 それを聞いてすぐさまぽん、と手を打ったのはレスティーだ。
「それって幼なじみ、っていうんですよね!」
 苦い顔をしていたフィニーがそれを聞いて目を点にする。
「え、あの、姫様……」
「レスティー、です」
 動揺した声で慣れ親しんだ呼び名を呼んで、即座に訂正されたフィニーは明らかに困惑した顔で目をぱちぱちさせた。
「レスティー様、あの、あのですね」
 困ったように呼びかけながら救いを求めて視線を迷わせる。王妃には笑顔でブロックされ、エルラは唖然と動きを止めている――残るは。
「ナーインアクダ! 何を貴方は笑ってるんですの!」
「……その姿の時は、陛下の方がいいかな……ッ?」
「貴方の呼び名などどうでもいいですわよ」
 肩をぷるぷるさせて大爆笑だけは押しとどめている王が何とか言うと、フィニーは柳眉を上げてぴしゃりとした口振りで吐き捨てる。
「友人が困っていたら助けるものじゃありませんこと?」
「いや、いや……だってさあ」
 フィニーに睨み付けられて、王は笑いを何とか収める。
「うちの娘はやっぱりいいねえ」
「そんなことはずっと前からわかってますわよ」
 そのフィニーの様子に王はにんまりした。笑い出さなかったのはそれをしたら友人が怒り狂いそうだと感じたから。
「何かおかしいことを言ったかしら」
 レスティーが不思議そうに呟くのに、王は「少しね」と優しく答えた。
「もうちょっと別のことに目を向けてごらん」
 父の言葉にレスティーはますます不思議顔。眉間にしわを寄せて首を傾げる。
「だって、幼なじみなんでしょう?」
 動揺からは脱却できたフィニーは苦笑いを浮かべてゆっくり首を横に振った。
「違うの?」
「幼なじみ、と言うと語弊がありますわ。より正確に言うならばルディア様は私の両親がお仕えしている方の、曾孫に当たる方なのです」
「えーと」
「つまり、エルラはエルムスランド家に代々お仕えする家柄ですが、私はルディア様のおばあさまのご実家に代々お仕えする家柄なのですわ」
「……なるほど」
 少し考えて、レスティーは納得したようにうなずいた。
「ですから幼なじみと言うには語弊があります。そのご縁もありまして、私は姫様のお側仕えに志願したんです」
「そうだったんですか」
 うんうんとレスティーはうなずく。
「よくわかりましたあ」
 満足げに言って、それからすぐにレスティーははっとした。
「そうだ、それで何でフィニーはフィニーに戻れたの?」
 忘れるところでした、と漏らすレスティーにフィニーの苦笑は否応なく深まる。
「さてここでご質問です。ひめ――レスティー様は、私の本当の姿をもうご存じですわね?」
「竜さんですね」
 その質問にはレスティーはすぐさま答えた。
「私の父も竜です。そのお仕えする方がどんな方がおわかりになりますか?」
「竜さんは神様に……あれ?」
 答える途中でレスティーは気付く。顔を母に向けて、困惑顔でフィニーと見比べた。
「ええとええと」
 ぶつぶつ呟いて、最後はフィニーに問うようなまなざしを向け、
「お母様は神様のこどものこどものこども?」
 尋ねる。フィニーはうなずいた。
「そういう方ですから、竜よりももっと強い力をお持ちです」
「そんなこともないですよ」
 にこやかに王妃は首を横に振る。
「今は魔物の結界で私の力も弱まっていますし」
「それでも、フィニーを元に戻すことができたなんてすごいです」
 レスティーは満面の笑みでもって母を讃えた。王妃はおっとり微笑み、フィニーをちらりと見る。
「あの姿のままでは、大騒ぎになりますから」
「皆、すごい剣幕だったからね」
 妻の言葉に王が答え、姫様がそれにふんふんうなずき、フィニーが仕方なさそうに笑う。
 その様子を呆然と眺めていたエルラは……。
 ゆっくりと頭に染み渡った告げられた内容に気が遠くなるのを感じた。

2005.01.18 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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