IndexNovelうそつきでーと

2.よるのでーと

 ――おまえ今日暇か?
 そんなメールに気付いたのは六時を少し回ったところだった。
「暇じゃないわよ」
 ぼそっと呟いて、春菜は返信を開始した。
 憎々しげにキーを叩き、最後に送信ボタンを強く押す。メールが飛んでいくアニメーションが終わったのを確認して、春菜は作業を再開した。
 山になったアンケート用紙のコメントの打ち込みは、地味かつ面倒な作業だ。集計自体が終わっているのは幸いだが、コメント未入力の山と入力済みの山を確認して計算すると七時ぐらいまでの残業は確実ではないかと思える。
 基本的に春菜は残業をしない主義だ。
 春菜が勤めるのは、県内に数カ所事業所を持っているくらいのそこまで大きくない会社だ。不況と言われるこの世の中、あまり残業しないようにとお達しが下っているということもある。
 だが月曜日までなんて期限を切られれば、終わらなければ残るしかない。
 それがなければ、金曜日の夜とはいえ暇なのだが。
 同僚達は帰って行く中、一人残されていく自分を哀れに思う。
 残される春菜に着飾った格好に着替えた同僚が明るい声で別れを告げていくのだ。私に声をかける暇があるなら早く帰れ、と何度言いかけたか。
 そこは大人なのでぐっとこらえて、当たり障りなく笑顔で返したのだが。
 彼氏や彼女とデートの同僚もいるだろうし、いそいそと家に帰る上司もいる。飲み会だと張り切ってた者もいた。
 フロアに残される春菜にはうらやましい限りだ。
 夏ならばいざ知らず、大分秋めいてきた。六時を過ぎるとすでに外は薄暗く、そんな中一人、打ち込み作業だ。虚しくもなるし、苛立ってもくる。
「暇だったから押しつけられたんだってば」
 ぶつぶつ言いながら、パソコンのキーをかちかち叩く。昼過ぎから続けているために、手首が疲れてきた。暗い中一人残るのは何となく嫌なので、早く終わらせたいとほとんど休むことなくコメントを打ち込み続けているが、延々とそれを続けているとだんだん気持ち悪くなってくる。
 大体十五分に一回ほど、手を止めて伸びをする。
 返信した次の小休止に携帯をのぞいてみれば、またメールが来ていた。
 フリップを開いて、内容を確認する。
 受信フォルダを開けた中、上から二番目の「飲み会」フォルダにメールあり。フォルダの振り分け設定は、合コンや飲み会の幹事の相方のメールアドレスしかない。
 ――デートか?
「違うっつーの」
 一人の気楽さで、思わず春菜は毒づいた。再び強いキータッチで「残業だ馬鹿」とだけ打ち込んだ。
 メール相手の修平は、春菜の想い人だ。単純に幹事の相方だから、わざわざ別フォルダを作ってるわけじゃない。
 想い人相手だからって、かわいげのないことしか言えない自分に腹が立つけれど、メールの内容が内容だ。ここは冷たく返事しても許されるだろう――多分。
 春菜は自分にそう言い聞かせて、送信ボタンをえいと押した。
「金曜の夜に暇で悪いか、だから集計を押しつけられたんだよ。私がデートしたいのはお前だっちゅーに」
 ぶつぶつぼやきながら、休憩前より速い速度で入力を再開する。
 ぼやいているようなことを、かわいく寂しそうに言うような女が修平の好みなんだろう。
 知り合って結構な時間が過ぎた。間近で行動を見ていればそれくらいのことはわかる。相手の好みがわかろうともかわいげのない性格はいかんともしがたい。
 みんなが盛り上がっている片隅で、ひっそりとしているような女の子――それが、修平の好みなのだ。いつでもそういう子に彼は優しく声をかけていたから。
 いろんな方向に愛想を振りまいて、特定の誰かに執着することがない辺りが遊び人なんだなーと思うけど。
 彼の好みになるべく努力をするのは無駄だと春菜はすでに悟っている。なぜならば、修平の好みと春菜は正反対だから。
 今更性格が変わりましたなんて、そんなことあり得ない。
 そんなことを思いながら苛立ちに任せて入力を続けていたら、いつの間にか三十分が経過していた。ふっと我に返ったのは最後の一枚にたどり着いたからだ。
 ふーっと息を吐いて、印刷にかける。久々に命令を受けたプリンタが休止状態から目覚める音がする。
 少し時間がかかりそうだと伸びをしたあと、春菜は久々に携帯に目を向けた。メールが三件に着信が一件。
 一件ずつ連絡をよこしたのは修平だった。
 メールは春菜の返信直後に何時に終わりそうか問うていて、着信は十分ほど前だった。
「残業してるってメールしたでしょーが」
 ようやく用紙をはき出し始めたプリンタの音を聞きながら、春菜はメールを返すことにした。
 ――七時過ぎには終わるけど、何?
 聞くまでもなく、用件は次の会合のことだろうとは思うけど。中高、そして会社関連のメンバーまでを動員して、二人で企画する合コンや飲み会の設定はほぼ二ヶ月に一度の割合。
 そろそろ、次の話が出てもいい頃だった。
 印刷が終わった用紙をプリンタまで取りに行って、机に戻る。
 誤字脱字のチェックが終われば完了。入力途中に多少言い回しが変わっている可能性はあるが、そこまでの厳密さは求められていない。
 赤ペンを手に読み進め、数カ所チェックし、修正して再印刷。もう一度さらりと確認したあと、印刷した用紙とデータを落としたフロッピーディスクを主任の机に置いた。
 ぐるぐると右腕を回しながら自分のデスクに戻って、後片付け。携帯をポケットに突っ込みマグカップを洗いフロアの電気を消して、着替えて会社を出たのは予想通りの時間だった。
 冷たい風にぶるりと身を震わせて歩道を歩き始めたところで、携帯を忘れたことに春菜は気付いた。
「おい」
 修平以外に返信をしていないのでやばい。さっと身を翻したところで聞き覚えがある声が聞こえて、春菜は思わず足を止めた。
 声が聞こえた方を振り向くと、やっぱりそこには見知った姿がある。
 春菜の会社から道路を挟んだ斜め向かいのコーヒーショップから出てきたものと思われるのは、五年来の友人である三元修平――つまりは、春菜の想い人。
「え、な。修平?」
「おう。おつかれ」
「どしたの、あんた――そんなかっこ」
 修平が身につけているのは、大学時代には見慣れていた私服だった。就職してこの方、少なくとも平日に限って言えば彼がスーツを着ていないことはなかったのに。
「いやー、今日は定時に上がれたもんだから、ちょっと着替えてきた」
「着替えてきた、ってあんた――ああ、ちょっと待って。携帯取りに戻ってくるから」
 言いたいことは多々あるけれど、とりあえず春菜は会社にとって返した。
 足早に歩きながら、どうして修平が待ちかまえていたのかと首をひねる。
 今までにないパターン、考えられない事態だった。
 春菜が修平と二人きりになるなんて、年に一度あるだけ。それは春のイベントのようなものだから、こんな時期に修平が一人春菜の前に現れるわけがわからない。
 知り合って五年も経てば気心は知れるし、打ち合わせだとしてもメールや電話で済んでしまう。
 だから春菜の中で違和感がむくむくと膨れあがる。
 更衣室のロッカーの中、制服のポケットに入れてあった携帯をとりだしてしばし考える――が、答えなんて出るわけがなかった。
 修平の会社と春菜の会社はそう離れていない。だけど、わざわざ着替えて戻ってくるほど修平は暇人ではないはずだ。
 答えのでない自問をするのに飽きて、春菜は手早く届いていたメールに返事を送った。
 心の片隅であり得ない期待をしそうな自分を自嘲して、気持ちを切り替えて再び外に出る。
「お待たせ」
「遅い」
「いや遅いとか言われてもね」
 今日は風が冷たいしきついんだよ、ぶつぶつ文句を言う修平は、本当に寒そうに肩を持ち上げるようにしている。
「で、何しに来たの」
「何しに来たのはないよなー。しっかし、今日寒いな」
 つっけんどんに問いかけたのは、早いところ修平がここに来た理由を知りたいからだ。期待する心に釘を打ってもらわないと、困る。
 春菜の期待を別の意味で裏切る修平は、無意味にジャンプをしたあと歩き始める。
「とりあえず、飯行くか」
「修平、あのさ、人の予定も聞かずに」
「聞いた。残業終わったら何もないんだろ?」
「悪かったな」
「お前が暇なの、珍しいんじゃね?」
「そんなことない」
 渋々春菜は修平の後を追った。
 細い路地を数度折れて、修平が入ろうとしたのはビルとビルとの間にある、こぢんまりとした二階建ての一階部分のテナントだ。
「行くぞ」
「え、うん」
 中は狭苦しい料理屋。空いた席に目星をつけて、修平はさっさと奥のテーブル席に着いた。
「ここ、たまに会社のヤツと来るんだ。うまいぜ」
 正面に腰を下ろす春菜ににやりと笑いかける。ふうんとうなずきながら春菜は店内を見回した。
 狭いが、雰囲気は悪くない。仕事帰りのサラリーマンが大勢を占めていてうるさいが、春菜はそんな空気も嫌いではなかった。
「とりあえず生」
「あ、私も」
 やってきた店員にとりあえず飲み物だけを注文して、修平はおしぼりで手を拭いた。春菜も手を伸ばしたそれはタオル地で、ほどよい温かさを持っている。
「もう温かいおしぼりの時期だよね」
「だなー。外、寒かったしな」
「悪かったわね、待たせて。でも何で突然いたわけ?」
 春菜は修平の真意を探るべく、軽く身を乗り出して彼の顔を見据えた。剣呑な何かでも感じたのか、それに対して修平は身を引いて逃れる。
「言ったろ、定時に上がれたからだって」
「で、金曜の夜に暇な自分を直視するのが怖かった――と?」
「お前、俺をどういう目で見てるんだ」
「こういう目」
 ため息を吐き出しながら修平は顔をそらした。ぶつぶつと何か文句を言っている。
「家に帰って着替えたあと、虚しくなって出てきたんでしょ? そうじゃなきゃ、わざわざ家に帰ったあと出掛けたくないんじゃない?」
「お前ねえ。せっかくこんな色男が突然待ってたんだからもっと色気のある想像できねえの?」
「修平だしなー」
「どういう意味だ」
 ギロリと自分を睨む修平に臆せず、春菜は彼を真っ直ぐ睨み返した。
「私とあんたの間に色気なんてあったことがこれまであった?」
「あー。……未だかつてない、気がするな?」
 しばしの沈黙のあと、修平は大人しくなった。あっさりと認められたのは喜ぶべきなのか悲しむべきなのか――おそらくは後者だろう。
 本当は、年に一度だけ。エイプリルフールにだけは「今日だけは恋人同士だ」とか言って、それなりに盛り上がりはするんだけど。
 それだってお互いがネタと理解した上での、ままごとのような「こいびとごっこ」だ。
「でしょ?」
「だなー。よし今夜は色気を増量するか」
「何馬鹿言ってんのあんた」
 ビールがやってきて、とりあえず春菜は修平が注文するのに任せる。「何か食べたいものがあるか?」の問いかけに、春菜はサラダの追加だけ告げた。
「おつかれさまー」
 なんて声を掛け合いながら軽く掲げたジョッキを合わせる。修平は豪快にビールを三分の一ほど空けると満足げに笑った。
「この一杯がさいこーだなー」
「そろそろ寒いけどね」
「寒くてもまずはビールだろ」
 修平に対して春菜と言えばちびりとジョッキに口をつけて、割り箸を手に取る。
 慎重に箸を割ると、「相変わらず器用だな」と修平は笑った。きれいに真っ二つの春菜の箸に比べて修平のそれはきれいとはとても言えない。
「修平が不器用なだけじゃない?」
「なんだとー?」
 怒ったような言い方をするものの、修平の顔は笑っている。
 本当に色気からほど遠い。残念な反面、気楽に会話できることこそが春菜が彼を好きな理由でもある。
「私と修平が面と向かってご飯食べるなんてすごい希少価値が高いことじゃない?」
 付け合わせはほうれん草の煮浸し。それを少し箸でつまみながら春菜はそう切り出す。
「先月食ったろ」
「じゃなくて、二人でよ」
「二人では、ないな」
「でっしょ? わざわざ待ち伏せるなんて、面と向かってしか話せないような重大かつ急ぎの用件があんの? 相談事があっても聞くしかできないけど」
 修平は春菜と同じく煮浸しを口にした瞬間、何とも言い難い妙な顔で一瞬絶句した。
「悪い、どういう想像したかわからないけど、お前の期待には添えそうにない」
「そう? ならいいんだけど」
 だとすればなんだろう?
 仕事場が近くになったのは、たまたま内定がうまく出たからだ。さりげなく修平に就職希望の会社を聞いたことはあるけれど、それで希望をがらっと変えたつもりは春菜にはない。
 就職先が決まって新しい住まいを求める時も、やはり修平にさりげなく住むところを尋ねてみたが、それを聞いて近くに住もうとは思わなかった。
 逆に、お互いの会社を挟んだ正反対に引っ越したくらいだ。修平が好みのかわいらしくて大人しい彼女を連れて歩いている姿などを目撃したら、きっと落ち込むだろうから。
 目撃でもした方がきっぱり諦めがつくのかもしれないけど、そこまでの踏ん切りはつかない。
 修平が「お前馬鹿なことを言うなあ」なんて笑う前に、春菜は素早く意見を引っ込めた。引っ込めても修平は笑い出しそうな顔で自分を見ているのがわかって、少しばかり憮然とする。
「――なによ?」
「睨むなよ。まあ、お前が言ったのも大幅に違ってはないぜ。せっかく休みの前だろ? 定時で終わってせっかくだから飲みに行くかといろんなヤツにメールしてみたワケよ」
「うん」
「それが全部断られたわけだ」
「あら、ご愁傷様」
 軽い春菜の相づちを背景にいくつかの料理が届き、修平は箸を手に取りながら「おう」なんてうなずく。
「当日夕方に連絡するあんたが悪いと思うけど」
「そうだな」
「で、私にってわけか」
「結果的にはな。デートだ飲み会だ打ち上げだって、一人くらい暇なヤツがいないのかと思ったぜ。それで渋々家に戻って、ラーメンでも食うかと湯を沸かしながらテレビつけたら、中秋の名月とか言ってたわけだ」
「へー」
「で、外を見たら月がきれいだったわけ」
「そうなの?」
「そうなんだよ」
 重々しくうなずきながら、修平はサラダを口に運んだ。咀嚼して飲み込んで、ビールを一口。
「お前、気付いてなかったのか?」
 対する春菜もサラダをつついて、次に軟骨からあげに手を伸ばしつつ唇をとがらせた。
「悪い?」
「そんなこと言ってないだろ。ま、そんなわけで花見がありなら月見もありかなと思って、お前にメールしたわけだ」
「はぁ?」
「間抜けな声出すなよ」
 呆れた声を漏らす修平を春菜はまじまじと見た。一瞬なんだと思って、その後にじわじわと実感が追いつく。
 春の恒例イベントを思い出して、一瞬浮上した直後に落ち込む。
 花見と同じように月見でデートのふりをしようなんて、どちらにしてもやっぱり「こいびとごっこ」の域を出ない。すぐに思い至った自分を褒めればいいのかののしればいいのか咄嗟にわからなかった。
「どうせなら最初に思い出してくれたらいうことないんだけどねー?」
 うまく笑えたか自信がないまま軽い口ぶりで吐き出した春菜の言葉に、修平は特に反応しなかった。
 牛すじの煮込みをつつき始めながらの平然とした顔に、大丈夫なようだと春菜は胸をなで下ろした。
「俺はお前こそ捕まらないと思ったしな。まさか暇してるとは思わなかったぜ」
「あんたの中で私はどういう認識なわけよ。大体私は暇だったんじゃなくて残業してたの!」
「お前が捕まるとはなー」
「ちょっと修平、聞きなさいよっ?」
 面白がっている表情で無視を決め込む修平に気を取り直していつも通りに春菜は突っ込む。
 気取らずに遠慮もない関係は、春菜にとって気楽で大切なもの。
 この空気を壊したくなくて一歩を踏み出せない自分は臆病だと自覚している。友人は多いものの恋愛経験の少ない自分がこんなに意気地なしだとは、思ってもなかったのに。
 二人きりで食べるのがまずかったのか、数種類の料理を平らげただけでもうお腹がいっぱいになってしまった。
 貴重な時間が過ぎ去るのが惜しくて、せめて別れを先延ばしにしようと春菜がデザートを注文すると修平はそれに便乗した。
「今日はありがとね修平」
 やがてやってきたアイスをすくいながら、名残惜しさを押し隠して春菜は呟く。
「いや、まだ今日は終わってないぜ」
「ハシゴすんの?」
「それでもいいけど、今日は月見だぜ? メインイベントはこれからだろ」
「あー、そういえばそんなこと言ってたわね」
「忘れるなよ」
「月見名目で飲みたかったのかと思ったわ」
 つめてえなーと修平は嘆く真似をする。
「それでもいいっちゃいいけど。名目にするにはもったいないほど月がきれいだし、せっかくだからぶらっと散歩して帰ろうぜ」
「帰ろうって言っても、家、正反対の方向だけど」
「そういや、そうだったな」
 にっこり笑顔の提案に春菜が鋭い突っ込みを入れると、修平は虚を突かれたように口籠もってそれから再びにやりとした。
「たまには家まで送るか」
「っはあ?」
「何でいちいちそういう反応するかなお前は。月夜の散歩なんてロマンティックねえくらい言えないのか?」
 今日は色気増量って言っただろなんて言われても困ってしまう。
「言って欲しい?」
 だから、春菜がすごみをきかせて睨み付けると、修平はほんの少し身を引いた。
 反射的にそんなことをしてしまった後に、「ロマンティック」なんて素直に言う子が修平の好みなんだろうなと気付いてしまったけれど、そんなこと言えるわけがない。
「いや、それはなんか、おっそろしいな」
「……あんたは私をなんだと思ってんのよ」
「人物評は間違ってないつもりだぞ?」
 つまりそれは好みと正反対の女という位置付けか。
 落ち込んだものの、そんなことはとうの昔にわかっている。
 気を取り直すまでの時間はそうかからなかった。ため息とともに頬杖をついて、春菜は苦笑する。
「せっかくだから送ってもらおうかしら。こんなこと二度とないかもだし?」
「失礼なヤツだな、俺は紳士だぞ」
「どこがよ。送り狼になろうとしたら、蹴り倒して訴え出るからね?」
「お前こそ俺をなんだと思ってんだよ」
「正しい認識を持ってると思うけど?」
 釈然としない顔でもって剣呑なぼやきを漏らす修平に軽く拳で突っ込みを入れて、春菜はすっと立ち上がる。
「よし、じゃあ夜の散歩としゃれ込みますかー」
「おうよ」
 仲良くレジで精算して、入る前よりもさらに冷え込んだ外に出る。
 星がよく見えないのはいつものことだけど、確かに空には丸い月。
「あー、確かにきれいねー」
 修平の好みにはなれないだろうけれどそれなりに素直に呟き、さりげなくいつもより距離を詰めて修平の隣を歩く。
 夜の散歩を夜のデートに置き換えて。
「しっかし寒いわねー」
 なんて、距離の近さの言い訳をして。
 いつもより近い修平の気配を感じ取りながら、春菜は密かに胸を躍らせた。

2006.10.14 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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