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5.ほわいとでーと1

 やっぱり、と春菜は思う。
 修平はやっぱり後悔しているんじゃないか、と。
 いつも通りの毎日を過ごすうちに、二月が終わろうとしている。一年で一番短い月だというのもあるだろうが、それにしても一ヶ月――いや、半月だ、半月が経つのは恐ろしく早かった。
 バレンタイン当日、郵便局前で待ち合わせて。春菜にしては珍しく素直に修平にチョコレートを手渡したのだ。
 彼は意外そうな顔をしていたから、その素直さは成功していたに違いない。差し出した紙袋を受け取った修平は意外そうに目を見開いた後、くしゃりと笑った。
「ありがとな」
 笑顔でぽんと軽く春菜の頭を撫でたものだから、春菜は思わずその手を振り払った。
「あ――あんた、何してんのよいきなり!」
 見せかけの素直さが吹っ飛んで、けんか腰に怒鳴りつけた。飛び退いて毛を逆立てた猫のように騒ぐ春菜を見て、修平の笑みもいつものからかうようなそれになる。
「何って、撫でたけど?」
「そんなことわかるわよ!」
「だったら聞くなよ」
「そうじゃなくって……」
 春菜が問題にしたかったのは、どうしていきなりそんなスキンシップをしてきたかということだ。うーっとうなりながら睨み付けた修平は平然としたもの。
 にやにや笑いが気にくわなくて春菜は修平の横腹をつついて反撃してやった。
「うあっ。おまッ……! 何を!」
「脇腹をつついてやったのよ」
「んなもんわかるわ! くそう、なんだかなー。ちくしょう」
 口汚くぶつぶつ言った後、修平は春菜の腕を強引に引っ張って歩き始めた。
 腕を組むと言うほどのものではなく、半ば引きずるような形。その扱いに耐えかねた春菜は途中で腕をもぎはなして修平の横についた。
 たどり着いたのは焼鳥屋だった。テーブル席が四つとカウンターが五席のこぢんまりとした居酒屋風。ビールに日本酒、焼酎にチューハイ。おしゃれなカクテルなんて一品もない、硬派な男の店。
 バレンタインデー当日に、仮にも付き合っていることになっている男女が来るような店でもなく、カウンターに並んで座ってちびりちびりとお酒を飲みながら食事するのも全くデートらしくない。
「うまいだろここ」
 だが、満足げに修平が主張するだけあって確かにおいしい店ではあった。
 手羽、ずり、せせり。それからつくね、ねぎまやささみ。野菜串も各種取りそろえてある。皿には山盛りのキャベツが盛ってあって、それだけでも腹にたまる。
 たれを絡めながらシャキシャキとしたキャベツを食べていると、デートというよりは仕事帰りのサラリーマンの夕食のようだと春菜は空しくなった。
 焼鳥屋よりも大衆居酒屋の方がデートするならまだましだ。
 自分たちらしいと言えばらしいチョイスと言うべきなのか、やはりお前は対象外だという無言のアピールなのか、はたまた単純に修平はおいしい店を教えたかっただけなのか――複雑な思いを今は置いておこうと努力しつつ、春菜は確かにおいしい料理の数々を一つ一つ味わった。
 それから二週間。修平からはその後音沙汰なく、春菜も連絡するのが恐ろしくて。
 ホワイトデーまでも二週間。春菜は自分からどうなっているとも聞けず、カレンダーをめくってため息を一つ落とした。

2007.02.28 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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