IndexNovel魔法少女と外の魔物

2.

 予想通り、打ち合わせにならないまま解散して、二人は帰路に着いた。
 年季の入った二階建ての洋館が二人の自宅だ。金属製の囲いで囲まれたその屋敷は明らかに周囲とは一線を画している。
 門にはそこだけやけに日本的な木製の表札がかかっており、慎ましやかに住人の姓を告げている。
 だけれどその表札の反対側にかかった看板の方が表札よりもはっきりと持ち主の名を告げていた。
 有限会社 寿岐経営コンサルタント。
 夏とはいえ、帰ってきてみたら日はすでに暮れかけている。
「ただいまぁ」
 口々に帰宅を告げると、奥からバタバタと女性が一人現れた。
「お帰りなさい! 二人とも。ねね、いいからちょっと来てみてっ」
 彼女は勢いよく言うと、はちきれんばかりの笑顔で二人を手招きした。
「どーしたんだよ、年甲斐もなく」
「うわ、しつれーねー。私まだ二十代でも通用するんだからっ」
「高校生の息子がいてどこが二十代だって?」
 竜斗の突っ込みにその母・深澄は悲しげに奈由に顔を向けた。
「奈由ちゃん、聞いた? この口の悪さは誰に似たのかしら?」
「さ、さあ」
「私じゃないでしょ、ゆーとさんでもないでしょ……」
 うーん、と考え込んで深澄は驚いたように竜斗を見やった。
「まっ、まさか橋の下で拾われてきたの?!」
「俺に聞くなよ」
「ねぇ、どう思う? 奈由ちゃん」
「どう考えてもりゅーとの髪の色はおじさん似じゃないかな」
 この母子のじゃれあいはいつものことなので半ば苦笑しながら奈由はとりあえずそう言っておく。
「深澄、ほどほどにしなさい」
「はぁーい」
 奥の間からの声に深澄はぺろりと舌を出して、深澄は小声で竜斗にぼやいた。
「あんたのせいよ」
「なんでだよ」
 深澄は言うだけ言ってからあっさりと続けた。
「ま、いいから二人ともいらっしゃいな。今日はとにかくビッグニュースがあるんだから」
 うれしそうな笑顔を見せる。
 高校生の子供がいる割りに、まるで子供のような無邪気な微笑だ。
 一体なんだろう、と戸惑って顔を見合わせる子供たちを先導して深澄は二人を先導して居間に向かった。
 居間では、四人の人物が彼らを待ち構えていた。
 奈由の父で深澄の兄である勝栄と、その妻の志織。竜斗の父のユート。後のもう一人は――。
 まず、赤茶けた髪が目が向いた。そんな色は日本では滅多に見るものじゃない――いろんな色のヘアカラーがあふれ返っている時代だし、皆無ではないけれども。
 ただ、この家には天然でその色をもつ者が二名ほど存在する。それにうりふたつの色に竜斗は軽く息をのんだ。
「とーさん、まさか隠し子……」
「とりゃあ!」
 深澄は勢いよく息子の頭に手刀を振り下ろした。
「うわ、深澄さんそれちょっとやりすぎ」
「いーのいーの」
 奈由の言葉に深澄は軽く手を振った。
 もしかしたら痛かったのかもしれない。それを横目に何気なく奈由はその顔を観察した。
 例の、コスプレ少女だ。さすがに着替えている。半そでの白いシャツにミニスカ。年のころは竜斗や奈由と同じくらいに見える。
 少女が叔父と並んで立っているのを見ると、竜斗の言葉もあながち的外れでないような気がした。
「りゅーとじゃないけど、おじさんにちょっと似てるよねぇ」
「そんなに私は信用ないのかな」
 わずかに苦笑してユートはぼやく。
「私は昔から深澄一筋なのに」
「私もよ、ゆーとさん」
「バカップル……」
 呟く息子に一睨みを浴びせて二人はじっと見つめあった。
 呆れたようにため息を漏らした後、気を取り直すように咳払いをしてから勝栄は少女を指し示した。
「ユート君の親戚の娘さんだ」
「えと、どうも」
 戸惑い顔だった少女が、曖昧ににへらっと笑って頭を下げる。
「あれ? 日本語わかるんだ?」
 さっきは変な言葉を喋っていたのに。
 不思議に思って奈由が問い掛けると、彼女はこくんとうなずいた。
「喋るのは、なんとか。兄に習いました」
「えーと、なんつったっけ? とーさんの国……なんかあんまり聞かない名前だったけど」
 竜斗はぶつぶつ呟いて、少女に視線を移す。
「そこからきたのか? わざわざ」
「ええ……まあ」
 会話がぴたりと途切れる。
 やがて沈黙を見かねたのか志織が口をはさんだ。
「まずは自己紹介したらどう?」
「あーと、そっか」
 竜斗はぽんと手を打った。
「そうだよな、自己紹介。俺は竜斗」
「奈由よ。よろしくね」
 にっこり二人が挨拶すると、少女もにっこりと笑った。
「サエルです。サエル・アットロード」
 再び沈黙が襲いかかったので、志織は再度フォローした。
「サエルちゃんは日本文化の研究のために留学してきたのよ」
「研究……なんかかっこいいわねぇ」
 母の言葉に奈由は感心して呟いた。
(だったら、昼間のあれも日本研究?)
 奈由は先ほどの彼女の様子を思い出し、あまりかっこよくないと思い直す。
「サエルちゃんは日本ははじめてなんだから、あなたたちちゃーんと教えてあげるのよ。彼女の部屋は奈由の隣の空き部屋だからね」
「え? 一緒に暮らすんだ?」
「なんだと思った?」
 志織の言葉に奈由は驚いた声を上げる。にっこりと聞き返したのは深澄だった。
「あー、うん。そういう流れだと思ったけど……初耳だったからさ」
 しどろもどろで奈由が呟くと勝栄はやれやれとため息をつく。
「だから私は子供たちにちゃんと話しておけと言ったのに……」
「結局黙っていたあなたも私も同罪よ」
 くすくす笑いながら志織がいうと、勝栄は苦い顔をした。
「うむ、しかし深澄が……」
「何であなたはそう深澄ちゃんに弱いのかしらねぇ」
 勝栄はうっと黙り込んだ。
「あ、そうそう。言い忘れるところだったわ。サエルちゃんは九月からあなたたちと同じ学校に通うことになってるからね。休み中に案内してあげればいいんじゃないかしら」
 夫の表情に気付かぬ振りをして志織が付け足す。
 竜斗と奈由は一度顔を見合わせて、それから少女に視線を移した。

※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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