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□へたれ勇者の嘆き
「はあぁ〜」
レウス・オードマンは最近、世の不条理を嘆くことが極端に多くなった。
年は十八。整った容貌。明るい金の髪に青い瞳。見た目の割にもてた試しがないのは、そのまとう空気がまずいのだろう。
レウスは今一人とぼとぼと森の中を歩いている。力なく丸めた背中に哀愁を漂わせながら。
せっかく見た目がよくても気弱な表情が常ならば、女性は彼に近寄ることなく去っていく。
あんまり上質ではない鎧に、さして高価とは思えない剣。それでもきりりとした顔をしてたっていれば、それなりに人目を引くと思われる。
レウスは剣士だ。腕は悪くない方だと自分では思っているし、実際そう腕は悪くない。一般的に強い男性というものを女性は好むものなのだが、それでも、何故か、もてない。
その原因は剣の腕でなく、彼からにじみ出るへたれオーラの原因、いまいちはっきりしない性格だろう。
「はーぁ」
レウスは歩きながら何度も何度もため息を漏らす。
『暗いヤツだな』
「おかげさまで」
やがて聞こえた冷たい言葉にレウスは嫌みに聞こえるように願いながら答えた。
重ねて言おう。レウスは今一人とぼとぼと森の中を歩いている。気乗りしない足取りで、のろのろした速度だ。
「明るい気分になろうって方が無理だと俺は思うね」
ため息を一つ。
「スキップする気分になれるはずもない」
『誰もそうしろとは言っていない。というかそんなヤツ願い下げだ』
「よし」
その姿無き声の主の言葉にレウスはやる気を出したようだった。
ちょっとだけ張り切った声を上げて、特徴的に足を動かす。落ち着いた物腰の青年が誰もいない森の中でスキップ。
それはもう異常な光景。自分でも恥ずかしくてたまらなかったけれどレウスは頑張った。
「じゃあ、これで」
そのまま少し進んで、レウスは気恥ずかしそうな顔でそれをやめた。
「君とはお別れ、ってことで」
『そんなわけにいくか』
「さっき願い下げって言っただろ?」
『こんな所に俺を放置していく気か! 呪うぞ?』
レウスは右手を挙げて、忌々しそうな視線を腕輪に向けた。
「うっわ……呪うって、禍々しいアイテムのようじゃないか」
『アイテム言うな』
腕輪から不機嫌な声が漏れてくる。
「じゃあ、禍々しい腕輪」
『それも却下だ』
「わがままだなー」
『シュドノと呼ぶのを許してやると言っているだろうが!』
「腕輪なんかに偉そうにそんなこと言われてほいほい従うのもなぁ」
腕輪ことシュドノは、舌打ちのような音をさせた。
『腕輪じゃないと言ってる』
「いや本来の姿ってのがどんなのか知らないけどね」
レウスは呟いた。
この腕輪はある日突然空から降ってきた。それだけじゃない。
落ちて地面に受け止められる前に、レウスの頭にたんこぶを作っていった。よく死ななかったものだとレウスは思う。
あの衝撃は、死んでもおかしくなかった――その時に死んでいたらいくらかましだったのかなあとは、最近よく思うことだった。
人生に悲観しているわけではないから死にたい訳じゃない。だけど降ってきた偉そうな腕輪にこき使われるよりは、その時死んでいた方がいくらかましだったんじゃあないかなーと。
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
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