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カミはマモノ

「ねえ、ゆーくん。私思うんだけど」
 そう言った空の顔は、彼女にしてはやけに真剣な色を帯びていた。
「ん?」
 問いかけながら訝しむ。
 空は決してそんな真面目な顔をするキャラじゃない。
 何でそんな顔をするやら。考えられることと言えば、帰る前に文化委員の仕事をやってきたときに何かあったんだろうけど。
 委員会が終わった辺りで合流して、帰りはじめて。
 空がやけに静かなときはたまにあることだから、しばらくお互い何も喋っていなくてそれでいきなり真面目な顔だ。
 続く言葉を俺は待った。
「あのさ、思うんだけど。カミはマモノみたいだよね」
「……は?」
 言われて聞き返す俺の声が間抜けに響いた。
 そりゃあ、空が考えるのはたいてい妙なことだけど、それはなんだ。
 神は魔物って。ボケてるボケてるとは思ってたけど、とうとうそんなファンタジックな思考回路も手に入れてしまったと?
「なんでまた、そんなこと?」
 委員会に行く前は、いつも通りだった。
 だとしたら何か考えはじめたのは委員会の時か?
 文化委員会。その中で「神が魔物」なんて結論づけるなにかがありえるか……?
 首をひねりながら問いかけると空はひどく真面目な顔のまま再び口を開く。
「アンケートの集計したの」
「……うん?」
「全校生徒分ね。六百人くらいかな、それでね」
 空は何か重大なことを言うのだと言わんばかりにごくりとのどを鳴らした。
「手を切ったの」
「……は?」
 意味が分からなくて、空の手に視線をおろす。右手の中指と薬指に絆創膏が目について、それは確かに痛々しい。
「カミって怖いね……」
「……それってつまり、紙で手を切ったってことか?」
 脳内の変換がようやく正しいものに変わった気がした。
「うん」
「それで何で魔物」
 紙で手を切ることは俺も経験したことがある。
 しかし何でそれで魔物。魔物とか言うから、紙でなく神かと思うじゃないか。
「だって、普段は何の気無い顔をして、ふと気付くと襲いかかってくるんだよ。魔物みたいじゃない?」
「生きてない、紙は生きてないから。自分で動かないから」
 どういう発想力なんだそれは。
「えー、でもそんな感じに想像したら面白くない?」
「……怖いのか面白いのかどっちなのか聞いてもいいか?」
「えーと……無言で襲いかかられるよりは生きていた方が面白いよね?」
 言われて思わず手足が生えた紙の魔物を想像してしまう――俺の豊かじゃない想像力だと子供のイラストのように間抜けな姿しか思いつかなくて、それならまあ存在していても許しそうな気はしたけど。
「生きてたら逃げ出す奴とかいそうだな」
「そうだねー。相性とかもあるかも! 文具屋さんで気が合いそうな紙を買うの。通知表の紙と気が合わなかったら落ち込みそうだよねえ」
 空はうれしそうな顔でとても魔物とは思えない生きている紙について話しをはじめる。
「料金の明細書がやくざみたいだったらすごく嫌だよねえ〜」
 それにしても、この空の想像力はなんなんだろうな……。

2004.11.28 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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