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精霊使いと水の乙女

エピローグ

 俺たちが町に戻ると、町民は歓迎してくれた。
 捕らえた男はみんなして牢に押し込めて、カディは町を蝕む嫌な空気を追い払った。
「最初ッから、しとけよなー」
 ようやくぼやくとカディは苦笑する。
『でも、本来ならばらしちゃいけないんですよ私たち。正体』
「完全に開き直ってばらしたな、それにしちゃ」
 町は喜びで揺れていた。どこに潜んでいたんだか、わんさと人が現れて、俺たちをもてなすべく瞬く間に準備を整えた。
 町の中心の大広場。とはいえ、町の規模から言ってそう大きくはないが。
 俺たちを肴に騒いでやろうって腹なんだろう。
 カディは元の通り、周りには見えない状態になってふよふよしている。
『私、人を見る目はあるつもりなんです』
 おめがねにかなった、ってわけか? なんかあんまうれしくないのは何でだろ。
 風主と水主がカディとスィエンだからかもしれない。
 残りの地主と火主がまともならいいんだけど――あんま期待できないよな。半分がこんなだし。
 ま、そうほいほい会えるってもんじゃないんだ。余計なことは考えないでおこう。俺自身の精神衛生上のために。
 それはさておき、スィエン――水の乙女は町民にわんさと囲まれていた。
「大丈夫なのですか」
「何があったのですか」
 口々に問い掛けられるのに曖昧な笑みで応じている。しゃべろうとはしていない。しゃべればがらりとイメージが崩れることくらい自覚しているらしい。
 うん。レシアの説明と本人とはまったく印象が違うよな。
 水の乙女っていうのと、彼女とは絶対何か格段に違う。水主という存在と彼女と程には離れてないけど。
 大体なんで「だわ」なんだよ。なんで。
 思いつつ、料理を頬張ることは忘れない。
 やっぱ働いた後の食事は格別だ。
『しかしよく食べますよね、ソート』
「そりゃお前、精霊使いも体が資本だって」
『何かが間違っているような気がしますけど』
「気のせいだ」
 言い切ってやると、なぜかカディは黙り込んだ。
「ああ――こんなところにいらっしゃった」
 しばらくすると、後ろから声がかかった。聞き覚えのある声。うーんと、名前なんてったっけ? 町長だ。
「あ、どーもどーも」
 口の中のものを飲み込んで、ひらっと手を振る。
「まだきちんとお礼申し上げていませんでしたが、この度は誠にありがとうございました」
 なんか態度変わってやんの。
「いやいや。どうもどうも」
『どうも以外になにかないんですか?』
 突っ込むなっつの。俺はカディを睨みつける。
「どうかなさいました?」
「いやいやなんでも」
「それで、あの男なんですが、目覚めたら何か尋問をしたいとか?」
「あー、まー、精霊使いとしての学術的探究心で」
 男はレシアの魔法で眠らされている。いつ目覚めるかはっきりとはわからないけど、彼女いわく「かなり効いたわよ」ってことなので遅いかもしれない。
「目、覚ましそうなのか?」
 それでも聞いてみると案の定町長は頭を振った。ええと、名前……マチス。確かマチスだ。
「いえ、まだです」
 顔をしかめて、言う。
「起きて暴れられても困りますけど――結局、なんだったんですか?あれは」
「えっ?」
 あれっつうと、壁やら精霊やらがなんでああでこうで……ぬむむ。
 眉間にしわを寄ってしまう。
「水の乙女が井戸を使えるようにしてくれましたし、君のそばにいる変な風の精霊が何かしてくれたから空気も問題がないとレシアが言ってましたが」
『へ……変な精霊?』
 なにやらショック受けてるカディは置いておいて。
 俺はどう説明しようか考えて、何も説明できないことに気付いた。眉間にしわを寄せたままちょっと考えて悟る。
「あー、ええっと」
 どういやいいんだか。
「あの男が、水の乙女の力にただならぬものを感じて、その力を奪い取るべく今回の件を巻き起こした、って感じだと……思う。いや、詳しく聞いたわけじゃないけどその辺は間違いない」
「ほう」
 マチスはとりあえず納得したみたいだった。
 レシアも、中途半端じゃなくてこれくらい最初から言っててくれれば、俺が余計に言うことなかったのに。
「まあ、異常がなくなったのなら、私はどうでもいいですがね。後は管轄外なので」
「はー、そーすか」
「で、あの男なんですが。早馬で知らせたので近いうちに引取りが来るんです。まあ、とはいえ今日の今日ではありませんけど。尋問するのならお早めにお願いしますね」
 じゃ、楽しんでください。
 言い残してマチスは去っていく。スィエン――水の乙女の方へ。
 うーん。なんか、知らないことは幸せなんだろうなぁ。「だわ」なのになぁ。
『変な精霊……なんで私が変で、スィエンはああも人心を掌握しているんですか? ねぇ、ソート――絶対私の方がまともですよね。レシアさんの感覚がおかしいんですよね?』
「お前もある意味十分おかしいよ」
『何でですかっ?』
 声を張り上げるカディを無視して、俺は料理に目を向けた。
 いやうまいって。急いで準備したのにな。
 素朴な味わいを心ゆくまで堪能してやるぜ。ふふ。
『ちょっと! ソートっ。聞いてます? なに食べ物に心奪われてるんですか? 食欲魔人って呼んじゃいますよ?』
「いいから後にしてくれ。熱いうちに熱いものは食べなきゃならないし、冷たいものは冷たいうちに食べなきゃならないんだ」
『食べてるうちにどうやっても冷めるしぬるくなりますよ』
「その辺は気合でカバーだ」
『どういう気合ですかっ?』
 どう、もなにも気合は気合だ。
「てわけで、話は後だ」
『…ソートらしいですけどね…』
 呆れたようにため息をつくカディ。
 俺はともかく料理に没頭したのだった。

精霊使いと水の乙女 END
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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