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精霊使いと国境越え

 摘んだ花を口にくわえて蜜を吸う。
 吸った瞬間に柔らかな甘みが口の中一杯にひろがっ……柔らかな――甘み……広がっ……。
「………」
『どうしたんです? ソート』
 カディを無視して、俺は別の花弁を取った。 
 白い愛らしい花の蜜は今度こそ甘い――っあぁ!
「甘くないっ?」
 叫んでもう一つ。
「つーか苦いしっ」
 俺は呆然と花を見下ろした。
「ふーん」
 レシアは興味がなさそうに呟くが、これは由々しき事態だ。
 俺は何度も何度も同じ作業を繰り返した。そりゃもう、何度も。
 でも――やっぱり甘いはずの 蜜がどれも苦いことを結論付けるしかないことを悟る。
「なんでだ?」
「さあ」
『たまたまじゃないですか?』
 たまたまがこんなに続くかよ。
「そんなはずはない」
 カディを半ば睨みつけるようにして、俺は断言した。
「記憶違いなんじゃない? ほら――」
 レシアは俺をなだめるように口を開いて、少し考えて後を続けた。
「ほら、よく似た毒花とか!」
 ……そこでなんで毒なんだよ。
「よく似た花じゃ駄目なのか」
「苦いんでしょ?  毒っぽくない?  毒っぽいわよ!」
 力の限りレシアは言い放つ。
 こいつ、もしかして俺のこと嫌いなんじゃないだろうか?
 そんなことを思いながら、花をじっくりと見る。
 どう見たって、俺の知る蜜の花そのものだ。見間違うことなんて有り得ない。
 勘違い? 勘違いなんてするかよ。俺がこの花とどれだけ長く付き合ってると思ってんだ。
『まあ、いいじゃないですか。毒でもなんとかしますし』
「毒消しできるの? カディ」
 カディの言葉にレシアが聞いた。俺の注意も花からそれる。
『ええ。毒マニアが知り合いにいますから』
 にっこりとカディは断言するけど、毒マニアは解毒法に詳しいもんなのか?
「どーゆー知り合いだよ」
 もしや、地主やら火主がそうなんてオチじゃないだろうな?
 俺はふと思いついた疑念にちょっと恐怖した。だとするとしゃれにならないぞ。
『あの人も懲りませんからねぇ』
「だから、どういう知り合いだよ」
 カディは溜め息をついて、視線をどこか遠くにやった。
『本気じゃなくてもやりすぎでしょうし』
「何をやんだよ? つーか、誰だそれは!」
 まさか、本気で精霊主の誰かとか言わないよな? な!
『ソートの知らない人ですよ』
 そりゃ、毒マニアとなんか知り合っていたくない。それよりも――それ精霊主とか言わないよな。頼むから違うといえ。
「残りの精霊主のどっちかとかいわないよな?」
 とりあえず、聞いてみる。『そうですよ』とか言ったら泣くぞ、絶対泣けてくる。
 偉大な精霊主の一人がカディで、もう一人が「だわ」なスィエンで、さらに残りが毒マニアだって言ったら、泣く。泣いてやるからな、恥も外面もなく。
『まさか。違いますよ』
「そーか。だったらいいが」
 あっさりとカディは答えた。むしろ俺の言葉を不思議に思っているような顔で。
 よかった。あっさり肯定されなくて。
「意外と精霊王だったら号泣する?」
 ……金輪際、誰も信用できなくなると思う。
 レシアが余計なことを言うので、カディを見ると、驚いたように目をぱちくりしている。
 って、おい。まさかっ!
『いや、それだけは断じてありえませんよ』
 だったら意味深な反応すんじゃねえ。
 あー。びびった。本気で泣いてやるところだったぞ。
『あの人、肉体派ですからねぇ。机に座ってどうこうって人ではないです』
「そりゃよかった」
 心の底から俺は言った。
 いやしかし、そもそも精霊にゃ実体ないんじゃないか?
 それなのに肉体派ってなんだよ。もしかして……前と同じように笑えない冗談のつもりか?
 本気で笑えないから、やめろよなそれ。
 まあ、いいけどさ。害はないから。
「じゃ、そろそろ進みましょ。日が暮れる前に町に着きたいし」
「そーだな」
 レシアの言葉に俺はうなずいて、俺たちは再び町を目指して歩き始めた。

※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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