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精霊使いと国境越え

 ようやく町の姿を目にしたときには、日は沈みかけていた。
 ぎりぎり、明るいうちにはつけるだろう。俺たちは黙って足を急がせた。
 レシアが声を上げたのはその途中――町に向かい、足を急がせてしばらく経ってからのことだ。
「誰だろ? あれ」
 指差す先を見ると、一人の青年がそこにいる。
 町からは、まだ中途半端な距離がある。
 青年はこちらに背を向けて町の方を向いていた。微動だにしない。俺たちに気付いた風もない。
 その背中は、どこか寂しげに見える。
 まあ、日の沈みかけた時間帯がそう見せているだけかもしれないけど。
 ちょうど向かっている方向の、道の端。歩を進めるとともにその背中が近くなってくる。
 やっぱり青年は身動きする様子もなく、その場で立ちすくんでいるままだ。
「どーかしました?」
 俺はついその背中に呼びかけた。
「ちょっと、ソート。何いきなり呼びかけてるのよ」
 咎めるようにレシアが言うのを視界の端に収めながら、俺は彼の答えを待った。
 青年はゆっくりと振り返った。
 若い男だ。不思議そうな顔でこっちをじっと見る。
 返答はない。
 かわりに、カディが息を呑む気配。
『何でこんなところにいるんです?』
 知り合いかよ?
 俺はカディを振り返った。驚きをその顔に貼り付けて、カディは青年を見据えている。
『何やってるんですか?』
「……何、て」
 青年はぽそっと言うと、もと見ていたほうをちらりと見て、カディに視線を戻した。
「いや……」
『出不精の貴方がこんなところにいるなんて!』
「………」
 カディの言葉に青年は沈黙を返す。
「カディ、どういう知り合いなんだ?」
 俺は青年をじっくり見つめた。
 茶髪に、深い闇色の瞳。髪は――問答無用で短い。
 短いんだよ。
 精霊使いは原則的に髪が長い。何でか知らないけど長い。俺の髪だって男にしちゃあ長い。
 髪が長ければ確実に精霊を見れるわけじゃないが、髪が短い精霊使いなんて存在しない。
 なのに、青年はしっかりとカディのいる場所を把握している。
 俺の問いに、カディは視線を彷徨わせた。
『え? ええ……ええーと、あのですね』
「精霊使い?」
 しどろもどろでぶつぶつ言うカディから青年は視線を移した。
 俺を見て、言葉少なく尋ねてくる。
「ああ。そーだけど」
「………」
 青年はこくんと一つうなずいた。
「精霊使いがどーかしたの?」
 レシアが興味深そうに青年に問い掛けた。
 彼はもう一つこくんとうなずく。
「……チーク」
 ぽそっと呟く。
「え?」
「何?」
「チーク」
 青年は自分を指差した。どうやら自己紹介のつもりらしい。
 どーも、無口な人らしくて、対処に困るんだけど。
「俺はソート」
「レシアよ」
 俺達も名乗って、
「……よろしく」
「ああ。よろしく」
「よろしくね」
 挨拶を交わす。
『ああー、ええっとだからー』
 カディはまーだなんかぶつぶつ言っている。
 青年はそのカディを指差した。
「同僚」
「ふーん」
 俺は何気なくうなずいた。
「そっか。カディの同僚……あーっ? 同僚ッ?」
「………同僚」
 俺の言葉に彼は深くうなずいた。
 ちょっと待て!
 カディの同僚って! 同僚って――――。

※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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