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精霊使いと国境越え

『だから、えーとですね彼は……』
 カディはまだぶつぶつ言っている。
「同僚」
 念を押すかのように青年がもう一度カディを指差す。
『ええ、そうなんです。彼は同僚……』
 言いかけて、そこでカディは驚きで目を見張った。
『はいっ? 同僚――っ? 何言ってるんですか、チークっ!』
 裏返った声を出してカディはあたふた手を振り回した。
『同僚だなんて』
 普段の声でぽそりと呟いて、青年を見据える。
『私が何と言おうか必死に考えていたのに』
「嘘、よくない」
 カディは片眉をあげた。
『そうですけどね。もしソート達が悪人だったらどうするんですか』
 青年はびっくりしたように目を見開いて、俺とレシアを交互に見た。
「………」
 それから、黙ってカディを見つめる。しばらく沈黙したまま見つめあっていたが――少ししてカディは肩をすくめた。
『確かに有り得ませんけどね。そんなこと』
 カディの言葉に青年は満足げに一つうなずく。カディはその様子に嘆息して、俺の方を見る。
『予想はついていると思いますが』
 そう切り出されても――なあ?
 カディの同僚ってことは、つまり火か土の精霊主ってことだ。
 とりあえず仮にそれを納得しよう。とりあえずは。
 でも、この人どー見ても人間なんだよ! 人間ッ!
 その時点で納得できねーって!
 そんな俺の心を知らぬげにカディは続けてくる。
『彼――チークは私の同僚の一人。地主です』
 やっぱりそーだっつのか!
 叫びたいのをこらえて深呼吸。
 頑張れ俺。ガッツだ俺。こらえろ俺。
 呪文のように唱えてみる。
「でもさ、カディ」
 レシアはカディの姿を探すようにどこかへ視線をさまよわせてから、青年を差し示した。
「この人どー見ても人間じゃない? ……触れるし」
 差し示すどころかぺたんと触れて、彼女は驚いたように念を押してくる。
「触れるんだけど!」
 さわんなよ、いきなり。
 突っ込むのをこらえて青年を見ると、彼は気にした素振りもなくぼへーとしている。
「精霊じゃありえないわよ!」
 言い放つレシアを困った風に見るとカディはぽそっとつぶやいた。
『まあ、仮にも精霊主ですし』
 ……ちょっと待て、カディ。
 俺は深呼吸をして、考えをまとめようとする。
 今、なんかどうも聞き捨てならんことを聞いた気がするんだけどな。
 俺はカディをじーっと睨みつけた。
「なんつった? お前」
『はい? ですから、仮にも精霊主ですし』
 青年とカディとを見比べる。どうみたって半透明な精霊にしか見えないカディと、精霊にはとても見えない青年。
「ちょっと、聞いていいか?」
 俺は怒りを押さえて静かに呟く。
『はい?』
 カディはきょとんとした。
「つまり――」
 声に険がこもっている――それが自覚できる。
「つまり、それはアレか? カディ」
『アレって何ですか?』
 何ですかじゃないって。
 俺は怒鳴りたくなるのをこらえて、深呼吸したあと尋ねた。
「精霊主なら、実体持てるって、そういう話か?」
『ええ。そういうことです』
 あっさり言ってのけるカディを俺はびしっと指差した。
「ちょっと待て! じゃ、これまで俺が人前でついお前に話し掛けて――変な目で見られたり後ろ指差されたりしたのって、全く意味のない話になるってことか? なあ?」
 俺の言葉にカディは目を丸くする。
「そうだな」
 まずぽそっと答えたのは、無口なはずの青年だった。
「そーなのかっ!」
『そうですねぇ』
 うなずいたな? うなずきやがったなお前っ?
「お前今すぐ実体を持て! すぐさま首をしめてやるっ!」
『は? 何でですか? 何怒ってるんですかソート』
 何を怒ってるかだとー?
 おまえが街中で話し掛けてきたせいで何度俺が屈辱を受けたと思ってるんだ?
『私がなにかしましたか?』
「本気で言ってるのか?」
『本気ですよ』
 迷いなくきっぱりとカディはうなずいた。
 ……本気で言ってんだろうな、くそ。
 俺はカディの首をしめるのを諦めて、青年に視線を移した。
「で、その精霊主の一人がなんだってこんなところに?」
『そうですよ。何でこんなところにいるんですか? チーク』
 青年はちょっと顔をしかめた。
 言いにくい話なのか――それとも、ただたくさん喋るのが嫌なだけなのか。
 後者である方に一票、だな。

※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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