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精霊使いと国境越え

 青年――チークはじーと俺を見つめた。
 男にじっと見つめられても、困る。
 まあ――女見つめられても余計困るだろうけど。
 残念ながら男と見つめ合う趣味はないんで、俺は見つめる代わりに睨みつけてやった。まあ、傍目から見て大差ないだろうけど、こーゆーのは気の持ちようってもんだ。
「なに見つめあってんのよ」
 だーから、気の持ちようなんだっつに。
 レシアに反論代わりに肩をすくめて「さあ」と言っておく。
 なんら感情の見えないぼーっとした瞳から、少なくとも俺は何の意思も読み取れなかった。
 カディなら別かもしれないけど。
 初対面で無言で意思疎通をはかれって、そりゃ無理ってもんだろ?
『チーク、一体何がしたいんです?』
 カディがしびれを切らして言わなかったら、きっと何時間でも見つめ合う羽目になっていたと思う。
「精霊使い」
 カディの問いに彼はぼそっと答える。
『は?』
 カディが間の抜けた声を出す――カディも別に易々と意思疎通がはかれるもんでないらしい。
 チークは次いで自分を指差した。
「精霊」
『はあ』
 カディは気の抜けた声を出すと、チークの意思を確認するかのようにじっと彼を見据える。
『……もしかして、精霊使いなんだからソートが自分の考えを察してくれると思ってるわけじゃ』
 こくん、と首肯するのを見て、カディは弱々しく続けた。
『あるわけ、ですね?』
 こくん。
 カディは疲れたように笑った。
『八割がた無理ですよ』
「?」
『第一にそもそもチーク、貴方の考えはよくわかりません』
 チークはそれには首を傾げる。
『第二にいくら精霊使いが精霊の意をはかる術に長けていても、それは彼等の思考が比較的単純だからです』
 今度は一つうなずいた。
『第三に。空腹状態のソートにそんな高等な真似できませんよ』
「ちょっと待て?」
 俺の叫びは無視して、チークは初めて劇的に表情を動かした。
 見開いた瞳で俺を見る。
「なんなんだよ、その反応はッ!」
『ええ、そういうわけですよ』
 力を込めてカディが断言する。
 おまえ、俺をどういう目で――。
『満腹に近ければ話は別ですけどね』
「なあ、それはフォローなのか? もしかして」
 そうですよ、なんてきっぱりうなずくなッ。
 覚えてろよ。いつか……
 心に熱く誓いながら、俺はなにやら衝撃を受けてるっぽいチークに視線を戻す。
「笑えない冗談はおいといて」
『本気だったんですが』
「余計笑えねーよ」
『私が路銀がないですと注意しても注意しても、食事をとるために全財産を使い果たして野宿する羽目になった人の言うことではないですよ』
「野宿しても死なないけど食べなきゃ死ぬんだぞ」
 俺が断固として主張するとカディは何故か溜め息をひとつ。
『冬はどうするんですか』
「細かいな、おまえ」
『ソートが考えなしなだけですよ』
 議論しててもしかたない。
 俺はチークに視線を戻した。
「話してくれないとわかんないんだけどさ。全然」
 チークは顔をちょっとしかめた。
「……」
 いや、だから見つめられてもさ。
「………」
 だっから困るっつの。
「……………」
 だーかーらー。
「……………………」
 どうしろっつんだよー。
 黙ったまま視線で訴えかけられても困るんだって。
 俺がもう一度促そうとした瞬間、ようやく重い口をチークは開いた。
「…………乱れてる…………」
 その後には深い沈黙。
 それだけ言われてもわかるか? わからないだろ?
 むしろ余計わからんってば!

2005.05.06 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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