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精霊使いと国境越え
2.精霊の召喚
俺の予想よりも、この町は大きかった。
今まで抜けてきた国境の町は、国のはずれだからってワケか小規模なところが多かったんだけど、ここは違う。
「あんたねぇ、おのぼりさんじゃないんだから」
俺がきょろきょろしていると、レシアが呆れたように言った。
「そんな必死に料理屋探さなくっても」
「やっぱり、お前俺のこと激しく誤解してるだろレシア」
別に食堂探してたわけじゃないって――そりゃ、腹は減ってるけどさ。
「違うわけ?」
心底意外そうに答えられた。なんでだよ? おい。
「けっこうでかいなと思ってさ」
「この町?」
レシアにうなずく。彼女はそうねぇ、と軽く周囲に視線をやる。
「まあ、隣国に対する見栄なんじゃないかな?」
「見栄?」
「だってさ、大きいからラストーズ。ハーディスとしては見栄張りたいトコなんじゃない?」
「国土がでかけりゃいいってもんじゃないだろうけど」
「確かにね」
俺の故郷――フラストはそう大きくないが、他国よりは豊かだ。きっと国王陛下が有能な方だからだろう。
「大きいから余計に手が回らないってこともあるんじゃないかな。街道の整備とか杜撰なのよねぇ」
レシアは大きくため息を漏らす。
「おかげで旅しにくいったらもう」
「お前、ラストーズから来たのか?」
「言ってなかったっけ?」
「聞いてない」
俺はうなずいた。
まあ、俺だってフラスト出身だとか言ってないわけだし、お互い様ってことだけど。
「ハーディスの中心部に行くつもりだったのに、戻ってきちゃうとはねー。ソートと目的地が逆方向だとは思わなかったわ」
「俺、国境に向かうって言ってなかったか?」
「……そだっけ?」
『言ってましたよ』
カディは静かに声を降らせた。
「そだっけー?」
レシアは首をかしげる。
「まあ、どうせ一人で行っても迷うだけだし、こっちに戻ってこれただけで良しとしなきゃ」
「自慢げに言うなって」
俺は一人うんうんうなずいているレシアを呆れて見つめた。
「お前が一人旅って、相当無謀だよな」
「ひど。ちゃんと旅してるんだから」
あんなしっかりした街道を他意なく逸れられるってのはある意味大した才能だが、それじゃちゃんと旅してるとは言えないと思う。
「どこがだよ」
「ちゃんと普段は乗合馬車を使うんだから。迷いそうなところは。宿のおじさんが迷うわけないよなんて言うから信じてひどい目にあったわ。迷ったじゃないっ!」
「普通はまよわねーっつに」
「文句言いに行かなきゃ」
「だからー」
俺の言葉を聞かずにレシアは拳を握り締めて宣言する。
「まあ、水の乙女に出会えたのは迷ったおかげだけど」
会えてうれしかったわけか? あのスィエンに会えてうれしいのか? 精霊主だからか?
「ステキな伝説だったわよねー」
「ステキなのか?」
「ステキよー。しかも彼女が……ねぇ?」
意味ありげにこちらを見てくる。言いたいことはわかったのでうなずくと、レシアはふふふと笑った。
「貴重な体験をしたわ。今も貴重な体験真っ最中だけど」
俺たちの少し後を歩いているチークに視線をやり、満足げにレシアはうなずいた。
「ね?」
貴重だからいいってもんでもないだろう。
俺は同意を求められてちょっと悩んだが、曖昧にうなずくにとどめる。
「あ、宿は任せてね。前来た時に厄介になったトコなら顔きくから」
「おう」
レシアは少し懐かしそうに辺りを見回した。
大通り。
町の規模に見合った幅を持った通りで、ちらほらと露店が見える。
「なんか、ちょっと活気ないわねー。もう夕方だから? 前はもうちょっと違ったと思うけど」
「そうか?」
「ええ。まあいいけどね」
「いいのかよ」
俺の突っ込みをレシアは無視して、先導するように歩調を速める。
「こっちよ」
ちょっと後ろを振り返り手招きするので俺も少し歩くスピードを速めた。
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
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