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精霊使いと国境越え

 それにしても、あれだけ無口でよくこれまで過ごしてこれたもんだと思う。
 世界と同じだけくらい年を重ねてきているはずなのに、これまで無口で困ったことはなかったんだろうか。
 ――それとも。
 長い年月を経るに従って無口になっていったんだろうか?
 人間でも年を重ねるにつれ無口になっていく人種はいるという。それが彼にも同じように起きたのだったら、ものすごく無口でも納得できる気がする。
 長年培った性格をそう簡単に修正しろだなんて言われたら俺だって困る。
 そんなに長く生きていない俺でさえそうなんだ。世界の創世からずっと生きているはずのチークは余計にそうなんだろう。
 だからって、俺に意図を読めなんて言われても困るんだけどなー。
 とりあえずチークから視線を逸らして、ぼうっと辺りを見渡すと、たくさんの精霊の姿――視線を近くに戻すと少し不満げな顔をしたレシアがいる。
「あー」
「なによ、あーって」
 レシアはカディとスィエンから視線を移して、ちらりと横目で俺を睨む。
「なんとなく、うまいこといったんだなとはわかるわよ」
「俺もなんかうまいこといったんだなって事はよくわかるよ」
「あんたとチークの会話がわからないわよ」
「心配しなくても俺もわからない」
 レシアは顔をはっきりしかめて、こっちを向いた。
「なんか二人分かり合ったよーな空気が一瞬流れたと思ったけどね?」
「それは絶対気のせいだ」
 レシアは大げさにため息を付いた。
「で、正確にはどうなってるの?」
「とりあえず精霊たちは普通に戻ってるな――楽しそうにしてる」
「――精霊使いになりたいとは言わないけど、見ることくらい出来たら良かったと思うわ」
 レシアは精霊たちがいる方を見て、悔しそうに言う。気配しか分からないのはもどかしいのかも知れない。
 なんて声をかけていいかわからなくて、俺は同じようにそっちを見る。
 誰もしゃべらない。
 苦痛ではない沈黙がしばらく流れて、それからややしてレシアが口火を切った。
「んで、問題はあの男をどうするかってとこなんだけど」
 彼女はわきわきと拳を握ったり開いたりしながらきょろきょろした。
「あれよ、あの男がいる以上せっかく元に戻ってもまたおかしくなるのよね? 精霊」
「そうだな」
「ソートが歌いながらまた戻って、あの男を私がぶちのめすっていうのはどうかしら?」
「歌いながら歩けとっ?」
 レシアは真顔でうなずいて、俺はげんなりする。
「だって、あの男に対抗するにはソートが歌うのが良さそうじゃない?」
「言ってることはまともに聞こえるな」
「聞こえるだけじゃなくてまともよ」
 レシアは不満げに言うけれど、俺としてはあまりうなずきたくない。
 いくらあの男に対抗するためだからって、歌っている俺を差し置いてレシアが戦うってのはさ。
 歌いながら戦うなんて芸当は絶対無理だって事はわかる。剣を振りかぶって突進したって、絶対息が切れるだろうから。
 だからってのんびり歌ってレシアの戦うのを見ているだけというのも居心地が悪すぎる。
 それにあの男がまたあの歌で対抗するなら――見た目かなり妙な戦いになるんじゃないだろうか。
 それに――仮にも女の子を危険にさらすわけにもいかない。
「もうちょっと良い考えはないのかねぇ」
「向こうが精霊を味方に付けたら負けなんだから、ソートが頑張るしかないでしょ?」
「うーん」
 精霊使い同士の――あの男がそうだとするのなら、だけど――戦いはどっちがより多く味方を付けるか、が勝負だった。
 さっきの歌を歌えば――確かにいい勝負は出来そうだけど。
 師匠にばれたら、大目玉食らいそうなんだよなぁ。そりゃあ向こうがまっとうな手段をとっていないんだから、仕方ないんだけど。
「悩むことがあるの?」
 心の中で列挙した気乗りしない理由を順に言ったところでレシアは納得しない気がする。
「あるんだよ」
 師匠の意志に背くことと、精霊たちを救うことと。
 天秤に掛けたらどっちが重いだろう。
 カディの言う「効果のある」師匠の言う「精霊が好きな秘密の歌」――師匠がわざわざ影響が少ないだろうと言って別のものを教えてくれたことに意味がないとは思えない。
 でもカディ達がその同じ歌を教えてくれたのにも確かに意味がある。
 それは、俺を信用してくれているからなんだろう。
 精霊主が信用して教えてくれたんだ。師匠だっていきなりどついてくることなんかしない――よな?
 そうやって無理矢理に納得してみると、天秤はわずかに傾く。
「――でもまあ、仕方ないよな」
 遠く離れているからまさか師匠がそこまで察知しているなんて思えないし、もしばれていたならカディの口から説明してもらえばいいんだから。
「じゃ、決まりね?」
「気乗りしないけどな」
 最後の抵抗と嫌そうな声を出したつもりだっていうのにレシアは全く気にしない様子で、なにやらぶつぶつと呟き始める――なにか、計画を練っているようだった。
 歌う以上のことは出来そうにない俺は諦めて、体をうーんと伸ばしながら仰向けに体を倒した。
 ようやく舞うのをやめたカディとスィエンがこっちに近付いてくるのを気配で感じる。
「方針は決まったぞ」
 ちょっとだけ頭を持ち上げて言うと、カディは少し目を見開いた。
『基本方針は決まっていたように思いましたが?』
 わざわざ嫌みのように言ってくるのに、俺は「それよりちょっとだけ具体的にだ」とレシアのアイデアを伝えようと体を持ち上げる。
 そしていざ口を開こうとして、言うはずだった言葉を飲み込んだ。
 精霊主三人のさらに奥、楽しそうに踊っていた精霊の姿が頼りなく揺れるのが見えたから。
 耳を澄ましても、何も聞こえない。
 なのに精霊の姿はさっきの反対に少しずつ揺らぎながら薄くなっていく。
「……どういうことだ?」

※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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