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精霊使いと国境越え

エピローグ

「あり得ないわよ」
 呆然と宙を見つめたままだった俺たちだけど、そのままそこでそうしていたって意味がないってとりあえず寄り集まる。
「あり得ないわ」
「ああいう魔法もあるんだな、人が消えるなんて」
 俺が言うと、全員の注目が一気に集まる。
「あり得ないって言ったでしょ。あんなのあり得ないんだから」
 レシアは繰り言のようにあり得ないとまた繰り返し、カディは苦笑混じりの嘆息。
『ソート、貴方実は魔法に詳しくありませんね?』
「実はも何も、ほとんど知らないようなもんだよ」
『人間が突然姿を消す、というような魔法は普通人間には出来ないたぐいのモノですよ』
「そうなのか?」
「そうなのよ。理屈じゃできないことはないらしいけど、成功したって話は聞かないわね」
 レシアは「まあ、理論がある程度成立してるから全く無理じゃないんだろうけど」と前置き、
「あり得ないくらい大きな力が必要みたいだから。呪文もナシで全くの一人で、空間移動なんて無理。絶対無理。あり得ないくらい無理」
 しつこいくらいに無理と繰り返す。
「でも、ヤツは消えたろ」
「そうだけど納得いかないわよ」
『姿を隠したというわけでもなく、気配さえ断って――信じられない話ですね』
「でも見たからには信じるしかないだろ? どうにかして行き先をつかめないのか?」
 問いかけに顔を見合わせたレシアとカディは、同時に頭を横に振った。
「追いようもないわね、私には」
『人の居場所を探り出すような力は私にはありません』
『おなじくー』
 スィエンが二人のあとに続いて、チークがうなずいて同意をよこす。
「打つ手ナシ、か。後味わりぃな」
『そうですね――』
 俺達は誰ともなくため息を漏らした。
「いきなり消えられたらどっちに行ったか予想もつかないしな」
『だわねえ、まあ、なるようになるだわよ、きっと』
 お気楽にスィエンが請け負う。
「なるようになるって、またどこかでこっそり精霊が変になっていく、ってことだろー?」
『いや、まあそれはまあそれとして』
「それとするな。したら困るし」
 スィエンに突っ込むと、彼女は困ったような顔になる。
『前向きに考えましょう』
 スィエンに視線で助けを求められたカディはそうにっこり笑う。
『この場は、元に戻ったのですから。目的は果たしました』
「それはそうだけど……」
『あの男に関しては、この場限りの問題でもなさそうです。それについては――まあ、しかるべき所に相談しておきますから』
「しかるべき所に相談って……」
 精霊主が相談する相手って……誰だよ。
 突っ込みたいけど返答が怖くて、自粛する。
「じゃあ、まあ……とりあえず、後味が悪い上にわけわかんねーけど一段落って事で。打ち上げがてら帰還するか」
 誰にも異論がなかったので、そのまま歩き出す。
『打ち上げ! いい響きだわね〜』
 楽しげな声を上げてスィエンがついてきた気配。
『要するに食べることしか考えてないんですよね……』
「それがソートなんじゃない?」
 また好き勝手に言いながらカディとレシアもそのあとに続いたようだ。チークの声がないのは珍しいことじゃない。
 さあ、あの男が原因と見られる異常もきっと姿を消しただろうから、今度こそうまい料理にありつけるぞっと。

2005.05.06 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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