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精霊使いと魔法国家

1章 5.食堂で

 そこは予想していたような食堂だった。真ん中に大きなテーブル。
 テーブルの上には既に所狭しと食事が並んでいる。
「座って」
 遠慮なく座り込むオーガスさんに苦笑しながら、当主様は俺に言ってくれた。
 遠慮するといけないと思ったのか給仕も下がらせて、でっかいテーブルの真ん中に集まって座る。
「オーガスちゃん、その態度はみんないい気がしないんじゃないかと思うんだけど? 俺はかまわないんだけどさ」
「性分だ。というかちゃんはやめろちゃんは」
「俺も性分だもーん」
 オーガスさんはセルクさんを睨んだけど、食えないお兄さんはくねくねと身をよじらせる。
「気持ち悪いからそれもやめろ」
「えー」
「えーじゃないだろえーじゃ。お前もソートと知り合いなのか?」
 お兄さんは俺のことをちらっと見た。
「どういう説明だったら面白いと思う?」
「俺は説明に面白さなんぞかけらも求めてないんだが」
「えー」
「だからえーじゃない」
「気が短いんだからオーガスちゃんたら。まあまあ、ここは一つこのなんか珍しい取り合わせに乾杯しよう乾杯」
 おほほ、なんて笑いながらセルクさんはグラスを持ち上げる。
 オーガスさんの迫力にめげない辺りはやっぱりただ者じゃあないし、言動はレシアが言ったように段々変な人のそれになってきたように思える。
「はい、ソートちゃんも」
「ちゃんっ?」
「俺は仲良くなった人はちゃん付けで呼ぶ主義だよ」
 反射的に叫ぶとそれだけは何故か真顔でお兄さんは主張する。
 それは主義って言えるもんなのか……?
 変な人だ、かなり変な人だ。根は真面目そうな気がするけど、でも絶対変な人だ。
「あ、ちなみに俺のことはセルクちゃんって呼んでね? あとため口でよろしくー」
 認識を新たにしている間にセルクさんはそんなことを続けて、自分のグラスを俺の目の前のグラスに合わせて、喜々として「はいかんぱーい」とにっこり。
「ほら飲んだ飲んだ」
 さすがのオーガスさんも呆れた顔をしてグラスに口づけるので、俺もそれに習った。
「はい食べて食べて」
「いただきます」
「おかわりもあるから遠慮なく食べてねー」
 底の読めない相変わらずの笑顔でセルクさんは、大皿から手際よく料理を取り分けて俺の前に置く。
「はいどーぞ」
「……妙に手際いいな、セルク」
「もっと心の底から俺を讃えてくれたらオーガスちゃんにも取り分けてあげるよ?」
「不要だ――ソート、お前こんなのと親しくするのはやめておいた方がいいぞ」
「や、別に、知り合ったばかりだし」
 というか親しくなるつもりもそんなにないし。
 セルクさんは言わなかった部分まで悟ったらしい。
「がーん」
 なんて呟きながらショックを受けたような顔になる――演技だ。誰がなんと言おうとその「がーん」がすげえ演技くさい。
 オーガスさんは自分であちこちの皿から好きな料理を一通り取って、俺に笑いかける。
「そのバカは無視していいから、たんまりくっとけ」
 俺だってただ飯に関する限り遠慮するつもりはない。
 取り分けてもらったのはやわらかい肉のステーキに、ボリュームたっぷりの煮物、みずみずしいサラダ。
 温かいポタージュ、魚のムニエル。
 パスタが何種類か。
「どんどん食べてねー」
 オーガスさんのそのバカ発言にもめげずセルクさんはもとの笑顔で言う。
 自分の取り皿にも何種類か取り分けて、
「今日のコックのお薦めはお肉〜。北方クレスト産柔らか牛ステーキ。たっぷりの肉汁がじわりと口に広がるのをお楽しみくださーい」
 と実に楽しそうに解説する。
 ソースに絡めてステーキを口に頬ばるとじわっと肉のうまみが口中に広がった。甘みを帯びたソースが味を引き立てている。
「おいしい?」
 聞かれてうなずくとセルクさんはうれしそうに笑う。
「それはよかった」
『ソートは何でもおいしいと言いますけどね』
『食べてるときは幸せそうだわもんねー』
 突っ込めないのをいいことに言いたい放題言うなよ、お前ら。
「いや、そいつは舌は肥えてると思うぞ。何でもおいしそうに食うかもしれないが」
 言い返せない俺に変わって、豪快なオーガスさんはやっぱり豪快にセルクさんの目なんてお構いなしに二人に向けて突っ込む。
 思わずオーガスさんを見返すと彼は明らかに面白がっている表情で、ちょいちょいとカディを手招いた。
 眉を寄せながらカディがふわりと近寄ると、オーガスさんはこそこそと何か告げる。
 カディは不思議そうな顔をしながら、手を振って力を使った。
 風の精霊が部屋中を包み込む。
『何のつもりですか』
「外にはそのバカのバカっぽい声を流しとけ――使用人が聞き耳立ててる」
「人払いしたのにねー」
 困ったように言うセルクさんの顔は、困ったようには見えるけど何の困惑も見えなかった。
 俺はまじまじとその顔を見て、そして思い当たって、呟く。
「精霊使い?」
 精霊使いであるオーガスさんと知り合いだし、男にしてはセルクさんの髪はやけに長い。
 今まで全くカディ達のことを気にかけてなかったけど、オーガスさんの言動を不審に思わないのは実は見えてたからじゃないか?
「はっずれー」
 セルクさんは楽しげに否定した。
 だとしたら、レシアが手紙にカディ達のことを書いていたのか。
「精霊使いじゃないけど、見えるタチでねー」
「なるほど」
 解説されて納得した。
 精霊使いではないけれど精霊が見える、って人間は俺の知り合いにもいる。
 でも見えるしては完璧に精霊たちを無視していたのはなんでだろう。ラストーズが精霊使いを毛嫌いしてるからだろうか?
 それにしては精霊使いのオーガスさんを家に招いているようだけど。
「オーガスさんとは古い知り合いでね。あれはそう、俺がまだ若い頃だった……」
「お前の昔話はいらん」
「うわひど! これから若かりし頃の俺のうきうきどきどきの冒険話が……」
「脚色もいらねえ。このバカが待ち合わせのこの町にちょうどいたもんでいいように利用しただけだ」
「そんなっ。俺のことをもてあそんだのねッ?」
 訳の分からないノリで騒ぐセルクさんをオーガスさんは冷たく睨み据えた。
 ノリが悪いなーと勝手なことを言いながらセルクさんが表情を改める。
「まあ、俺も利があるから泊めてるんだけどね」
 ぽそっと呟いた一言は軽いノリが嘘のようにしたたか。どう考えても、こっちが本性だろ。
 じっと見ていると再びにへらと笑ったけど、騙されてやるもんか。
「ソートちゃんは、レシィちゃんからの手紙を持ってきてくれたんだよ」
「レシィ?」
「あれ、言ってなかったっけ? 可愛い女の子だよ。まあ妹みたいなモノかな」
「ほー」
「で、オーガスちゃんはソートちゃんとどういうお知り合い?」
『そうですよ、何で知り合いなんですか!』
 ここぞとばかりにカディがオーガスさんに詰め寄る。
 オーガスさんは俺を見てにっと口を歪めた。
「何でって言われてもなあ?」
 俺もうなずきを返した。何でって言われても、俺としたらふと気付いたときには知り合っていたとしか答えようがない。
 オーガスさんは師匠の古い知り合いで、俺がまだガキの頃から時々家に顔を出していた。
 どういう知り合いかって聞かれるのもまた困った話だ。
 師匠とオーガスさんは友人同士なのかもしれないけど、俺とオーガスさんは友人と言うにはなんか語弊がある。
 オーガスさんと会うのは本当に時たまだったし、そこまで親しく言葉を交わしたこともそんなにない気がする。
「まあなんとなく、どういう訳か知り合いのよーな……」
 ぶつぶつ呟くと、セルクさんはなるほどと何故かちゃんと納得したような顔でうなずいて、カディの方はと言えば納得いかなそうに顔をしかめている。
 オーガスさんは何故かとても楽しそうな顔で俺とカディとを見比べた。
「まあ、そんな感じだよなー」
「で、カディとオーガスさんは何で知り合い」
 カディに聞かれた質問をそっくりそのまま返してみると、納得いかなそうな顔だったカディが表情を消した。

2005.03.20 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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