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精霊使いと魔法国家

2章 ラストーズの事情

1.精霊たちと作戦会議1

 翌朝。
 目覚めてぼーっとしていたら扉を叩く音が聞こえて、慌てて顔を覗かせてみたらオーガスさんがいた。
「よう」
「おはよーございます」
「朝飯食いに行くぞ――準備しろ」
 オーガスさんは身支度が調っていない俺の様子を見て眉を寄せ、部屋に入り込むと後ろ手に扉を閉めベッドに遠慮なく座り込んだ。
『おはようだわねー、オーガス』
『部屋に入る前に一言断るとか出来ないんですか貴方』
「いーじゃねえか男同士。何でお前そんなに細かいんだよカディ」
『作法の問題でしょう?』
 早速近づいていったカディとオーガスさんの会話が始まる。二人は仲が悪いんじゃないかと何となく気付きつつ、俺は身支度を調えた。
「よし、いくぞー」
 俺の準備が終わったことに目敏く気付いたオーガスさんは、ひょいと立ち上がって部屋を出る。俺も慌ててその後を追った。
 チークを留守番に、カディとスィエンが付いてきた。
 昨日と同じ廊下を同じように辿る。
 そしてやっぱり遠慮なくオーガスさんは食堂の扉を開き、中に入り込んだ。
 テーブルの上には既に朝食の準備がされている。
「二人分?」
「ああ。セルクならもう出てるはずだ」
「こんな時間に?」
 窓の外の太陽を見ると、まだ昇りきっていない。こんな朝早くから一体どこに出掛けるんだ。
「忙しいらしくてな」
 オーガスさんは早速朝食を開始した。俺もあわせて食べ始める。
「こんな朝早くから働く人のようには……見えるような見えないような」
 真面目なときとそうでないときのギャップが大きすぎて、どうなんだろうなあというのが正直なところだ。
「根は真面目なヤツなんだけどな」
「へ?」
 オーガスさんがセルクさんを誉めるとは思わなかった。
 驚きを込めて見つめると、オーガスさんはにやりと笑う。
「でもひねくれてるからな、あいつ」
『人のこと言えないでしょう』
 さらりと呟くカディをオーガスさんは軽く睨んで、
「お前ほどひどかねえよ」
 さらっと切り返した。
 無言で数秒睨み合って、ふいとお互いに視線を逸らす。仲が悪いのは間違いなさそうだ。
 下手に口を挟むととばっちりを食いそうなので俺は食事に集中することにする。
 準備されたパンはどれも朝焼いたばかりのようで、ふんわりと柔らかい。それでもさほど温かくもないから、焼きたてをセルクさんが食べて出たとしたら相当早くに出かけたのだろう。
「しかし、相変わらずよく食うねえお前」
「体が資本なもんでー」
「太らないってことはそれだけエネルギーを消費してるってことなんだろうな……」
『一応成長期ですからね――それにしたって食べ過ぎだと思いますが』
『もう五個もパン食べてるだわよー』
「カウントすんなよッ」
 意外とフレンドリーに会話が進みはじめて少し安心する。
『この滅多にない機会に栄養蓄えておくんですよ』
「おう」
 食べ過ぎって言った口で何言ってるんだか、とは思いつつ俺はカディの言葉にうなずいた。
「お前何で微妙に所帯じみてるんだよ」
『ソートといれば嫌でも』
「ほー」
『試しにしばらく一緒にいれば分かりますよ。食費がかさみますからね……』
「……想像つくけどな」
 どこか似たような眼差しでカディとオーガスさんはこっちを見る。
「成長期だから仕方ないだろー?」
「それにしたって食い過ぎだろ」
『ですよね』
 さっきまで仲悪そうだったのに何でそんなところで協調するんだ。
 納得がいかないけど、俺が人以上に食ってるっていう事実は間違いない。だからそれ以上の文句と一緒にミルクを飲み込んだ。


「それで、だ」
 朝食が終わりに近づいて、仕上げとばかりに俺がお茶に手を出したのを見て、オーガスさんは真面目な声を出した。
「それで?」
 何が言いたいのか予測できなくて、俺は不思議に思いつつ問い返す。
「セルクの奴が言うには、お前が持ってきた手紙?」
「手紙がどーかしたんです?」
「それを宛名の主に届けるのはすぐにでもできるらしいんだが、その相手っていうのが忙しいらしくてな。おまえに会ってもらうのに何日かかかるらしいぞ」
「はー」
「そこで、だ」
 さっきと似たようなことを言って、オーガスさんはにやりとする。
 なんとなく嫌な予感を覚えるのは、その声が楽しそうな響きを持っていたから。
「……そこで?」
 心持ち身を引いて、緊張する俺にオーガスさんはますます楽しそうな顔になる。
「どうせお前、暇だろ?」
「どうせ、って……」
 いや暇だけど。どちらかって言うと暇だけど。見透かしたように言われて素直にうなずけないのはなぜだろう。
「何日か暇を持て余しそうなら、日雇いの仕事でも見つけないといけないし……」
「路銀稼ぎか」
「そう」
「やめとけやめとけ」
 あっさりとオーガスさんは言った。
「日雇い労働よりももっと俺が稼がせてやるから。てか、路銀不足にあえぐよりどこかに雇われた方が絶対儲かるぜ?」
 どこかってどこだよ、と突っ込むのはこらえる。どこかの国、ってことだろうどうせ。
「性に合いそうにないから」
「もったいねーよなー」
 ああもったいねえもったいねえ、オーガスさんは歌うように呟く。
 その言葉に嫌な予感が膨らむ。俺は息を飲んだ。
「オーガスさん、それってまさかこの国で働かないかとかそーゆーんじゃない、ですよね?」
 問いかけるとオーガスさんは呆れたような顔になる。
 ……違ったか。
「それでおまえがうなずきそうなら、勧める価値はあるだろうけど。それよりおまえ敬語やめろ」
「え、でも、ほら」
「男がごちゃごちゃ言うな」
 呆れたようにオーガスさんが言えば、その後ろで俺に見えるようにカディがゆっくりとうなずいている。
『こんなのに敬意を払っても何の利益もないだわよ』 
 まるで諭すようにスィエンが続けた。
『それよりもスィエンちゃんに恩を売った方がお得だわよー』
「いやおまえはあてにできんだろおい」
『どこが得なのかは全く理解できませんが』
 スィエンの言葉にオーガスさんとカディは口々に突っ込んだ。むっとスィエンが口を尖らせる。
「大きな意味で言えばこの国に雇われるような仕事だけどな」
 オーガスさんは大げさにスィエンにため息をついたのを見せつけたあとで俺に言う。
「大きな意味?」
「臨時雇いで、正式なもんじゃねえけど」
『あの件ですか』
「おうよ」
 苦い顔で問いかけるカディに、至って気安くオーガスさんはうなずいて。それから表情を改める。
「こいつらに、いろいろ話は聞いた」
 オーガスさんはカディとスィエンに視線をやって、そう話を切り出す。
「――スィエンが大変な目にあって」
 苦い顔で漏らして、
「地をはじめとして精霊が狂わされたって?」
「あぁ、狂うというか支配されるというか、歪むというか、とにかく変な感じだった」
 確認するように問いかけられても、あの男が何をしたのかなんて、俺には正確にわからない。
「今度は火だ」
「……は?」
 オーガスさんがあまりにさらりと、端的に言ったものだから間抜けな声が口をついた。

2005.07.01 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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