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精霊使いと魔法国家

2章 10.精霊の事情

 準備があるからねー、とにっこりしたセルクさんは今日の晩は出るのは勘弁してねと笑ってまた出掛けていった。
「あいつ、仕事抜けてきたんじゃないか?」
 そう予測したオーガスさんはあーあなんてため息を吐いた。
「ま、今日の今日何か起きるってわけじゃねーけどなー」
「セルクさんは大丈夫なのかな」
 オーガスさんはセルクさんが動くのはまずいみたいに今朝言ってた。
 セルクさんが出ていった扉を見ていたオーガスさんは俺のことをちらりと見る。
「あいつが考えがあるってのなら、あるんじゃねぇ?」
 まるきり人事の口調。それは本当に他人事だからだし、オーガスさんらしいけど。
「かなりろくでもないこと考えてそーだったな」
「脅さないでくださいよ。問い詰めればよかったかなぁ」
「答が聞けたとも限らないけどな」
「そうだけど」
 昨日から今日にかけての本当に短い時間で、セルクさんの読みにくい性格は十分わかった。
 わけがわからなくて変な人だけど、なーんか根底が師匠に似てる気がする。微妙に、何となく、そんな気がする……そんな程度だけど。
「どっか師匠に似てるんだよなあの人」
 ぽつりと呟くとオーガスさんは驚いたように目を見開き、それからにやっと笑った。
「そう言えないこともないかもな」
 師匠と似ていると仮定したら、言わなくていいかなと思ったことはセルクさんは言わないと思う。
「こえぇ」
 そして師匠がなんか黙ってるときってろくなことないんだけどマジで。
「ろくでもなさ度はセルクが上だぜ?」
「そんな保障いらない……」
 言われなくてもセルクさん変な人すぎるし!



『また、変なことに首を突っ込んだんですねぇ』
 心底呆れた響きで言ったのはカディだった。
 夕方連れ立って戻ってきたから、とりあえず事情を話したんだけど。
「またってなんだよ、またって」
『ソートが貴族の真似なんて、ねぇ』
『だわねー』
 スィエンが同意する。視界の端でなぜか重々しくうなずくチークが見えた。
 おもしろくない。
「うなずきたくなる空気だったんだって」
『お人好しですねぇ』
 呆れたようにカディ。
「悪いかよ?」
『ソートのそういうところが気に入ってるだわよ、スィエンはー』
 俺がにらんだカディの隣のスィエンが胸を張る。
「そりゃ、どーも」
『どーもだわー』
 もごもご言うとスィエンはにっこりした。
「で、一体どこに行ってたんだ?」
『ソートと同じく散策ですよ』
「へー」
『一通り中心部を。何件か修復中のお宅があったのでのぞいてきました』
「てーと、被害にあったところか?」
 カディはあっさり首を縦に振った。
「なにかわかったか?」
『私には、何も』
 には、なんてわざわざ言うのは怪しい。
 カディの隣でスィエンが笑顔を消した。
「スィエン?」
『面白くなーい気がしただわね』
 眉間にしわ寄せて言う。スィエンにしては珍しい表情。
「気配ってこと?」
『んー』
 悩むようにスィエンは腕を組む。ふよっと空中を一回転して、
『面白くないのがますます面白くない感じ、だわね?』
 分からない表現で一人うなずく。
 意図が読めないのでカディに視線を向けると、カディはスィエンを見て苦笑していた。
「どういう意味?」
『だから面白くない感じだわよー』
「わけわかんないしそれ」
 セルクさんといい面白い面白くないってなんだ。
『スィエンは』
 そっと俺に近付いたカディが静かに切り出す。
『火主と仲が悪いんです』
「へ?」
 それって、ええと……。
「まさか火主が関わってきたのか?」
 カディのささやかな声に、俺も同じだけささやかな声で応じる。
 カディはそれはどうでしょうか、とでも言わんばかりに肩を揺らした。
『火と相容れないようですので、火主が関わっていなくても面白くないと言うとは思いますけど』
 水と火、だから?
 スィエンに苦手な相手がいるなんて想像も出来なかった。
 誰にでも『だわー』なんて言ってじゃれていきそうな気がしたんだけど。
 納得出来ないような納得出来るような。
『可能性は高いのではないかと』
 さらり。あっさりといった言葉と裏腹にカディはどこか苦い顔になった。
 深いため息をもらして、スィエンを見つめる。
『そうだとすれば大変なことになりますよ』
 そりゃあ、精霊主の一人が関わってるってなら大変だろうけど。
 ある意味ここにも精霊主が三人もいるわけだしむしろオーガスさんが精霊王で元々大変だって言えば大変だ。
「火事場に行き当たったらしいオーガスさんは、火主云々言ってなかったし、違うんじゃないか?」
『そうだといいんですけど、ね』
 俺の言葉にカディは淡く笑う。
『だな』
 チークの声が聞こえたもんだから驚いて彼を見る。
 いつもの無表情じゃなく、ほんのわずかに違和感がある。その変化の内容までは読み取れないけれど、チークは深々と二度うなずいた。
 よっぽど大変なことになると思ってるらしい。
 精霊主の残る一人が関わるほど大事件だと思いたくないのか、よっぽどスィエンと仲が悪いから会わせたくないのかどっちなんだろう?
「まあ、うまいこと解決したらいいな」
 今のところどうなるか見当が付かない。
 カディは一つため息をついて、しみじみと呟いた。
『そうだったらいいんですけどね』

2005.09.16 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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