IndexNovel精霊使いと…

精霊使いと魔法国家

2章 2.精霊たちと作戦会議2

 続く言葉は無くて、仕方なくカディを見ると彼はいつものように呆れた顔をしている。
『このマギリスで、今度は火がおかしいようです』
 ため息のあとに少しはまともな説明をくれた。
「火……」
『放火事件が相次いでいるようです』 
「都中、警備の数がすごかったろ」
「てっきり王様が代替わりするからかと思ってたんだけど」
「それもあるけどな。戴冠式まであと半月か――その中で放火が相次ぐなんてあんまりいい事態じゃない」
 そりゃ、お膝元が荒れているとよくないだろうな。
『この国の現国王はまだ若かったのでは? 四〇代そこそこでしょう』
「何でそんな詳しいんだお前」
 俺とオーガスさんの声が重なって、カディは非常に嫌そうな顔になる。
『一般常識ですよ』
「一般じゃねえだろ明らかに」
 カディの声にオーガスさんは言って、俺も同意してうなずく。
「国民なら知ってることだろうけどな。カディが言ったとおり、王様はまだ若いっていえる年代だ。ただ王位争いが王宮内で起こっていた」
「王位争い? 子供がいなかったとか?」
「いんや、王女が一人いる」
「……男系で世襲?」
「いや、女王も何人もいたはずだし、長子が皇太子となるのがこの国の伝統だ」
「それなら争いようがないんじゃないか?」
 意味が分からない俺をオーガスさんはにやりと見る。
「この国は魔法国家なんぞと自称してるからな。王は魔法に秀でていないといけないんだよ。そしてその王女は魔法を使えなかった」
『馬鹿げた話ですね』
 カディは眉をしかめてコメントする。
「それで、王位争い?」
「王様は娘がかわいかったから、娘に跡を継がせたかった。それに王様の弟が否を唱えた。王弟にも娘がいて、そいつは自分の娘を推した……王弟の娘は魔法を使えるからな」
「自分でなく?」
「兄が王位を去る頃には、自分も長くないだろうってのもあったんじゃねえ?」
「なるほど」
「真意はわからんが」
 オーガスさんはさらりと付け足して、『それはそうですね』とカディがうなずいた。
「それで数年は争いが続いたらしい。結局勝ったのは正当な王位継承者である王女側だったけど、王が魔法を使えないっていうことに対する反論は大きかった。そこで、今の王様は代替案を出した――王女の旦那を王にするっていう案を」
 それきりオーガスさんが俺の理解を促すかのように沈黙した。
「へ?」
 俺はそんな声を出して、オーガスさんをじっと見た。
「娘に王位を継がせたかった割には、娘婿を王にするのか?」
『それならば弟の娘に継がせるのでも大差ないと思いますけど』
「俺に言われてもしらねーよ。王女の婚約者であるその男は、この国の名家の出身で、魔法に秀でていて、さらには数代前に王家の血が入っているらしい。結局、不満や問題は山積みらしいが、その男が王位を継ぐことは一応は認められた」
「一応、ねぇ」
 貴族様は血筋って奴にうるさいみたいだから。
「だから不満で、放火騒ぎ?」
「ただの放火ならまだよかったんだけどな」
 ため息と共にオーガスさんは最初の話に戻った。
「魔法による火でもないらしいし、普通の放火だったら警備兵が怪しい人間の一人や二人目撃してたっていいはずだ……だがそのどちらでもないだろう。火が妙な動きをしているから」
 オーガスさんがいう火は、火の精霊って意味だろうな。
 カディもそれがわかるのか、眉間にしわを寄せて不機嫌顔。
「王弟派の屋敷がいくつかやられてる」
「そっちが狙われてるのか?」
 王女の方でなく? 俺は驚いて思わず問い返してしまった。
 戴冠式までに王都が放火事件で荒れていたら、列席する近くの国のお偉いさん達は新しい王の手腕を疑うだろう。その王様の即位を望んでいないものがいるのなら、それはきっと王弟の方だろうし、そしたら自分たちの屋敷でなく新しい王様の味方の方を狙うじゃないか?
「王女の旦那が不当なことしてますよ、っつーアピールがしたいわけだ」
 オーガスさんが言う、言葉の意味が分からない。
「王位を盤石なものとするために、王弟一派を狙ってるんだと。しかも精霊を使って」
 あまりいい言い方ではないから、俺はオーガスさんを窺うように見た。
「実は、その娘婿の家っつーのも、名家だけど王弟の姻戚の政敵で、しかも少し落ち目にあった――親族の中に精霊使いがいたんだと」
「はぁ?」
『それがなにかあるだわ?』
 俺とスィエンは口々に言った。
「この国じゃ、精霊使いは嫌われてるんだよ」
 確かに、カディが昨日そう言っていた。
 オーガスさんは憎々しげに言って、あーあと言わんばかりに大きく息を吐く。机に肘ついてあごを乗せて。
「精霊使い魔法使い言ったところで、そう差があるってもんじゃねーのにな」
 それはうなずける話だ。
 似たようなものだし、比べられるものでもない。
「精霊使いの方が大きな力が使えるっていうけど」
「本人の資質だなその辺」
「力借りまくりの精霊使いより、いつでも自力な魔法使いの方が――えーと」
 偉い? いや違うな。
「魔法使いも、結局資質が物言う商売だろ」
 どう言うべきか悩んでいるうちに、オーガスさんはさらっと言いのけた。
「あと、魔法使いだって精霊の力を使うぜ?」
「そーらしいけど」
 あんまり知らないけど、オーガスさんがそう言うならそうなんだろう。結局、その両者はよく似た職業なんだ。
『馬鹿らしい話だわね〜』
 目を丸くしながらスィエンは呟く。それにカディがうなずいて同意する。
「まったくだ」
 オーガスさんもゆったりと首肯した。
「――だが、俺達がそう思ったところで、事実は変わらない。娘婿の家、ホネスト家って所は代々力を持つ魔法使いを輩出する名家だが、精霊使い――だと言われるって程度だけど、そんな人間が一人現れただけでその勢力を弱めた。王弟の嫁さんの実家と長らくライバルだったってのが大きいんだろうが」
「お国柄ってヤツかねぇ」
 今まで聞いたこたないけど。
 俺が呟くと、馬鹿らしいらしいよなあとオーガスさんは目を細めて皮肉な笑みを浮かべる。
「で、だ。王女の一派が権力争いに勝利したとはいえ、まだ王弟派の力は強い。というか、その勝利は奇跡的なものだったんだと」
「はあ」
『貴方は王女派なんですか?』
 興味が全くない俺に比べて、カディは興味があるようだ。
「いや、俺はただの部外者。王女派なのはセルクだ」
『なるほど。それで、その言い分を信用する、と?』
「突っかかるなあ。セルクはああ見えて人を見る目があるんだぜ?」
『彼は、信用出来るんですか?』
 カディとオーガスさんはじっとお互いを見る。オーガスさんはすっと目を細めた。
「信用出来るぜ?」
 挑戦的にカディを睨み付けて。
「お前、俺がソートと知り合いじゃなくて、そのガキは信用出来るのかって聞いたらどうするよ?」
『信用出来ない人と一緒にいませんよ』
「同じことだろ?」
 にっとオーガスさんは笑みを見せて、カディはぐっと詰まる。
 すげえ、オーガスさん今日も勝った!
 感心する俺の目の前でカディが言葉に詰まっている。
「俺を言い負かそうなんざ、千年は早いぜー?」
『そんなことは思ってませんけど』
「負け惜しむな負け惜しむな」
 カディが顔をしかめるのに対して、オーガスさんは上機嫌。
「ま、それはどうでもいい話だ。ともかく、セルク――というか、王女派は放火事件を王弟派の仕業と見ている。勝利したとはいえ基盤の弱い王女派が、その権の安定を図って王弟派を狙っていると見せかけ、復権を図る――お粗末な作戦だが、この国には精霊使いなんて多くない。娘婿の家に精霊使いがいるらしいっていうのは、まあまあ知られた話らしいからな」
『伝聞ばかりですか』
「お前らに呼ばれなきゃ、俺マギリスになんて来なかったぜ?」
 カディは国境のあの男のことでオーガスさんに連絡をしたんだろうから、オーガスさんはこの街に来て一ヶ月も経ってないんだろう。
 オーガスさんの言葉に、カディはなるほどとうなずいた。

2005.07.09 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

←BACK INDEX NEXT→

感想がありましたらご利用下さい。

お名前:   ※ 簡易感想のみの送信も可能です。
簡易感想: おもしろい
まあまあ
いまいち
つまらない
よくわからない
好みだった
好みじゃない
件名:
コメント:
   ご送信ありがとうございますv

 IndexNovel精霊使いと…
Copyright 2001-2008 空想家の世界. 弥月未知夜  All rights reserved. Never reproduce or republicate without written permission.