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精霊使いと魔法国家

2章 3.精霊たちと作戦会議3

「それでもって、だ」
 ふっと表情を曇らせると、オーガスさんは声を落とした。
「娘婿の家には、今その精霊使いらしいのはいないんだと」
「ってーと?」
「魔法使いの名門って家柄を汚す人間はいらねえってことじゃねえの?」
 吐き出すようにオーガスさんは言って、苛立たしげに鼻を鳴らした。
「お貴族様ってのは何考えてるのかわからねえよ」
『武門の家柄とはいっても、ここもその貴族の屋敷でしょう』
 オーガスさんは片眉を上げた。考えるように眉間にしわを寄せて、
「まあ、そう言われればそうだな」
『しかも、そんな馬鹿なことをした家に肩入れしているなんて』
 咎めるような口ぶりをオーガスさんは片手をあげて制する。
「十何年だか前の話だぜ? 娘婿は少なくとも関係ないだろ。だが、家から追い出されたそいつが王弟派に利用されてるんじゃないかって王女派は見ているらしい」
「その人は追放されたんだ?」
「娘婿が言うにはそうらしいんだが、聞いただけの話だからな」
『自業自得ですね』
 カディはどうも気に入らないらしかった。冷たい呟きにオーガスさんは苦笑で応じる。
「まあ、そうなんだけどな。娘婿本人はそのことを気に病んでいるらしいし――それに」
「それに?」
「火の精霊が何かおかしいのも事実だ。セルクの思惑はついでだな。目的が同じなら協力したっていいだろ? 宿代もタダだし、報酬も出してくれるはずだぜ」
『……そういう問題ですか?』
 乾いた声でつぶやいたカディが、ため息と共に頭を振った。オーガスさんの浮かべた笑みは肯定しているようにも、そうでないようにも見える。
「ソートをただ働きさせなくてもいいから、お前だって願ったり叶ったりだろ?」
 口ではそんなことを言うので、カディは心底呆れた顔をする。
『確かにそれも重要ですけどね』
「重要なのかよ」
『財布の中身を考えて物を言って下さい』
「そうそう、解決したら喜んで報酬だって出してくれるんだろうから、ヤツは」
 カディとオーガスさんは今度は仲良く顔をも合わせた。無言のうちに協定でも結んだのか、そのままずいっと顔を近づけてくる。
 正直、ちょっと怖い。
「別に俺、協力しないとか言ってないぞ?」
『そういえばそうですか……?』
 慌てて俺が言うと、カディは記憶を辿るように眉を寄せる。
「精霊が困ってるなら、どうにかしたいと思うし」
 オーガスさんは笑顔で俺の肩を叩いてきた。
「よーし、それでこそソートだ。男に二言はないな? もう知らないなんて言っても聞かねえぞ?」
「オーガスさん、そうやって確認されると断りたい気分になるんだけど」
「聞こえーねーなー?」
「……子供のようなことを……」
 間近で俺の声を聞いたにもかかわらずわざとらしく耳に手を当てるオーガスさんは、あまりにも子供っぽくてどう頑張っても精霊の王様には見えない。
 対抗して断りたくなったって叫ぶのもどうかと思って、代わりにカディの真似をしてため息を一つ。
「それで、具体的にはどうするんだ?」
 そう尋ねることにする。
「ああ、夜に町中を一人でぶらつくのも限度があったんでな。手分けして見張りでもしようかと」
『原始的ですねぇ』
「うるせえよ。俺とソートとカディとチークで東西南北を張る」
『スィエンは?』
 オーガスさんの言葉に、ぴくりと反応したのはスィエンだ。
「お前は城の上空で待機。火の手が上がったら全員に連絡して火を消し止めろ」
 納得したようにスィエンはうなずいた。
『それだと、犯人は追えないですよ?』
 指摘したのはカディだ。
「犠牲者が出ちゃ、面白くないだろ」
『出てるんですか?』
 カディは目を見張った。
『それが王弟派の狂言だというなら、犠牲者はいないはずでしょう』
「使用人の命までは考慮に入れてないようだぜ」
『つまり……?』
「放火されても何故か主一家は外出中。だが使用人が何人か犠牲になってる。無作為に放火しているように見えるのに、ことごとく屋敷の持ち主は留守なんて偶然じゃありえないだろ?」
 オーガスさんの問いかけに、俺達は揃ってうなずいた。放火事件の詳細は知らないけど、それが事実なら、それを偶然で片付けることは難しいと思う。
『それが彼を信用する根拠ですか』
「それだけじゃないけどな」
『詳しくは聞こうとは思いませんけど。次の狙いは絞れないんですか? 戦力を分断するのはあまり得策とは思えませんが』
 カディが話の軌道を修正する。
「絞れないらしい。王弟派の方が数が多い。上の方から末端まで、まんべんなく狙われてるようだから次はどことは言えないみたいだな」
『それも彼の言葉ですか』
「お前セルクのこと苦手なの?」
 カディの呟きにオーガスさんは不思議そうに聞いた。
『そんなわけではないですけど……』
「まあどうでもいいけどな。才能に性格は関係ないぜ。あいつは使えるヤツだから、セルクがそう言うならその可能性が高いと俺は見る。敵の数が多いっていう不利な状況から、勝利を得たのは娘婿にも力があったんだろうが、あいつの力も大きいと思うし」
 よく知らねえけど、なんてオーガスさんは続ける。ほとんどべた褒めなのでカディは目を丸くして、そーですかなんて呟いた
「元々不利な状況だったもんだから、味方もそういないらしくてな。長年屈辱に甘んじていた武家のいくつかと、娘婿のところの親族程度か」
『その味方は動かないんですか』
「動けない、が正解。下手に動いて、本気で犯人扱いをされたくないからな。動けるのは普段から町を警備し、戴冠式を前に増強されている警備兵。だが警備兵は魔法に疎く、精霊のことなんて全く知らない者が多い」
 ゆっくりとカディはうなずいた。
「俺達が目標にするのは、火の精霊の異変の原因を押さえること。人の家に火を付けるなって俺が言っても、きかねえのがおかしいから」
「なるほど」
 俺もなんとなく分かってきた。
『貴方よりも精霊使いの命令を重視しているんじゃないですか?』
「それもあり得るがな。罪悪感なく放火してしまう精霊使いがいるとしたら、放っておけないだろ」
『それはそうですけどね』
 カディは渋い顔だ。
「――神の力を借りたなんて言って、精霊に影響を及ぼす人間が何人もいるらしいんだろう? 今回も、そういうのが黒幕かもしれない」
 オーガスさんの言葉に肝が冷えた。水、土に続いて火、言われて考えてみればそんな気もしてくる。
「とりあえず何日か夜中の見張りで様子を見る。うまく片が付けば言うことがないし、つかなければ別の手を考える」
『ひとつ、いいですか?』
 おうよ、とオーガスさんが応じる。
『この屋敷を宿としている以上、私たちも王女派と見なされるのではないですか?』
「夜にちょっとばかし散歩するだけさ」
『それに、ソートは精霊使いです。知られたら状況が悪化しませんか?』
 オーガスさんがぐっと詰まった。眼差しが俺を捕らえて、カディに戻る。
「んー、まあでも、ソートそうは見えないし」
『確かにソートは精霊使いっぽくないだわねえ』
「悪かったなあ」
 どうせ剣士にしか見えねーよ。
 この方が動きやすいんだからいいじゃないか。
「誉めたんだから怒るな」
『そうだわよー』
 オーガスさんとスィエンが口々に言うけどそれ、信用出来ないだろ?
 仮にも精霊使いなんだから、らしくないなんて言われたら軽く傷つくし。
『ソートはそういうらしくないところが面白いのだわよ』
「それは絶対誉めてないだろ……」
 突っ込むとスィエンはきょとんとする。
『だって面白いだわよ?』
「しかも面白い方がポイントッ?」
「そりゃ、面白い方が面白いし」
「オーガスさんまで!」
 まあまあ、とオーガスさんは俺を宥めるように手を振る。深呼吸をして俺は気持ちを落ち着けた。
「そういう面白さでもなけりゃ、スィエンはともかくカディがお前と一緒にいる理由がつかねえだろ」
『あまりに危なげないから放っておけなかっただけですよ』
「似たような理由だな」
 全然似てないってのにオーガスさんは自信満々でうなずく。あまりに堂々としてたから、突っ込むのも馬鹿らしい。
「まあ、誰にも見とがめられないようにうろつけばいいだけだろ」
 俺がつぶやくとオーガスさんはこくりとうなずいた。

2005.07.15 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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