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精霊使いと魔法国家

2章 4.散策

 一通り打ち合わせを終えるとオーガスさんは下準備とか言って出ていった。
「町でもぶらついてこようかな」
 俺はと言えば暇をもてあまして、そんなことを思いつく。
『行ってらっしゃい』
「あれ、カディは来ないか?」
 驚いて問いかけるとカディはうなずいた。
『ついて行きたいのは山々ですけど、ソートがうっかり私に話しかけると大変ですし』
「俺だってちゃんと意識してるんだけど」
『意識しても話しかけてしまうことがあるでしょう?』
 言われると否定は出来ない。
『収入の見込みはあるとはいえ不確定なんですから、調子に乗って買い食いはしないで下さいね。ああ、最初から財布の中身を減らしておいて下さい。どれくらいがおこづかいとして妥当でしょうかねえ』
「あー、はいはいはい。わかった、わかったよ」
 カディは真剣な顔して検討を始めた。
 口うるさいカディは置いていく方が正解かもしれない。
「てゆか、ガキじゃないんだからおこづかいって……」
『金銭感覚がないんですから、子供のようなものでしょう』
「どういう意味だおい」
『どうって……』
 意味ありげに顔逸らすなよ。なんかむかつくなー。
「とりあえず出てくる」
『財布の中身!』
「うるさいなああ」
 ぶうぶう言ってはみるものの、忠告に従って財布の中身を取り出す。ハンカチにくるんで、置いていくつもりのカバンに詰めるとカディは満足げにうなずいた。
「オーガスさんが戻ったら、うろつきに行ったって言っておいてくれ」
『はいはい』
『いってらっしゃーいだわ』
 カディとスィエンに見送られて俺は屋敷を出た。


 アートレスのお屋敷から少しばかり歩いたらすぐに迷路のように町は変化する。
 古い町並み、たくさんの人々。警備兵の姿が目に付くものの、平和そのものの風景。
 貴族の屋敷だけが狙われるってことは、町の人は放火事件のことなんて知らないのかもしれない。もしくは、貴族のことなんて関係ないと思っているのか。
 放火事件に悩むよりは、戴冠式前で浮かれたようなイメージ。
 時々地図を確認しながらふらふら町を歩く。それを両手の指で足りないくらい繰り返してたら、声をかけられた。
「よう、にーちゃん」
 大きな通りに立ち並ぶ、露店の主だった。
「この町は初めてかい?」
「ああ、着いたのは昨日だけど。そんなにおのぼりさんっぽいかな」
「はじめてきた人間は、地図確認するからな」
 俺よりはいくつか年上だろうってにーちゃんだ。にっと人好きのする笑みを浮かべて、商品を俺に見せる。
「歩き回ったらのど乾くだろ、どうだいひとつ」
「あー、もらおうかなあ」
「へっへ、そうこなくっちゃ」
 カルルの実を一つ受け取って、代金を支払う。
「戴冠式を見に来たのかい?」
「んや、旅の途中で手紙を言付かって寄ってみただけだ」
「ほう」
「戴冠式の話なんて、昨日初めて聞いたぞ」
「まだ少し先だからなあ」
 商売人だけあって、にーちゃんはよく喋る。
「でも、一見の価値はあると思うぜ。姫様とレイドル様はよっくお似合いだって話だからね。結婚式のあとに戴冠式やって、都中をパレードするらしい」
「レイドル様ってのが、次の王様なのか?」
「そう。姫様と大恋愛して結ばれたって話だ」
 大恋愛ねえ……。
 上層階級の結婚には利害が絡むものだって聞いている。偉くなればなるほど自分の思いだけじゃ動きにくくなるもんなんだと。
 オーガスさんに聞いた話を考えても、大恋愛なんてあり得ない組み合わせ。
 政略結婚だって誰もが思う組み合わせじゃないか?
「信じてないなー?」
 顔に出たんだろうか、にーちゃんは心外そうに言う。
 だって政略結婚っぽいだろそれ、なんて言うに言えない。
「だって、なあ。貴族様だしなあ」
「まあいいけどなー。でも市中じゃそういう噂だぜ?」
「ふーん」
 にーちゃんが気を悪くしない程度にうなずきながら、ようやくカルルにかぶりつく。
 皮ごとがぶり。ほどほどの酸味が口の中に広がる。ちょうど喉を潤す感じ。
「いい食いっぷりだねえ」
 にーちゃんが笑った。
「そりゃどーも」
 答えながら食べきると、
「食うの、はえぇなー」
 なんて言いながらにーちゃんはおしぼりを差し出してきた。サービスがいい。
 種を露店脇のゴミ箱に放っておしぼりを受け取る。べたつく前に果汁を拭き取って、別れの挨拶としてひらっと手を振った。
「まいどー」
 にーちゃんが愛想よく見送ってくれる。
 それから散策を再開して、さらに町をうろうろした。

2005.07.22 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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