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精霊使いと魔法国家

2章 6.金髪のお姉さんと2

「貴方はどうして旅をしているの?」
「どう、って――えーと、師匠に世間を見てこーいって追い出されたから?」
「追い出されたの?」
 シーリィさんは驚いたように俺を見た。
「俺の師匠は子どもは大きくなったら旅をしなきゃいけないという主義だったみたいです」
 つっても、詳しく聞いたことはないけど。
 師匠は俺と同じくらいの時に家出して大冒険をしたとか言ってた。そこで得た経験は価値があるぞ、って言ってたくらいだからやっぱりそういう主義なんだろうなーと思う。
 貴族のお嬢様なシーリィさんはそのことが信じられないらしい。
「レシアと一緒で、まあ修行の旅のようなもんですよ?」
「修行――」
 シーリィさんは嘆息した。
「行くことなんてなかったのに」
「仲がいいんですねぇ。レシアは――無駄なくらい元気でしたし、大丈夫と思いますけど」
「いい子ねぇ」
 しみじみとシーリィさんが呟く。
「……いや、そんなことないですよ」
 歯の浮きそうな丁寧語でしゃべってるから、いい人そうに見えるかもしれないけど。
「謙遜がお上手ね。ねえ、じゃあ旅に出る前はどの辺りに住んでいたの?」
 シーリィさんの表情はくるくる変わり、話題も行ったり来たり落ち着かない。
「フラストの端っこ辺りで」
「フラスト! えーと、貿易が盛んな国よね」
「らしいですね」
 うなずくと正解したことに満足したのかシーリィさんはにこにこする。
「あそこは精霊使いもたくさん仕えていると聞くけど」
「たくさんかどうかは分からないけど、いますね」
「精霊使いは……大抵どこかに仕えてると聞くけど――ソート君も?」
 シーリィさんは恐る恐ると言った様子で問いかけてきた。
「え、いやまさか」
 それだけはあり得ない。
「そうなの?」
「性にあわないんで」
「そうかしら?」
 本当に不思議そうにシーリィさんが言うってことは、それだけ俺の猫の被りっぷりが徹底してるってことだろう。
 ――自慢にも何にもならねぇ。
「師匠も俺も、王宮嫌いなんです。ああいうかしこまったところはどうも苦手で」
「そうなの?」
 驚いたように目をぱちくりさせて、シーリィさんは俺を見た。
「精霊使いは稀少だと聞いたけど――その師匠さんはどういう方なの?」
「どう、て」
 何でそんなこと聞くんだろ。シーリィさんは興味津々といった面持ちで俺をじーっと見つめている。
 レシアとは違ってお嬢様度が高そうだから、どんなことでも物珍しいのかな。
「師匠のことをわかりやすく言うなら、そーだなあ。かなりのお人好しで、ついでにひねくれ者、かな?」
「精霊使いの修行ってどんなもの?」
「どんな、って……うーん」
 それにこの国は精霊使いを毛嫌いしているらしいから、簡単な知識もないのかもしれない。
「精霊たちと意思疎通を図りやすくなるように、まあいろいろ」
 精霊と遊んだり遊んだり遊んだり?
 ――なんか基本的に遊びまくっただけの気がする。
「心で通じ合って、それで協力してもらえばいいとかどーとか? 理屈こねるよりも気持ちが大事だとか言ってたかな」
「それは――なんていうか、アバウトなのかしら」
「変わった教育方針だったんだよ、師匠は」
 多分。
 とはいえ他の教育方法なんて知らないけど。
「どうして、その変わった人に師事したの?」
「どうって、捨て子だった俺を師匠が拾ってくれたから」
「あ」
 思わずさらっと言ってしまうと、シーリィさんは戸惑ったように視線をさまよわせた。
「ええと」
「別に聞かれてもどーってことない話ですよ。俺がたまたま素質があったもんだから、育ててもらっただけで」
「ええと、ごめんなさい」
 申し訳なさそうにシーリィさんは俺を見た。
 別に捨て子とか言う必要もなかったんじゃないか。
 あー、しまったなー。
「いや、気にしないで下さい」
 余計なこと言って気を遣わせてしまった。
 シーリィさんは今にも泣きそうな顔になっていて、慌ててしまう。
「俺自身気にしてないですから」
「でも、初対面なのに不躾に聞いてしまったわ」
「気にすることはないですよ。俺は別にそれで不幸だなんて思ったことないですから。師匠がいたし――精霊たちもいたから」
 子どもが嫌いな親なんていないっていうのが、半分師匠の口癖だった。俺に言い聞かせる意味もあったのかもしれないけど、しょっちゅうそんなことを言っていて、実際それを信じてる風だった。
 ちびっこい頃のことなんて、もうほとんど覚えちゃいない。師匠にはじめて会ったときのことがぎりぎり残ってるくらいで。
「でも、ごめんなさい」
 シーリィさんが本当に申し訳なさそうな顔で言うもんだから、なんだかかえって申し訳ない気分。
「俺のことなんてどうでもいいんじゃないですか? ほら、それよりもレシアのことを」
 話題を逸らそうと言ってみて、でもレシアのことって言ってもそんなにネタないだろうって内心突っ込んだときに、シーリィさんはふるふると首を振った。
「え、いいんですか?」
「今日は、やめておくわ」
「本当に気にすることないですよ?」
「ありがとう」
 シーリィさんはふんわりと笑った。
「でも、抜け駆けはよくないしね。もう一人が来たときに、じっくり聞かせてもらっていいかしら?」
「期待されるほどの内容はないですよ?」
 こくりとシーリィさんはうなずいて、目尻を緩ませる。
「あの子が家を出てから、もう大分経つから。旅先でどうしているか、出会った人に話を聞けるのはうれしいことだもの」
「そういうもんですか」
「ええ――ソート君、本当にごめんなさいね。私ってばついうっかり、変なことを口走ってしまって」
 かまわないって意味で首を振る。むしろ俺が余計なことを言ってしまったって方が正しいし。
 それを言ったらますます気にしそうだからさらりと受け流すように微笑んで。
 シーリィさんはほっとしたように礼儀正しく膝を折って、俺にお辞儀した。
「じゃあ、私はこれで――ねえ、よければ今度、私の家にご招待していい?」
 別れの挨拶を口にした後、ふと思いついたかのようにシーリィさん。
 貴族の屋敷にかよ。
 思ったものの、嫌とはまさか言えない。
「招待していただけるなら喜んで」
「ほんとに? うれしいわ」
 はじけるような笑みを残して、あわただしくシーリィさんは部屋を出る。
「ごきげんよう。ではまた、いずれね」
 外で待っていた侍女の――えーと、アイリアさんが俺に一礼してからシーリィさんを追う。
 執事さんが慌てて奥から飛び出てきて、二人に近寄っていく脇を通り抜けて。
 俺は割り当てられた部屋に帰って、入り口の扉を閉めてずるずると座り込んだ。
「うぁー」
 女の人と一対一で話すのって、すんげえ緊張するよなー。

2005.08.05 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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