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精霊使いと魔法国家

4章 予想外の再会

1.王宮の一室で

 レシアの親父さんが、気に食わなかったはずのレイドルさんの弟――つまり一応俺のことだけど、その弟を王宮に引き留めろと言ったって聞いたときは何でだと思ったね。
 俺やレイドルさんにさんざん言ったくせに何でだーって。
 それを指示されたセルクさんといえば、ふふんと鼻を鳴らしてこう言った。
「久々に再会した弟をレイちゃんがすぐに手放したら、新しいラストーズ王は血も涙もないってよそに思われちゃうでしょー? 外面悪いと思ったんだよあの人」
 セルクさんの家に泊めてもらって行き来すればいいだろって言っても、話にならなかった。
 親父さんが俺用に客室を準備したと連絡してきたのも早ければ、セルクさんがそこに俺を案内して一通り室内を調べ回ったのも早かった。
「一応味方っぽい事は言ってるけど、何仕込んでるかわかんないからね」
 そういうもんなんだろうかって思っている間に調べ終わって、セルクさんはにっこりする。
「なーんにもないみたいだし、大丈夫だよ」
「妙に手際がいいなあ」
 感心して俺が言うとセルクさんは肩をすくめる。
「仕事だからねえ」
「仕事、って」
「元々俺、本業は姫様の護衛なんだよ。今はちょっと違うけどねー。だからこういうことよくやってたわけ」
「そうなんだ?」
「そうなのよー」
 護衛というと要人にぴったりと張り付いて静かにしているようなイメージがあるけど、セルクさんはそれとはかけ離れている気がする。
 真面目な顔で黙り込んだら多少それっぽく見えるかもしれないけど、やってる行動は護衛と言うよりはええっと、策略家?
 肉体派と言うより、セルクさんは頭脳派だと思う。
 よく考えるとアートレス家は武家だってレシアも言ってたわけだけど――いまいち似合わないような。
 つかみ所のないわっけわからない性格が一番の問題なんじゃないだろうか。
「よし、それじゃ悪いけどしばらくおとなしくしててねぇ」
 にこにことセルクさんは言って身を翻す。
「え、ちょっと待った。俺一人でここで?」
「お仕事があるのよー」
 さすがにちらりと申し訳なさそうな顔をしてセルクさんは顔だけ振り返る。
「しかもしばらくって、どれくらいなんだよ」
 じっとりと俺はセルクさんをにらみつけた。
 どこまでが彼の狙い通りで、どこからがそうじゃないのか判断できない。
 小難しいことを考えるのは性に合わないし、悪意からくるものじゃないとは思うからそんなことどうでもいいっちゃいいとは思う。
 でも。
 こんな居心地が悪い場所にいつまでいなきゃいけないのかだけは聞いておきたい。
 それを知っているのといないのとではだいぶ心構えが違ってくる。
「うーん、殿下の意図は読みづらいからなあ」
 体ごとこっちを振り向いてセルクさんはうめいた。
「まさかソートちゃんを王宮に泊まらせちゃうとは思わなかったしねえ」
「本当に全く予想外?」
「何その意外そうな顔! 何らかの反応はあると思ったけど、予定外なんだから」
 心外そうにセルクさんは言うとはっきり顔をしかめる。
「俺、今日帰ったらオーガスちゃんにどう言えばいいと思う? 怒り狂いそうですっごい怖いんだけど」
「……ああ、半殺しくらいは覚悟した方がいいかも」
「うわあ、ありえそう」
 身を震わせる仕草はどこか演技じみている。
 でも本気でオーガスさんを怒らせるのは嫌なんだろうなあ。セルクさんは眉間にしわを寄せている。
「気が重いなあ。どうしよ、今日俺も夜泊まっていっちゃおうかなあ」
「てことは、明日辺りには解放されるのか?」
「う、多分無理かなあ」
 セルクさんはあーあとため息をついて、頭を振った。
「戴冠式と結婚式、二週間後なんだよねえ。殿下の口ぶりから言ってそれまではソートちゃんを引き留めると見た」
「あー」
 確かにそんなこと言ってたような。
「そういや、よくカディが伝言してくれたよなあ」
 セルクさんは部屋の外にいてそこからカディに指示を出していた。
 カディの存在があったからこそ、あんな風に伝言して俺に指示を出せると思ったんだろう。よく考えたらとんでもない話だ。カディはああ見えて一応精霊主だぞ?
 生真面目で融通も効かない方だし、結構プライドが高い。カディの様子からして好きでセルクさんの指示に従ったわけでもなさそうだった。
「利害が一致しただけだよ」
「利害?」
「カディちゃんはソートちゃんがお気に入りだから。ソートちゃんをみすみす窮地に陥れるなんてできないでしょ? ボロが出ないようにフォローしなきゃって言ったら、イチコロ」
 いやそんなイチコロって。そーんな単純なヤツじゃないだろ、カディは。
 そうは思うけど、現実に起こったことは覆せないので認めざるを得ない。短時間でカディを説得してのけたセルクさんが恐ろしい。
「俺の華麗な交渉術をソートちゃんにも是非聞かせてあげたかったねー」
 セルクさんが胸を張れば張るほど聞きたくなくなるのは何故だろう。人徳ってヤツかもしれない。
 笑顔の彼は俺が向ける不審そうな眼差しをちっとも気にしない。
「そゆわけでまあ、しばらくここでよろしくね? あ、後で暇つぶしアイテムもってくるから〜」
 ご機嫌で言い放ってあっさりと部屋を出て行く。
 昨日泊めてもらった部屋でも上等だなあと思ってたのに、王宮はさらに上質なお部屋だった。
 寝室と居間が別れてる辺りからして。
 客室でこの大きさは異常だと思う。ふっかふかの絨毯に触れたら簡単に壊れそうなほっそいテーブル。
 壊したらどうしようかと思うけど、気にしていても始まらない。
 テーブルと同じように細い作りの椅子に腰を下ろしても、もちろん簡単に壊れたりしなかった。
 身につける上等な服に、見回す限り上等な部屋。頭がくらくらしそうだ。
 話し相手もいないし、暇をつぶすあてもない。王宮内を散策すれば楽しそうだと思うけど、セルクさんに釘を刺されているし気分よく動き回れるとも思えない。
 気安く動き回ってボロが出たらまずいし。
 仕方なく今日あったことを思い返したり、これからあるであろうオーガスさんがセルクさんに文句を言う様子を想像したりして暇をつぶしていると、扉が遠慮がちに叩かれた。
「あの」
 返事をどうすべきか悩んでいると、扉の向こうから遠慮がちな声。
 近寄って開けると、そこにいたのは見覚えのある人だった。
「どうぞ?」
 あまりに遠慮がちだったので室内に招くと彼女はゆっくりと中に入ってきた。扉を閉めるとほっと一息をついて微笑む。
 昨日シーリィさんと共にいた――名前は、ええとアイリアさん!
 彼女はカートを引いてきていて、それを押して部屋の中央までやってくるとテーブルに水差しとグラスを置いた。
「セルク様より言付かりました」
「ありがとうございます」
「いえいえ」
 おっとりと微笑む彼女は、カートの下から数冊の本を取り出してさらにテーブルに置く。
「お暇でしたらお読み下さいとのことです」
「あ、どうも」
 一体どれだけ暇を潰せって言うんだセルクさん。
 やけに分厚い本に嫌な予感を覚える。
「昼食をご一緒しましょうとレイドル様より伝言です」
「あ、どうも」
「私かセルク様以外の者が参りましてもお部屋を開けないよう、お願いします」
 アイリアさんは綺麗に一礼する。
「え、あ、なんで?」
 同時に言われた言葉に首を傾げると、彼女は少し首を傾げる。
「宮殿内は味方ばかりとは限りませんから。貴方に何かあるとレイドル様が悲しまれます」
 シーリィさんは俺が本当にレイドルさんの弟だと思っていると聞いたけど、それはアイリアさんも同じらしい。
 真剣な表情を真正面から否定できなくてうなずいておく。
「そんな無茶なことは誰もしないと思うけど」
「用心に越したことはありませんから」
「わかりました」
 心配性だと笑うこともできずに神妙に答えるとアイリアさんは安心したように微笑んで出ていった。
「鍵も閉めておいて下さいね」
 そんなことを言い残して。

2006.02.15 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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