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精霊使いと魔法国家

5章 7.戻る道筋

「落ち着きがないなー」
「オーガスさんは無駄に落ち着きすぎだと思うけど!」
「大人の余裕ってヤツだな」
「何が大人の余裕だよ。大人げないこと言ったくせに」
「――本当に、精霊王がこんなだと知れたら世界がひっくり返るぞ」
 心底呆れたような声音でグラウトが呟くと、むしろオーガスさんは胸を張った。
「それでひっくり返そうって馬鹿に正体をばらすほど愚かじゃないつもりだよ」
「ばらしたのはソートだと思うけど、見過ごしてもらえたということは信用してもらったと思っていいのかな」
「さっき殿下さんがソートを疑ったように下手すりゃ正気を疑われるし、言わないでもらえると思うがね?」
 オーガスさんの問いかけを聞いてグラウトはちらっとこっちを見て、その後でこくりとうなずく。
「それで納得することにして、だから精霊主の存在にも信憑性があるということかい?」
「え、えーとまあそういうこと?」
「微妙なうなずきかたすんなよソート。ここまで来たらどこまで言っても一緒だろが」
「オーガスさんは大ざっぱすぎると思うけど」
「どういうことかな?」
「え、や、そのだな……」
 口ごもる俺には見切りをつけて、グラウトはオーガスさんに向き直った。
「つまりだ」
 オーガスさんにはためらいも何もない。
 手短にカディの正体を語り、他にも水主や地主がいることをグラウトに告げて、さらにはスィエンやチークが巻き込まれてた事件のことを手短に話す。
「それは、とても大変なことじゃないのかい」
 グラウトの問いかけは珍しくかすれてた。
「だから急いでるっつったろ」
 そう答えた割には余裕たっぷりにオーガスさんは今の放火事件の話をさらっと続けて、それにカディが巻き込まれたんじゃないかと語る。
「それは、ソートにも聞いていたけど……それに、火主と風主が巻き込まれた可能性があるというのか?」
「残念ながらゼロと言えない。だから俺までこんなところに来たってわけさ。さあ、殿下さんよ、約束通り俺がこの城内を好き勝手に動いてても文句が言われないように知名度を上げてくれ」
「言われなくても、そうする!」
 グラウトはすっと立ち上がった。
「最初から理論立てて説明してくれれば、私も引き留めなかったものを」
「急いだって夜中にうろつけるわけじゃないからな。人を驚かすなんて滅多にできないんだ、楽しんだってかまわんだろう」
「仲間が大変なことになっているというのに余裕だね?」
「大変なことになってるからこそ、余裕があるふりをするのが俺達の主義なもんでね」
 同じく立ち上がったオーガスさんとグラウトの視線が交差する。
「私としたことが騙されたよ。ソート、いつまでもぼんやり座ってないで、戻るよ」
「別にぼんやりしてたわけじゃ……」
「言い訳はいらない。行くよ」
 てきぱきとグラウトとオーガスさんは打ち合わせをしながら歩き始める。俺は慌ててその後を追った。
 夜会まで戻る道、俺達は――俺とグラウトとオーガスさんという微妙な三人組は――城の中を固まって動いていた。
「私とソート……というより、シーファス・ホネストと言った方がいいだろうけど、ともかく私と彼は今城内でなかなかの有名人だよ」
 あの男のせいでね、と忌々しげにグラウトが言えばあの馬鹿らしいよな、とオーガスさんが応じる。
「夜会で紹介して回るにしても全員にというわけにもいかないだろう。今までソートの紹介を渋っていたのに、その師の知り合いを率先して紹介するなんてバツが悪い」
「今更それはないだろ殿下さん」
「さっき私たちと一緒に会場を出たので、どういうことかと貴方に注目した人間も多いだろう。あとは一緒に行動していれば嫌でも顔は売れると思うね」
 なるほど、とオーガスさんはうなずいた。俺としても話し相手ができるし、グラウトの提案の割には俺にはありがたい話だった。
「数人は誰かが寄ってくるだろうから、その時に紹介すれば、噂が広がるさ。あとはあの男に後押しを頼めばいい。フラストの皇太子にも面識がある、シーファス・ホネストの師の友人が来ているってね」
「あの人に任してりゃ、明日の朝には広まってそうだな」
「知名度が上がったとしても、貴方が一人城内を動き回って充分な理由になるとは思わないけどね」
「あの馬鹿はそれで充分みたいな風に言ってたけどな」
「この国の人間しか入れない場所はある。そこに入り込むのは困難だろう」
「あー、それは必要ねえ。そっちはあの馬鹿の担当だ」
「――あの男は精霊の異常を感じ取るに長けているのかい?」
 ひらひらと手を振りながら口にしたオーガスさんを驚いたようにグラウトは見た。
「あいつは精霊を見ることができるんだよ」
「それはソートに聞いたよ。だが、それだけでは足るまい。私も見ることができるけれど、精霊の力を感じ取るなど不可能だよ」
「そこはそれ、スィエンとチークが……水主と地主が一緒にいるんだから問題ない、という設定だな。俺としてはその状況に心底同情するがね」
「同情?」
 グラウトがいぶかしげに首を傾げる。
「俺だったら遠慮したいね。ソート、お前もそうだろ?」
「同情というか、気が遠くなるかもな……。グラウトも実際あの二人に会ったらわかると思う」
 セルクさんにスィエンにチーク。まとまりのなさは保障できそうだ。
「あ、でもそれならセルクさんと一緒に行動じゃなくて、あの二人に端から端まで見て回ってもらった方がいいんじゃないか?」
 あの二人はほとんどの人に見ることができない。わざわざオーガスさんを城に引っ張り込むよりも格段に楽なはずだけど。
「馬鹿なこと言うなよ」
「なんでだよ、いい案だと思うぞ」
 オーガスさんは俺の頭をこづいて、やれやれと首を振った。
「そんなことして、奴らまでいなくなったら救いようがないだろ? 二人だからまだ安全かもしれないが、保障は何もない」
「えーと、でもセルクさんが一人いたからってなんとかなるもん?」
「あの馬鹿がどれほど役に立つかは未知数だが――役には立つらしいからな」
「らしい?」
 グラウトがぴくりと眉を上げた。
「実際どれほど役に立つか、俺は見たことねーから」
「それでよく任せようって気になったね」
「あの馬鹿は元々俺の知り合いの知り合いなんだよ。その知り合いの見る目を俺は信用してる。あの人が評価してるなら、それだけのもんがあるハズだ」
 本当かなあと言いたそうな様子を見せたけど、結局グラウトは一つうなずいただけだった。
「……悪化しなければいいけどね」
 結局嫌味を一つ追加したけど。
「大丈夫だ」
 グラウトの言葉をスルーしてオーガスさんはにかっと笑う。
 スィエンとチークとセルクさん、その誰に一番期待してるのかよくわからないけど、微妙に信用できないと思うのは俺だけかなあ。
 どう考えてもまとまりないだろ。
「いざとなれば奴らも真面目にやるだろうからな。こっちはこっちで、うまく動けるように段取り頼むぜ、殿下さん」
「承知したよ」
 おとなしくうなずいたグラウトもオーガスさんに呼応したような笑顔っぷり。
「あの男の期待以上の働きをしてみせるとも」
 絶対何かたくらんでいる声で、こっそり彼はささやいた。

2006.09.12 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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