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精霊使いと魔法国家

9章 9.結婚式と戴冠式と

 翌日、俺はうんざりとした心地で身支度をした。
 レイドルさんとシーリィさんの結婚式だし戴冠式もあるおめでたい日だけど、明日からしばらくグラウトと同じ馬車で揺られると思うと気が重くなってくる。
 加えて、夜会で着せられるよりもごてごてした衣装を目の前にすれば、縁起が悪いと言われようとため息もつきたくなるってもんだ。
 連日俺の衣装を用意してくれたのはグラウトだったけど、今日のはレイドルさんがわざわざ仕立ててくれたものらしい。
 今日はフラスト式の衣装でなく、ラストーズ式でいてほしいとか言われたけど、どこがどうフラストでどこがどうラストーズなのか俺には一生わからないと思うやたらと豪勢な服。
 一応ホネストの人間だから、今日くらいはラストーズ式の服を着なきゃ駄目ってことなんだろうけど、本当にどこが違うんだか。
 レイドルさんに聞けば説明してくれたんだろうけど、聞いてもへーとしか思えないだろうから俺は自分で違いを探そうとして、見つけきれず諦めて、それからしぶしぶそれを身につけた。
 動きにくい衣装に身を包んで待っていると、お迎えがやってきた。
 俺と同じく今日の日のためか、いつもより華美な服を身につけたセルクさんだ。
 城下の放火の黒幕であった男を捕まえた功績でもって無事兵舎の焼失の責任を免れたらしく、それどころかより重用される羽目になったとか、どちらかといえば嘆くように言っていた。
 そんな新王の側近が俺なんかにかまってていいのかと思ったけど、「ソートちゃんは新王陛下の弟君だから、失礼できないのですよ」ってことらしい。アイリアさんが今日はシーリィさんのお世話で忙しいらしいから、セルクさんが任されたんだってさ。
 いつもより多くの人とすれ違いながら、初めて行く神殿へ案内された。王城の敷地の中にある神殿は、フラストのそれよりも大きいようだった。何度も夜会で顔を見合わせた結果見憶えたお偉い顔がいくつもあり、セルクさんは真面目モードで時折言葉を交わしながら俺を前の方へと導く。
 フラストの皇太子であるグラウトを含めて、各国の王族がいるっていうのに、新国王の偽者の弟の俺がいい席を奪っていいのかと思うんだけど――偽者だと知っているのはごく一部だから仕方ないんだろう。
 結婚式と戴冠式は一連の流れの中で執り行われた。どんなだったのかと問われたら、とにかく凄かったとしか答えようがない。
 なにが凄いって、でかでかと奏でられる曲の重厚さも、ここぞとばかりに着飾ったシーリィさんの変身っぷりもすごかった。
 なにより凄かったのは、そうだな。式の間に入れ替わり立ち替わり現れた神官の数。俺だって何度もフラストの王宮には行ったことがあるし、いろんな神官を見たことがある。
 だけど、ありとあらゆる神様の神官が一堂に会して儀式を行うのを見るのはさすがに初めてだった。
 結婚式の時はまだ少なかった。少なかった、とはいえ十分すぎる数だったが。
 レイドルさんとシーリィさんがそれぞれ信仰する神の神官――至高のファザート様と守護のフィリア様だった――がまず二人に声をかけ、お互いが相手を伴侶として一生愛し合うと誓う。その後に出てきた慈愛のルファンナ様の神官が神の名のもとに二人に祝福を与え、それから契約のフィラドリア様の神官が誓いを確かなものとするように言葉を添える。
 祝福の鐘の音の後に続いた戴冠式にはさらなる神官がぞろぞろ現れた。結婚式に参加したよりもさらに数を増した神官が、それぞれの神の名のもとにラストーズの新たな王に祝福を与えていったんだから、そりゃ圧巻だった。
 ただの神官じゃなくて、明らかに位の高そうな神官ばかりだったし。
 ラストーズの先王陛下から王冠を引き継いだレイドルさんがシーリィさんを従えてくるりとこちらを向くと、参列者のそこかしこから祝福の声が上がった。
 それぞれは違う言葉を口にしていたようだけど、それが集まって耳が壊れるんじゃないかというほどの歓声になっていた。
 これまで色々あったらしいし、全員が全員本気でお祝いしているわけじゃないんだろうと思うと少し複雑だ。でも、一番の敵だったはずのレシアの親父さんが率先して祝福の声を上げているから、本気の人が増えてるのかもしれないな。



 一連の式が終わると、レイドルさんとシーリィさんは連れ立って神殿を出て行った。普段は民衆には堅く閉ざされている王城の門が今日ばかりは一部開かれて、新しい王と王妃のお披露目をするらしい。
 セルクさんが言うには広場に集った民衆にバルコニーから挨拶してその後で都中をパレードするってことだった。
 パレードするんならわざわざ入り組んだ街を抜けて、王城を取り巻く貴族の屋敷の間を通ってどれだけの人がやってくるんだろうとは思ったけど、俺が神殿を出た直後にわああとすごい歓声が広場のある方向から聞こえてきたので結構な人数がやってきていたらしい。
 少しでも早く新しい王さまを見たいってことなんだろうか?
 そういえば明らかな政略結婚に思えたのにそうでないって噂が広がってたようだから――嘘だろうと思ってたけど事実そうだったんだから、広まるのも当たり前かと思うけど――みんな二人に期待を抱いているのかもしれないな。
 湧き上がった歓声はそのうち聞こえなくなって、どうやらパレードが始まったらしい。
 パレードが終わればまた今晩も夜会があるらしい。今日から数日は舞踏会だとかいってなにやらダンスがメインになるらしいが。
 俺がそんなことするはずもないとわかっているだろうに、誘われてもうっかり乗らないようにグラウトには何回も言われた。
 かつて、率先してダンスなるものを俺に仕込もうとしたのは他ならぬグラウトだし、その手段がえげつなかったから必死で形になる程度に俺は身につけた。いや、ホント、俺をからかうためならグラウトは何でもするからあの時は困ったぜ。思い出したくないから詳細は省くけど。
 そんなわけだから舞踏会ともなれば、むしろけしかけられるかと思った俺は拍子抜けすると同時に安心した。
 セルクさんがせっかくだから楽しむといいよと張り切っていたのが原因かもしれないな。セルクさんと同じ事を言ってるとか俺に突っ込まれたくなかったんだろ。
 これまでの夜会と変わらず、俺が余計なことに巻き込まれないようにしてくれるって言うくらいだから――本当は自分がダンスなんてしたくなかったのかもしれないけど。
 舞踏会なんてものに興味はないけど、出てくる料理には興味がある。グラウトがよそに気をまわしてくれるなら、俺は心おきなく料理を楽しめる、はずだった。

2009.04.01 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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