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精霊使いと皇太子

1.生真面目な精霊使い

 魔法使いと精霊使いの差をご存じだろうか?
 僕……じゃない、私もつい最近教わったばかりなんだけれどね。
 その両者はよく似ている。とてもとてもよく似ている。
 しかし、違う。
 魔法使いも確かに精霊の力を使う。でもそれは精霊の力のほんの一端を無理を言って借り出しただけなんだ。
 魔法使いは結局自らの魔力がなければなんの奇跡も起こせない。
 対して、精霊使いである。彼らは自らの魔力に関しては魔法使いにかなり劣る。しかし、彼らは精霊に祝福されている――つまり、好かれている。
 精霊は自らが気にいった者には喜んで協力する。精霊使いになるには精霊の姿を見、声を聞くことができるという絶対条件がいるけれど、そうでありさえすれば意思を伝えて力を借りることが容易にできる。
 この両者、より精霊使いが重んじられている。
 その理由まで、教えを受けた。
 自らの魔力に頼るしかない魔法使いに比べて、精霊使いはいくらでも精霊の力を借りることができる。
 人の身で扱うことができる力は、魔法使いより精霊使いの方が大きいからだ、と。



 精霊使いなるものの重要性は、あらゆる国家が認めているところだ。
 我がフラストでもそれは同じこと。
 だからこそ、その話がこの王都まで伝わったんだろう。辺境にすまう精霊使いの話……。
 それを聞いた父王は配下を辺境へ向かわせた。調査に向かったのは父王が信頼する精霊使いだったし、そもそも精霊使いには善良な者が多い。
 彼は、ちゃんと真実を告げた。
 「その在野の精霊使いは我が国全ての精霊使いが力を合わせてもかなわないほどの実力を持っている」と。
 少しでも考えたら、それは自らの地位を脅かしかねない。想像力があればたやすくわかろうはずなのに、生真面目に真実を言ったのだ。
 父王は笑った。そして言った。
「それほどの才が野に埋もれるのは惜しい。しかし過ぎた力は身を滅ぼすし、我が精霊使いたちの力で十分だ」
 欲のない人なのだ。先祖代々守ってきた国土に不満などない。父王の言うことはもっともだった。
 大きすぎる力を持てば欲が出る――そしてまた、他国もその力を見たら警戒するだろう。
 円満なご近所付き合いの為にも、興味は持たないほうがいい。そのはずだったのに。
「しかし……あの方――ウェイさんには個人的に師事してみたいです」
 報告を寄越したものが言ったので、私は顔を上げた。
 私は精霊使いではないけれど、ごくたまに精霊の姿を見ることができる。また、気配ならはっきり感じ取れる。
 その私が見たら、彼はこの国で一番腕のよい精霊使いなのだ。周囲にたくさんの精霊の気配。彼ほど精霊に好かれているものはこの国にいないと思っていたのに。
 父王はそれを聞いた途端、顔色を変えた。
 慌てて立ち上がるのも珍しい。だが当然だろう。彼はわが国にとって重要な存在であるからして。
「なんと、言った?」
 呟かれた父王の低い声に怒りがこもっている気がする。
 報告を持ってきた配下の顔色が青くなる。
「師事してみたいと……ああ、いえそのようなことは!」
 取り繕う彼に父は顔をしかめて見せる。
「誰に師事すると言った?」
「ウェイさんに……その、在野の精霊使いに、ですッ」
 裏返った声。かまわず父は呟いた。
「ウェイサイド・グエバ・モースト?」
「は?」
「その者の名はそうではないのか?」
「知ってらっしゃるのですか?」
 私が思わず声を上げると、父王は視線でそれを封じてくる。
「違うか?」
 私が身を縮ませるのと同時に、再度父王は問い掛ける。
「どうなのだ?ブロード」
「いえ、ウェイだとしか名乗られませんでしたが……お心当たりでも?」
 おずおずと問い掛ける彼に、父王は眉根を寄せる。機嫌が悪くなったのは明白だ。
 父は一瞬瞳を閉じて、ため息を漏らした。
「これも運命というものなのか?」
 独り言のようにささやき、私をちらりと見る。
「ブロード」
 しかし、声に出して呼びかけたのは優秀で生真面目な精霊使い。
「その精霊使いへの使いに走ってもらって構わんか?」
「喜んで」

※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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