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精霊使いと皇太子
追記〜かなり後の話〜
「と、いうわけでねぇ。いやもう、可愛らしいいい子だったんだけど。ものすごく食い意地が張ってて、あの時から。さっきまで本に夢中かと思ったら、もう目に入らない感じで」
アーサー・バディオはつまらなそうな顔で適当に相槌を打っている。面白くないかな? この話。
「いやあれから彼もずいぶん大人にはなったねー」
「大人とも思えんがな」
アーサーは吐き捨てるように言ったけど。それは違う。
ソートは、こういざとなればやるんだからさ。いつがいざなのか私にはわからないけれど、いざとなればやるはずなんだ。
本人は苦手みたいだけど、王宮にだって自らを合わせることくらいはすると思う。なんたって、師匠も師匠で似たタイプだし、ソートはその師にとてもよく似ているんだから。
乱暴な喋り方は性分なんだろうけど、敬語の使い方だって意外ときっちりしてるんだからさ。
私が国を継ぐ頃には、修行の旅から帰って補佐してくれると、ありがたいんだけどなぁ。気心が知れてるし、なにより一緒にいたら退屈しないし、精霊たちも喜ぶんだから。きっと。
年に一度しか会わないけれど、彼とその師匠が国に来た時は明らかに精霊たちの気配が違うんだ。
有能な精霊使いはぜひ手元において置きたいんだけど――彼は師にとても似ているからなぁ。
師匠と同じく王宮嫌いを公言して、私の再三の誘いを断り続けるんだから。その無欲さが精霊たちに好かれる秘訣なのかもしれないけれど。
「だねぇ。もう少し大人の汚さを覚えて、食欲でなくお金に執着してくれれば、優秀な精霊使いは金に糸目をつけずに雇うんだけどねぇ」
アーサーは大きく目を見開いた。
「正気か? グラウティス。あの庶民に入れ込みすぎじゃないのか?」
失敬な。私はいつでも本気だよ。
いくら他国の王といえど、許せることと許せないことがあるんだからね?
正気か、はないんじゃないかな。
……と言って、友好にひびを入れるわけにも行かないか。大人だなぁ、私。
「正気だよ」
私はそうきっぱり返事をして、とりあえず視線に力を込めた。私の密かな怒りに気付いてはくれないだろうけどね、彼は。
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
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