IndexNovel精霊使いと…

精霊使いと少年王

1.事の起こり 〜ソート〜

 踏みしめる、足元の柔らかさ。
 豪奢な絨毯が敷き詰められた部屋。
 ……なんでなんだ?
 自問して俺はため息を一つ。なんでこんなところにいるんだろう?
 答えは出ない。
 突然、連れ去られるようにこんなところまで連れてこられたんだから、わけがわからない。
 この室内はやたらと広かった。
 ――当然の話じゃ、ある。
 ここは王宮なんだから。その中でももっとも重要な場所――だと思う――謁見の間。
 左右には意味もなく装飾が凝らされた柱が四・五本並んでいる。
 真ん中を奥まで絨毯が敷いてあって、柱と絨毯の間くらいに騎士たちがいる。 
 奥に守られた玉座には、見るからに光沢のある上等そうな衣装。頭には輝く王冠。
 この国の王の姿がある。その隣にはいかにも偉そうなおっさんが。
『何かやったんですか? ソート』
 やってねぇよ。俺はふよふよ浮いているカディを横目で睨んだ。
 はっきりした意思のある変な風の精霊カディは、本当ですかとでも言いたそうにしている。
 国王は立ち上がった。
 若い――俺と同じくらいじゃないだろうか? 偉そうに俺を見て、口を開く。
「苦しゅうないぞ、庶民。馬鹿口空けておらんとちこうよれ」
 手招き。
 誰が馬鹿だー? 庶民なのは間違いないが、んな呼び方すんじゃねぇっ!
 たかが一国の主程度で偉そうにすんじゃねぇっつの。
 俺はどしどしとお望みどおり近づいてやったが、分厚い絨毯のせいでぼすぼすとしか言わない。
 玉座は、周囲を見下すように数段高い位置にしつらえられてある。
 冷たい視線がこっちをじっと見た。 
 えっらそうに! なんかむかつく!
 国王の視線は俺をじっくり眺め回し、移動した。
 俺の横――カディを。同じようにじっくりと……見えているのか?
 カディも戸惑い気味に国王を見上げた。
 国王は視線を上げた。にやりと笑う。
「噂に聞いていたが、お前か、珍しい精霊とやらは」
『……私のことが見えていらっしゃる?』
 カディが問うと国王は偉そうにうなずきやがった。
「風か……」
 ひょいと、意外と身軽に段差を飛び降りて国王はカディに歩み寄った。
 すらりとした手をカディに向ける。
「気に入ったぞ、精霊」
『へ?』
 尊大な口調。カディは間抜けな声を上げた。
「余は気にお前を入ったぞ精霊! 光栄に思うがいい!」
『はぁ?』
 きょとんとして、カディは俺を見た。いや、俺を見られても困るんだが。
 国王はカディの視線を追って俺を見た。
 その視線はやっぱり冷たい。目をすっと細めて、コイツは言った。
「おい、庶民。お前はもういい。下がれ」
「な、どういう意味だ!」
 俺が叫ぶと、王の近くにいたおっさんが顔を赤くした。
「貴様! 陛下になんと言う口の聞き方を!」
「よい。愚鈍な庶民に礼儀を期待したところで無駄であろう」
 むか。
 だれが愚鈍だって?
 たかが小国の国王のクセに! ただ王族だからって先祖からその地位を引き継いだだけだろーが貴様はっ!
 それがどれくらい偉いっつんだ?
 すう。はあ。落ち着けー? 落ち着け俺。がんばだ俺。ここは大人にならなきゃならんぞ。
『確かにソートは抜けてますが、愚鈍ではありませんよ』
 そういうフォローはすんじゃない馬鹿。
 ぎろっとカディに一睨みくれてやってから、俺は国王陛下をじっと見据えた。
「下がれと言ったはずだが?」
 俺にその命令に従う義理はねーんだよ国王様。
 俺はにっこりと笑ってやった。
「陛下」
 カディが目を見開いた。俺の口ぶりが普段と違うことに気付いたらしい。
「彼は私の連れなので置いてゆくわけにはまいりません」
『ソ、ソートがおかしくなった?!』 
 うるせえ。
 俺をなんだと思ってやがんだ? お前っ?!
 カディがなにやら衝撃を受けているのを横目に、俺はじーっと国王を見据えた。
 不満げに王は顔をしかめる。
「……何が望みだ、庶民。金か?」
 いらん。い、いや金はいるっちゃいるんだが――いらん。
「いえ」  
 言葉すくなに答えて、俺はカディに視線を転じた。
「行くぞ」
『えっ。あ、はい、そーですねっ』
 目を白黒させていたカディは正気を取り戻したらしい。慌ててうなずく。
「待てっ!」
 そういわれて素直に待つ奴の方が珍しいよな。絶対。
「そいつを止めろ!」
 しかし国王の言葉で、居並ぶ騎士たちが動き出したのは少々まずい……。
 カディに目線で合図する。足止めでもしてもらって――、
「この場に満る精霊たちよ! 我が望みを叶えよ!」
 ……そっか。精霊が見えるってことは、ほぼ確実に精霊使いってことだよな。
「そこな精霊の足止めをせよ!」
 命じることに慣れた声に、室内の精霊が動き出す。
 誰か――味方になりそうなのを探したが、いそうになかった。
『あ、あー。ちょっと、アレですね』
 アレってなんだよ?
 ともかく、この場の精霊は国王と親しいのだ。新参者の言葉になんかそう簡単に耳を貸しそうにない。
 カディは顔を引きつらせた。
『ちょっと、分が悪いですね』
 騎士たちがじりじり迫ってくるのを見て俺は答えた。
「ちょっとか?」
 ――かなりだと思う。

※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

INDEX NEXT→

感想がありましたらご利用下さい。

お名前:   ※ 簡易感想のみの送信も可能です。
簡易感想: おもしろい
まあまあ
いまいち
つまらない
よくわからない
好みだった
好みじゃない
件名:
コメント:
   ご送信ありがとうございますv

 IndexNovel精霊使いと…
Copyright 2001-2009 空想家の世界. 弥月未知夜  All rights reserved. Never reproduce or republicate without written permission.