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精霊使いと少年王
4.少年王と精霊の争い 〜カディ〜
「何故だ?」
王の……アーサーの言葉は怒りで少し震えているようでした。
『何故?』
理由など簡単です。おいそれと明かすわけにいかないですよ、私の名は。
世にも珍しい精霊として世間に名が知れ渡ったら、同僚に指刺されて笑われるじゃないですか?
それに。
『礼儀をわきまえない方に名乗る名はありませんから』
「余のどこが礼儀をわきまえんと言う?」
本気ですか? そう聞きたいのを堪えます。
『理由も告げず私達を強引に連れてきたくせに、ソートに一言の詫びもなく追い返すことは礼儀にかなうんですか?』
問いかける。
『庶民よばわりも失礼ですよ』
そうでしょう――他にこう、何か呼び名はなかったんでしょうか?
アーサーは不満げな顔で私をにらみつけてきました。
「庶民を庶民と言って、何が悪い?」
『その程度のこともご理解いただけないと?』
「どういう意味だ! 精霊!」
叫んだ後、彼は周囲の視線に気付きました。
精霊を視ることには、特別な才能というものが必要なのです。
それがなければいくら頑張ったところで見ることはできません。
例外がないわけではありませんけれど、ないと言い切ってかまわないはず。
この場で王以外に精霊使いがいないのであるなら、王は一人で喋っているようにしか見えないでしょう。
それは、端から見たら異常な姿です。
ソートもだからこそ人前では私に話しかけないくらいですから。
とはいえ、何度もそれを忘れて変な目で見られてますけど。
不審そうに自分を見つめる側近の姿に、怒りと恥辱とで顔を赤くして、アーサーは鋭い視線を私に向けます。
「皆、下がれ!」
「しかし陛下」
「下がれと言うておろうが!」
側近を怒鳴りつけ、騎士たちを追い払い―― 二人きりになったあと、アーサーはもう一度私を睨みました。
「貴様こそ失礼な精霊だ」
『貴方には言われたくありませんね』
即座に切り返しておきましょう。
「……」
『自らの言動を省みてからおっしゃってください、陛下。ソートをどうしたか知りませんが――彼に何かあれば許しませんよ?』
「庶民のことか」
だから、庶民はやめろって言っているじゃないですか。懲りない人ですね……もう。
「とりあえず牢には入れたが、他は指示していない」
『貴方の配下の方が、勝手な行動に出ていても責任はとっていただけるんでしょうね?』
「勝手なことをするような愚か者はおらん――あの庶民にずいぶん入れ込んでいるようだな」
入れ込んでいる、ですか?
――まあそうなのかもしれませんね。
『なんというか、暇でしたし。ソートといると面白いですから』
彼といると飽きませんし。暇つぶしにはぴったりです。
我が敬愛するマスターと再会できるまでは一緒にいようかと。マスターといつ再会できるかさっぱりわからないので、いつまで一緒にいられるのかわかりませんけど――大分長い付き合いになりそうな予感がしています。
「余の下に来ないか?」
『はい?』
いきなり真剣な顔をして言い出したアーサーを思わず見返してしまいます。
「あの庶民よりも、余の方が貴様の力を役立てられる」
私が黙っていると、勢い込んで彼は続けました。
「意思のある精霊とは珍しい。喋れるのも、だ。余の話し相手にはなってもらえぬか?」
『嫌です』
「何故だッ?」
何故って、決まってるじゃないですか。
『貴方がおっしゃるように私には意志がありますから。嫌なものは嫌です』
「余とあの男にどれほどの違いがあると言うのだ」
『……言ってもわかってくださらないと思いますよ』
私は言うまでのもないですが、はっきりした意思がないとはいえ、精霊にだって好き嫌いがあります。
気に入った相手には全力で力を貸しますし、気に入らない相手にはあまり力を貸しません。
精霊使いによっては偏った精霊としか意思疎通が出来ないのは、私たちが選り好んでいるせいです。
ソートがどんな精霊にも好かれているのは、むしろ珍しいと言ってもいいかもしれません。
才能、あるんですよ。
本人に自覚は全くないようですが。
どこか世間知らずなんですよね……ソート。一体どういう育ちをしたのか知りませんけど。
きっと私と会っていなかったら、旅の途中で餓死していたはずです。金銭感覚、ないんじゃないんですか? 彼。
『まあ、こう……』
言いよどんで、
『相棒ですしね、一応』
そんな言い方でごまかす。
アーサーは目を細めました。
「相棒?」
『はい。そうです』
「ならば――あの男を雇い入れるといえば?」
意地になってませんか?
問い掛けたいのをこらえます。
『ソートは絶対嫌がりますよ。王宮向きの性格でもありませんし』
人に仕える、ってタイプじゃないですよソートは。一つところでじっとしているのにも向いてそうにないじゃないですか。
「ならば」
いや、だからなんで意地になってるんですか。
アーサーは私を睨み上げて、挑戦的に口を開く。
「やはり金で諦めてもらうしか」
『……ソートは確かにお金に苦労してますけど、友情をお金で売るような愚か者ではありませんよ』
アーサーがそれに答えるより先に、ばばん、と扉が開きました。
「人払いしてあったろうが! 後にしろ!」
言いかけた言葉を飲み込んで叫びます。
後ろを振り返ると、騎士が一人立っていました。彼は室内に入り込んで、再び扉を閉めます。
「余の言葉が聞けんのか?」
「あたりまえだろーが」
騎士はきっぱり言い放ちます。
すたすたと歩み寄ってきて――、そこで、ようやくアーサーはその正体に気づいたようでした。
ソートです。なんで、騎士の鎧なんか着こんでるのだかわかりませんけれど。
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
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