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第二話 麦わら帽と変な人
エピローグ
「んもう、ねーちゃんってば」
足早に進む優美に小走りで水葉は追いついた。
「何怒ってんのー?」
「忠告しとくけど」
「へ?」
優美が急に立ち止まるので、水葉は姉を数歩追い越して止まった。
意志の強さを感じさせる鋭い眼差しに射すくめられた水葉が居心地悪く身じろぎすると、優美は眼差しをふっと緩める。
「あんたもーちょっと、遠慮という言葉を覚えなさい。面白がって首突っ込んでたらいつか痛い目にあうわよ」
「痛い目って?」
「その時後悔しても知らないわよ」
疑問を投げかける水葉に優美は答えなかった。
そこまで言ってやる義理はないと思ったのもあるし、優美は非常にむかむかしていたのだ。
再び足早に歩き始める。
そのむかむかがどこからやってきているのかは優美には分からなかった。
変な人と同郷だった上に、偶然出会ってしまったことが原因かもしれない。
それとも、初対面ですっかりうち解けてしまえた社交的な妹への嫉妬かもしれない。
一つ一つ思いつくことをあげて、優美は内心嘆息する。一人で歩いていたら「あーあ」って大声で言いたい気分だった。
少なくとも、優美には初対面で人と仲良くなることなんて出来ない。どこまで自分を見せていいものかわからなくて、結局妙に強情を張って、それであとで落ち込むのだ。
――妹に嫉妬なんて、サイテー。
姉妹だっていうのに、普段はよく似ているなんて言われるのに、でもやっぱり突き詰めていくと違うところがごろごろあるわけで。
「でもさ、ねーちゃん」
「何よ」
心の中で反省会を開催中の優美になんて気付いた素振りもなく水葉が口を開く。
つっけんどんな言い方に自分で減点一をつけながら優美は妹を見下ろした。
「あのおにーさんは、自慢できる見かけで中身がちょっとおもしろおかしくっていいと思うな」
「あんた何が言いたいの」
優美が眉間にしわを寄せるのに反比例して、水葉はにーっこりと笑った。
「あのおにーさんになら、みーこって呼ばれてもいいなってこと?」
「はあ?」
一瞬何のことか分からなくて、不思議そうな声を出した優美は次いで妹をにらみ付ける。
「あのねえ、みーこ」
それでも声だけは平静を装って。
「じーちゃんも喜ぶと思うよ?」
「勝手に話を進めないでよ」
それはどういう意味なのみーこ。
優美は言いたい気持ちをこらえながら切り捨てるように言い放つ。話を続ける気はないとばかりに黙り込んで足を速める。
「ちょっと待ってよ、ねーちゃん」
店を出てしまうと再び夏の暑さが襲ってくる。
「早く水着買って帰るわよ」
水葉の言葉も聞かず優美はさらに足を速めて言い切った。仕方なさそうに水葉も優美に合わせて早足になった。
2005.09.22 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
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