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第三話 変な人と城上祭

11.重なる行動範囲

 土曜日だろうと日曜日だろうと武正のメールは続いた。
 本当に何気ない一言二言のものから結構長いものまで様々で、写真が貼付してあるものもいくつかある。
 相原から「今日のコナカ情報〜っ」なんてタイトルでメールがやってくるものだから、彼が何をしているか大体のところは類推できた。今年の春から活動を控えめにしているコナカは二ヶ月に数度くらいの割合で活動が活発な時期があるそうだ。
 テレビに出たり雑誌の取材を受けたり――他にも優美には想像できないようないろいろがあるのだろう。
 その合間合間を見計らって――だと思う――メールを入れてくる武正はマメなのかもしれない。
 これと言って内容のないメールだから、彼の意図するところが優美にはさっぱりわからない。もしかしたら何か深遠な意味でも隠れているのかもしれないけれど、それが何かわかれば苦労しない。
 一回一回迷って返信していることを武正は知っているのか知らないのか……。
「気付いてもなさそーよね」
 携帯片手にため息を漏らして優美は送信ボタンを押した。
 この数日で多少ながらメールに慣れることができた。何を送っても気にする素振りのない武正はいい練習台になってくれたから。
 おまけに相原までこまめにメールをくれるのだ。否が応でも慣れてしまう。
 一度してしまってからはどうしても返信をしないといけない気分になって、だからいつまで経ってもこの連鎖は止まりそうにない気がする。
「向こうが飽きるまではね」
 もうとっくに話すネタは尽きている。それでもなお返事をするのは、それが礼儀だと思うから。
 やれやれと携帯を放りだして、テーブルに向き直り優美は課題へ取りかかった。



 週初めの一日は、こんなメールではじまった。
「朝方までみっちり仕事なんて今日も休めってことかーって言ったら、午後からは大丈夫とか言われました。笹野さんは鬼だと思います」
 武正のメールは丁寧語だったりそうでなかったり、コロコロと変わる。
「不況の中、仕事があるのはいいことじゃないかしら? 移動中に休めば大丈夫じゃないの?」
 この数日に手慣れた動作で手早く返信をして優美は身支度を調える。
 朝食を食べに行く前に素早くやってきた返信には泣いたような顔文字。
「ゆ、ゆみちゃんまでおにだ……ヨヨヨ」
「若いんだから大丈夫よ」
「若くても俺は繊細な人間なのにー」
「繊細な人間は自分でそんなこと言いません」
 そんなやりとりをかわしながら昼まで過ぎて、同じくメールで彼が城上まで戻ってきたことを知る。途中メールの間隔が多少空いたのは移動中にしっかりと休息したかららしい。
「優美ちゃんがメールしてるのなんて、初めて見たわ」
 友人に思い切り驚いた顔をされながら昼食を共にして、さらに数時間。
 慣れた様子でサークル会合に向かおうと歩いていたら武正に出会った。
 ぽつりぽつりとメールのやりとりはしていたけれど、示し合わせてはいない。よく出会うようになった原因は、新しい優美の行動範囲と彼のそれが重なってしまったということなのだろうか。
「あ」
 優美は足を止めて呆然と武正を見た。同じように武正も一瞬足を止めて、こちらはずんずんと優美に向かってきた。
「うわあ、奇遇だねえ、優美ちゃん」
「――そうね」
 にこやかな笑顔の武正をまだ呆然と優美は見つめる。
「よっぽど学内をうろちょろしてるのね」
「無意味に徘徊してるみたいに言わないで欲しいなぁ」
 呆然とした延長で思わず失礼なことを言ってしまう優美に武正は苦笑する。
「用事はあるんだよ用事は――果たせてないけどさ」
「用事?」
 反射的に聞き返すと、武正はこくりとうなずいた。
「そー。用事というか、捜し人というか」
「捜し人?」
 優美は思わず目をぱちくりした。彼と捜し人という言葉が全くそぐわなくて。
 思わずまじまじと武正を見上げて、目を細める。
「友達、いるの?」
 言った後でますます失礼なことを言ってしまったなんて、気付いても遅い。
「えーっと、一応優美ちゃんは俺の友達になってくれたと思うんだけど」
「私を捜してたわけじゃないんでしょ?」
 果たせてないという時点でそれはわかる。優美の言葉にきっぱりと武正はうなずいた。
「……タイミングが悪いのかなぁ」
 きょろきょろと周囲を見回してぽそりともらす。
「この辺りによくいる人なの?」
「結構見るね。まあ、なかなか会えなくてうろついてたから優美ちゃんと友達になれたわけだしそれはそれでいいんだけど〜」
「会いたいなら連絡すればいいんじゃないの?」
「そういうわけにもいかないのですよ」
 ふと気付いて指摘してみると武正はまじめくさった顔になった。
「あら、どうして?」
 優美にさえ気楽にメールしてくる男だ。不思議に思って問いかける。
「どうって、うーん……返事が来るよりも待ち伏せた方が早いから?」
 いまいち自信なさそうに武正は首を傾げた。
「メール入れても見てるかどうかわからないし、電話入れても履歴を確認してるかわからなくて」
「無精な人なのねぇ」
「んー、どうせたいした用件じゃないだろうって放置されてるっていうのが有力かなあ。経験で待ち伏せが有効だと俺は学んだのです」
「なるほど」
 よくわからないながらも聞いた手前優美は納得したふりをした。
「その人がよくこの辺りを通るの?」
「うん。最近はなかなか見ないけどね。優美ちゃんとはよく会うようになったのになあ」
 パターンを変えちゃったのかなー、なんて気軽に武正は呟いている。
「一緒に食べに行く話になってんだけどなぁ。近いうちに行きたいから予定を合わせときたいのに」
「それこそメールで済む話だと思うけど。忙しいんじゃないの?」
 ふらふらと構内をうろついている暇があれば、他に何か仕事があるんじゃないだろうか? 武正の仕事の実際のところはもちろん優美にはさっぱりわからないけれど、人を待ち伏せるほど彼は暇ではないはずだ。
 ――思い返すといつも暇そうにしているところに優美と出会ったんだから、実際はそこまで忙しくないのかもしれないけど。
「予定が詰まってないときは、やろうと思えばどこでも仕事できるから」
「仕事?」
「世間を見つめ、自分の内面も見つめ、そんでもって自然を感じ取ったりしてみてそれを言葉に変えるのがお仕事ですから? 部屋に閉じこもってうんうんうなるよりも、広いところの方がのびのびできるし」
 優美ちゃんもそうでしょ、なんて武正は目を細めた。
「室内にこもっているよりも屋外の方が、ほら。インスピレーションを得やすくない?」
 すらりと細い指先で武正は周囲を指し示す。その指先を目線で追って優美はゆっくりうなずいた。
「一理あるわね」
「でしょ? だったら会えるかどうかわからないけど適当にぶらついていれば気が向けば向こうからよってきてくれるから」
「気が向かなかったら?」
「軽く会釈するくらいかなー」
「まあ、相手の人にも都合があるでしょうからね」
「いろいろ忙しくはしてるみたい。なかなか遭遇しないのはそれかもなぁ」
「よく知らないの?」
 優美の言葉にこくりとうなずいて武正は微笑んだ。
「高校の時まではよくつるんでたけど、こっちに来てからは学部も違うし、さすがにね」
「そういうお友達がいるんだ」
「友達ってよりは親友かな。幼なじみって言ってもいいかも」
 小中高一緒だったしねーと続ける武正を驚いて優美は見た。
 古くからの知り合いの分、余計なことを気にしないでいい相手なんだろう。
 そんな親しい友達が一人でもいるのなら、寂しく思わなくてもいいじゃない――どこか淡泊な関係のようだけど、それでも優美はそう思う。
「ふぅん、会えるといいわね」
 武正はこくりとうなずいた。
「まあ向こうが忙しけりゃ食べに行こうっつってもどうしようもないし、会えたらいいやってくらいで」
「相手の人より、貴方の方が忙しいんじゃないの?」
「この数日頑張ってきたのでしばらくはそんなでもないかなあ」
 のほほんと武正は眼鏡の奥の瞳を緩ませる。
「学生の本分は勉強だしね。卒業するまでは活動は控えめにするつもり。去年はここぞとばかりに予定を詰め込まれてさんざんな目にあったから」
「それって――留年したから、ってこと?」
 武正は意図的に優美から目をそらした。
「ほんともう、あのときは困ったね。管理しきれなかった俺が悪いんだけどさ……」
 乾いた笑いの後でため息混じりに武正は口にする。
「ええと、ご愁傷様?」
 何と言っていいかわからなくてとりあえず優美は口にする。同じように反応に困ったらしい武正は苦笑して「どういたしまして?」と首を傾げた。

2006.03.17 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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