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幸せの定義。

 幸せって何なのだろうと、時折考えることがある。
 今日考えたのは、つまりは私の人生に転機が訪れたからなのだった。
「なあ、奈乃香」
 月に数度のデートの席、小洒落たレストランで。
 私の彼氏、よし君がいきなり言い出したんだ。
「そのなんだ、そろそろ一緒になんねぇ?」
 小洒落たレストランはそのための布石だったのか!
 いつもなら何となく居酒屋風の店だってのに、妙におっしゃれーだと思ったんだ。いつも通りの服で入るのにちょっとだけ気後れするなあとは思ってたんだ。
 不意打ちかこれ。不意打ちすぎやしないかよし君!
 私はあんまりのことにあんぐり口を開けたまま固まった。食べかけていた生春巻きが箸から落ちそうになって我に返る。慌てて口に運んで咀嚼しても残念なことに味の方はほとんどわからなかった。
 もぐもぐしてもぴりりと辛いソースのことしかわからない。
 くそう、最後の生春巻きだったのに。もったいないじゃないかよし君。
 青い色をしたカクテルで仕方なく生春巻きを押し流す。
「ほら、幸せにするって約束するし」
「……てか、もうちょっときざくさいこと言えないの?」
「えええ」
 素直じゃない言葉が口から吐き出されて、よし君は実に嫌そうな顔をした。
「恥ずかしいこと言えるわけないだろー」
「女の子はもーちょっとロマンティックなのを求めてるんですよ」
「キザいこと言ったら即座にさむっ、とか言うだろおまえは」
「ぐ……そんなことはないもん!」
「今言葉に詰まっただろ」
 くぬ。
 やりこめられて、ごまかすようにぐびりとカクテルを飲み干す。
「酒に弱いくせに一気に飲むなよ」
「いいじゃんかー」
「理性があるうちに返事くれよー」
「しかも、速攻で返事しろと言いやがりますか貴様」
「貴様言うな。別に難しい質問じゃないだろ」
 私の額をでこぴんして、妙に真剣な顔でよし君はこっちを見る。その瞳に吸い込まれそうだ。
 咳払いして、飲み物メニューに手を伸ばすと、途中でよし君が止めやがった。
「ぶぅ」
「ぶうじゃない。ほら返事はどうなんだよ奈乃香」
「どーって、別に今更聞くもんでもないでしょ。そもそもおつきあいはじめる最初に私はいーましたよ。結婚前提じゃなきゃつきあうなんて時間の無駄でしょって」
「……変なとこ合理的だよなおまえ。で、イエス?」
 ロマンティックのかけらもないことをよし君は言ってくる。いや、私が昔言ったのも色気のかけらのないことだったけどさ。
「奈乃香」
 よし君の声が熱を帯びる。真剣な声が耳をついた。
 目をそらし続けるわけにはいかなくなって、視線を合わせる。
「よし君」
 すぐうなずくほど素直にはなれなくて。
「幸せの定義って何なんだろう」
「え」
 つぶやいてみるとよし君は驚いたように固まった。
「いきなりそんな哲学っぽいこというか? フツー」
「……哲学って何だろ」
「いやそんなところに突っ込まれても」
 この世に生まれて二十年ちょっと、まだまだ分からないことがたくさんある。辞書を引いたら言葉の意味なんてすぐに分かるけど。
 私が知りたいのはそんな型にはめられた意味じゃない。そうじゃなくて。
「うーん、幸せ……」
 私の言いたいことがわかってるのかいないのか、よし君はうーんと考え込む。
 考えて、考えて、考えて――そして。
「まあ幸せの定義とやらはこれから二人で見つけ出せばよし。てわけで、返事を聞かせてもらおう」
 よし君は一人で答えと言いきれない答えを見つけてにやっと笑う。そして握った手をマイクに見立てて私の方に突き出してきた。
「どうよ?」
「答えなんて決まってるでしょ」
「イエス?」
 素直になりきれない言葉に、よし君はだめ押しするように聞いた。私がこくりとうなずくと満面の笑みを浮かべた。

2005.06.24 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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