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ばかっぷる☆れべるまっくす  SIDE 美優

 志野と放課後デートは、本当に久々。
 来年の受験を見据えて志野が塾に入ったのはもう数ヶ月は前の話で、その塾で志野が運命の彼に出会ったのが一ヶ月くらい前の話になる。
 彼氏が出来たら女の友情はもろいなんて言うけど、全くその通り。塾にデートにと忙しい志野は私に全くかまってくれなくて、散々「デートしよーよー」と訴えた結果として今回の放課後デートと相成ったわけだ。
 あー、女同士でデート言うなとか言うな。どうせ私は独り身だ。いいじゃない、ちょっとはデート気分くらい味わったってさー。
 空しさなんて感じない。そう、感じてなんてやるものか。
 私は志野に腕を絡めた。
「どこいくー?」
 弾むような声で問いかける。
「そだねえ」
 うなずいた志野はちょっと考え込んだ。
「てきとーにぶらついてお茶しよっか?」
 まあそれくらいが妥当かもしれない。私はこくりとうなずいた。
 そうして歩き始めたんだけど、それからすぐに志野のケータイがメロディを奏ではじめる。
 コナカのダークブルーのイントロ。志野の好きな歌手だ。
 弾かれるように志野はカバンからケータイを取りだした。
 折りたたみ式のケータイをかぱりと開いた志野の横顔はとても幸せそうで。
 くそう、彼氏かー! 彼氏だなちくしょう。
 なーんとなく胸の内がもやもやしたのでそんな風に毒づいてみる。
 今は私とデートしてるってのに浮気なんてひどいじゃないかー。なんて言っても、無駄なんだろうけどさ。
 私のことなんてお構いなしで、志野はかちかちとキーを操作する。
「よしっ」
「らぶらぶねえ」
 ぱたんとケータイを閉じた志野を冷やかすと、ためらいなく満面の笑顔でうなずかれた。
 青春してるなあ。
「どんなメールやってるの?」
 志野は彼と頻繁にメールのやりとりをしてる。私とだってしてるけど、その量ががくんと減ったのは、彼氏のせいのハズ。
 毎日一緒にいて毎日話していてもなおメールするって何だろう。
 ――いや、やっぱり毎日会っている私ともやってるんだけどさ。
 私とはドラマの話とか、宿題の答え合わせとか、まあ……くだらない内容なんだけど。
 志野の彼は中之城高校の人で私学のランク的にはウチの学校のやや下ってくらいだけど、成績をあまり自慢出来ない志野や私よりは優秀な人、らしい。
 そんな優秀な彼氏とのメール、気になるじゃない?
 聞いたのはそんな興味心。
「んー、どんなって言っても……」
 私が志野とのメールの内容を他の人に説明しにくいみたいに、彼とのメールを説明しにくいみたい。
 困ったような顔をした志野は、散々迷った様子を見せたあとかぱっとケータイを開けた。
 手慣れた様子でキーを押して、あっさりと画面を私に向ける。
「こんな感じ?」
「えーっと」
 それって、人のラブレターのぞき見するようなもんじゃないかしら。
 そうは思ったけど、それよりも勝る好奇心。

「from : 戸坂久行
 subject : き
 浮気かー?」

「なにそれ」
 馬鹿にするつもりはなかったけど、そんなような響きが声に混じった。
「……何で浮気?」
「さっき私が美優とデートーって送ったから? 軽いボケと突っ込みね」
 ケータイを手元に戻して、志野は再びキーをいくつか押した。
「はい」
 なんて言ってまた私の目の前にそれを差し出す。

「for : 戸坂久行
 subject : て
 そっちだってデートのくせにー」

「……向こうもデートなの?」
 さっきのメールの返事なんだろう。反射的に問い返すと志野はこくんとうなずいた。
「友達と遊びに行くらしいよ向こうも」
 言っているうちに再び志野のケータイがイントロを奏でた。
 はっとケータイを見て、笑みを浮かべる志野はホントに恋する乙女みたい。
 志野が返信に夢中な間に私はイントロの続きを鼻歌で続ける。


ふかいふかい海の底
とても濃い青の物語――


 きれいで落ち着いた歌声を脳内再生する。歌っているコナカの声はとても好きだ。
 バラエティなんかで見るちゃらっとした感じはむしろ苦手だけど。
「ほい」
 そんなことを思っている間に志野は言ってやっぱりケータイ画面が私の目の前にでーんと。

「from : 戸坂久行
 subject : す
 それは断じて違う。男同士でデートなんて怖いだろうが!」

 志野はかちかちとボタンを押して、

「for : 戸坂久行
 subject : ふ
 えー、二人きりでおでかけはデートだよー」

 対する返答を見せてくれた。
 なんかこう背中がむずがゆいような妙な気分。一瞬にして消える会話でなく文字でこんな、ねえ?
 私と志野のメールだって同じくらい内容に意味はないけど……同じようにメールをオトコノコとするなんて私には想像出来ないわけで。
「らぶらぶねえ」
 さっきと同じ言葉を、実感を込めてつぶやく。
 やっぱり笑顔でうなずく志野のケータイは再びダークブルーを奏でる。
 それにしても返信早いなあ、志野の彼。
 オトコノコって普通そんな速度でメールしないって聞くけど、メール大好きな志野に合わせてるのかしら。

「from : 戸坂久行
 subject : い
 いやいやいや、違うそれ違う絶対違うから。」

「for : 戸坂久行
 subject : び
 二人っきりでおでかけはデートだと決まってるのでそっちも浮気ですよ、きーっ」

 もう必要ないって言うのににこやかに志野はメールのやりとりを見せてくれる。
 内容はじゃれ合うような痴話ゲンカっぽいようなそんな何か。
 でも、ちょっとまって。最初っから実はこっそり気になってたんだけど。
「ねえ志野聞いていいかなあ。なんで、そのメールのタイトル謎の一文字なわけ?」
 内容とも関係ないし、意味わかんないんですけど。
 思わず尋ねる私を見て、志野はにっと笑う。
 流れたダークブルーのイントロに、メールの確認、返信をしてそれからやっぱり私に画面を見せてくれる。
 これまでと違う、受信メール一覧だった。面白いくらいに戸坂久行の名前がいっぱい。
 ページを変えれば私の名前も出てくるんだろうけど。
「えっと……」
 それをじっと見て気付いた。意図することに気付いた。
 そして恐る恐る私は志野を見る。
「ら、らぶらぶねえ?」
「ありがと」
 自信が消えそうな私の声に、あくまで明るい志野の声。
 あー。どうしよう、もしかして志野バカップル菌に冒されてるんじゃないかしら。

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2005.07.05 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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