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イエローファイブ

「んん?」
 思わず聞き返すと、はっと息を飲んだような気配が伝わってきた。しまったと思ったんだろうなあ、と思う。
「イエローファイブ?」
 沈黙は嫌いじゃない。でも黙り込んでいるのももったいない気がして、私は問い返してみた。
「イエローファイブって知ってる?」
 そう彼が聞いてきたのは、三十分くらい通話が続いた後だった。真夜中の電話は日課のようなもので、話す内容は一晩寝たら忘れるようなものがほとんど。
 その言葉を聞いて、何となく戦隊ものを想像した私も終わってるかもしれないけど、お互い様だと思う。
 それにしたって、イエローファイブって。黄色が五人?
 で、思わず言葉の響きで問い返してみると、その意図を確実につかんだ彼が、はっとするのがわかったってわけ。
「いや……」
 ごにょごにょとなんとかファイブのイエローがと言いかけた彼は、途中で言葉を止める。ごそごそと身動きの気配がした。
「あー、えっと。黄色戦隊イエローファイブだよ。知らない?」
 気を取り直したような声で聞いてくるから、私は思わずえっと声を上げてしまう。黄色いスーツの五人組が荒れ地に立っている姿がありありと想像できてしまった。
 ――怖い。
「知らない」
「そうかあ。知らないとはもったいない」
 しみじみと呟く彼は、どうやら誤魔化すことに決めたらしい。
「黄色戦隊って、全員黄色なの?」
「もちろん」
 問いかけると彼は力を込めてうなずいた――と思う。見えないけど、多分。
「えーっと。イエローたんぽぽ、イエローたまご、イエローなのはな、イエローとうもろこし、イエローひまわり、イエローうこんという戦士たちが」
「ちょっと待って、それ六人いる」
「ハッ」
 指折り数えて間違いを発見。彼は再び息を飲んだ。
「よ、よくぞ気付いたな……。イエローうこんは第六の戦士なんだ。究極のカレーパワーでみんなをパワーアップさせる。強いぞ」
「強いんだ」
「強い。だってカレーだし」
 カレー好きな彼は妙にきっぱりと言い切って、ぽつりと「カレー食べたいなあ」と漏らす。
「カレー好きだよねえ」
「うん。まあそんなわけで黄色戦隊は六人で戦う戦士なんだ」
 多分同じ黄色に分類されても微妙に色は違うんだろうなあ。一応想像の中の黄色にバリエーションを付けてみた。
 でもどうあがいても黄色で、ものすごーく彩りが足りない戦隊になると思う。第一見分けるのに苦労しそうだ。
 というか赤がいないと。イエローファイブのリーダーって誰なんだろうって思うし。
「決め台詞はみんなに元気を与えるビタミンカラー!」
「ああ、ビタミンカラーとかは言うねえ。でもなんであえて黄色なの? 赤とか青とか緑じゃいけなかったの?」
「えー。レッドファイブ、ブルーファイブ、グリーンファイブ……イエローファイブが一番語呂がいいじゃないか?」
「――いいかも?」
 確かにイエローファイブが一番無難に聞こえるから不思議だ。やるなマイダーリン。偶然そんな謎な戦隊を生み出すとは。
「で、えーと。敵は暗黒大王なんだ。他の色は暗黒大王に封じられて、ビタミンカラーなイエローだけ残ったという設定で」
「なるほどー。それで、そのイエローファイブがどうしたの?」
「えっ」
 三度、彼が息を飲む。
「えーと、何だったっけ。熱く語ってるうちに忘れた。何だったっけなあ」
 本当に言いたかった何とかファイブのイエローがどうこうって話自体、忘れたような口ぶりだった。
 何でこんな話になったんだっけ。
 私も思い返そうとして、やっぱり思い出せなかった。時計を見ると、もう日付が変わってる。眠いとテンションあがるよね。そして眠気が記憶を流していくよね。
 そんな風に思ったら、ふわあとあくびが出た。
「眠い?」
「眠いねえ」
「寝る?」
「寝よっかー」
 寝て起きたら忘れそうな話に、未練はそんなにない。いつもの恒例の掛け合いをして、「じゃあね」と言い合ってから通話を切る。携帯を充電器に置いて、私は布団にくるまった。

2007.04.18 up
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※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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