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我が家の儀式

「母さんは根気強い人なんだ」
 それが父の口癖だ。
「おまえは誰に似たんだろうな」
 確かに母は根気強い。それは長所といえば長所だと思う。
 でも、決してそれを受け継ぎたいとは思えない。
「いやー、誰だろうねえ」
 小さい頃は父と母双方に目が似てると言われて幼心にでも結局どっちに似てるんだと思ったものだった。
 まあ……もしかしたら母に似ているのかもしれないけど自分では正直よくわからないし、私に聞いてくる以上父にもわからないに違いない。
「おまえも母さんを見習いなさい」
「って言われてもねえ……」
 私はさっきから体重計に乗って「うむむむむ」とうなっている母の大きな背中を見た。毎日まめに体重計に乗るのが母の趣味だ。より正確に言うならば、ダイエットが、ってことだけど。
 父と母の体重差は現在十五キロ平均。結婚当時は差が三十キロを超えていたというのだから、父は母の性格を見て結婚を決めたんだろうなあと思う。
 母は母なりに気にして、結婚直後からダイエットを趣味にしだしたそうだ。だからダイエット歴は私の年齢を軽く超える。それだけの期間、途切れることなく続けているというから頭が下がるけど……。
 十八年で十五キロしか減ってないってどうなのよ。流れる水が岩を削る如く、こう、じわじわ〜っと健康的に痩せつつあると言えば聞こえがいいけど、太りすぎなんだってば母さんは!
 もっとこうがーっと減らないのがーっと! 見てて超まどろっこしいわ! 年に一キロも減ってないし!
 そして決して太ってない娘に母さんを見習えとか言うな父よ!
「あ〜今日は八十二.五だったわー」
「今日はあれだな、ちょっとケーキが余分だったな」
 内心激高している私にも気付かず母はのんびり報告し、父は忠告めいたことを口にする。
 ここまでが我が家のちょっと変わった夕食後の儀式で、とりあえずつきあってから私は自室に引きこもった。
 いや、なぜかいまだにらぶらぶ(うわ口にしたくなー)な変な夫婦の会話にこれ以上混じってらんないっての。

物書き交流同盟 様の30分小説(テーマ:水の流るる如く)に参加した作品です。

2007.10.27 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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