IndexProject2007夏企画

発端編 未夏視点

(私と坂上の関係 番外編3 私と坂上がファミレスで と同一のモノです)

 受験生にとって夏休みって大事なもの。
 私たちの学校も休みなのに夏期講習なんてやっている。にーちゃんが受験生だった時のことを考えたら、そこまで講習ってなかった気がするから、私の学校が受験に気合いを入れているってことなのかな?
 学校がないのはお盆の一週間くらいで、それ以外はみっちりと講習がある。
 出席は希望者のみ。三年生の六割くらいが参加しているんじゃないかな。参加していない人は専門組か就職組か――、それとも学校じゃなく、塾の講習に参加しているのかも。
 学校と塾を併用している人も多いみたい。
 午前中だけで終わる講習は大まかにクラス分けがされている。文系の私と理系の坂上が一緒のクラスになるなんてもちろんない。
 それでも講習後に会えるから、それだけでも毎日学校に来る価値があるんじゃないかなって思う。
「おつかれさまー」
「うん、おつかれー」
 いつも通り階段の手前で合流して、私と坂上は連れだって歩き始める。
「今日は何食べるー?」
 歩き始めての坂上の第一声は、開放感に溢れていてわくわくしているように弾んでる。
「何にしようかなあ」
 向かう先は、もう大分通い慣れた学校からちょっと離れたところにあるファミレス。バスの定期があるからって二人で二つ先の停留所までバスに乗って、降りてからちょっと歩く。
 市内のあちこちに点在するチェーン店で駐車場が十台分くらいあって、中は結構広い。
 この夏休みで私と坂上はこの店の常連になっていた。
 欠かさず頼むのはドリンクバーで、大抵は日替わりランチを頼んで、たまーにデザートとかポテトとかサラダとかを追加する。
 向かい合ってするのは食事と、受験勉強、それから息抜き。
 向かいたい方向は違うけど、私と坂上の得意範囲は全く違う。だからこそ、お互い補い合って勉強できるってわけ。
 ……ただ一緒に過ごしたいってのも、あるけど。
 そこそこのお値段で食事ができて長居ができる店だし、何よりクーラーが効いていて涼しいから快適。
「ドリンクバーさえ頼めば飲み放題だしね」
 坂上がファミレスで勉強なんて言い始めた時はどうしようかと思ったけど、その言葉には惹かれた。
 勉強するだけなら学校の図書館もなかなか快適だけどあんまりうるさくできないし。坂上はたまに騒ぎたい人だし。
 ファミレスも騒いだら目立つけどそれなりに騒がしいから、図書室で騒ぐよりは目立たない。
 講習は三時間だからファミレスにたどり着くのはお昼のちょっと前。
 見慣れたメニューでも毎日確認して、注文する。交代で飲み物を取りに行って、何となく乾杯するのが日課。
 坂上は大抵ぐびぐびとウーロン茶を飲み干して、すぐにおかわりを取ってくる。
「今日も暑いねー、喉が渇くねー」
 っていうのが最近の坂上の口癖だ。
「そうだね」
「俺、昨日家に帰った時玄関の手前でセミ飛んでるのを見たよ、セミ。鳴くのはよく聞くけど、姿を見たの久々かもしれない」
「へー」
 続く会話は日替わりの雑談。
「小さい頃は捕まえに行ったことがあるけどね」
「あ、私もあるよ」
「仲間だー。虫かごの中で延々と鳴くから家の中がうるさくなってどうしようかと思ったりとか」
「あー、そんな気がするねえ。かごの中を飛び回ってがつがつ当たってた気がする」
「そんなだったっけー?」
 坂上は私の言葉に首を傾げた。
「うろ覚えだけど。捕まえるよりは、外で鳴いてくれた方が風情があるよね。セミってそんな長生きできないし」
「地中では何年も過ごしてるみたいだけどね」
 一夜明けて虫かごのなかで動かなくなったセミを何となく思い出した。
 坂上の口ぶりがしんみりしたのも同じような記憶があるからかな?
 静かになったテーブルに注文したものが届いて、坂上はにっこりして両手を合わせた。
「いただきまーす」
 湿っぽさは消し飛んだ。
 今日は二人とも日替わりランチ。みぞれポン酢のかかった唐揚げを坂上はまず一番に口に放り込んだ。
 私はまずサラダを食べて、スープを一口飲む。
「うん、今日もおいしい。唐揚げさいこー」
 坂上はご機嫌だ。私も一つ唐揚げを口にした。うん、おいしい。
「ねえ未夏ちゃん、昨日四チャン見た? 七時からの」
 見ていて気持ちいいくらいの食べっぷりをみせながら、坂上はふと口にした。
「テレビ? ニュースくらいしか見てないけど」
「そっか」
「何か面白いことやってたの?」
 ちょっと残念そうに声を落とす坂上に聞いてみると、すぐに彼はぱっと顔を上げた。
「そうめん流しだよ、そうめん流し!」
 お箸ごと拳を握りしめて、坂上は勢いよく言う。
「そうめん流しかぁ」
 夏と言えばそうめんが定番。何束も茹でてお皿に盛って氷を乗せて、みんなでテーブルを囲んで休みの日にはよく食べる。
「やったことないなあ」
 でもさすがにそうめん流しはやったことがない。
 半分に割った竹の上にそうめんを流すんだよね。私もいつかテレビで見たことがある。
「うん、俺も」
「一回くらい体験してみたいね」
「そーなんだよ未夏ちゃん!」
 私の言葉に坂上は勢い込んだ。お箸がその反動ですごい動きをした。行儀悪いよ坂上……。
「いいよねそうめん流し。未夏ちゃんならこの感覚がわかってくれると思ったんだ」
「涼しげで、楽しそうだよね。でもあれってやろうと思っても難しいだろうなあ」
 ようやく坂上は箸を握ったままだったことに気付いたのか置いて、人差し指を立ててちっちっちと横に振った。
「それがそんなに難しいことはないみたいなんだよね」
「そーなの?」
「うん。テレビでやってた。竹を切ってきて、半分に割って、節のところを削って、くらいかな」
「言葉で言うほど簡単じゃない気もするけど」
「一人じゃ大変だろうけど」
「人手があったら、まあ何でもいいようになりそうな気がするね」
「でしょー?」
 坂上はにっこり笑った。
「それでね、確か春日井先輩のところが竹林を持ってたとか聞いたことがあるんだよね」
「――ええっと、坂上、もしかして、やる気?」
「やりたいなーと」
 坂上は妙に真顔でうなずいた。
「本気で?」
「俺はいつでも大抵本気だよ。受験生とはいえ息抜きは必要じゃない? お盆に一日くらい遊んでも罰は当たらないと思うんだよね。てわけで、今夜当たり先輩に連絡を取ってみようかなーと思って」
「まだ確定じゃあないんだ」
「今日講習中に思いついたから」
「……真面目に勉強しようよ坂上」
 私の心のそこからの訴えに、坂上は合間の息抜きだよなんて平気で言ってわくわくした表情を隠さない。
「それでさー、どうせならもっと楽しくしたいと思って俺考えたんだけど」
 極上の笑顔で坂上は身を乗り出してきた。
「闇そうめん流しとかどう思う?」
「闇?」
「そう、闇鍋みたいに。暗い中何が流れてくるわからないまま箸をのばすわけ」
 坂上の説明を聞いて想像してみる。
 でもそれって色んな意味で難しいんじゃないかな。
「ねえ坂上、そうめん流しで周りが暗いとそもそも流れたものを取れないような気がしない?」
「はっ」
「それに、水を使うってことは外でするんだよね? そしたら闇にするのはかなり遅い時間になりそうだし、完璧な暗闇も難しそうだと思うんだけど――闇鍋とかしたことないから、よくわからないけど」
「くっ」
 私の言葉に坂上はがくりと肩を落とした。
「そんな罠があろうとは」
「大げさだなあ」
「そこまでは気付かなかった……」
「普通にそうめん流しでも楽しいと思うよ?」
 一応そうやってフォローしたら坂上はゆっくり顔を上げて浮上した。
「そうだよね。いいアイデアだと思ったんだけどなあ。先輩の都合がよければ未夏ちゃんも誘うから、えーと。未夏ちゃんってお盆は――」
「鷹城にいるよ」
「よかった。まだ確定じゃないけど気に止めといてね」
 そう言ったあと坂上はランチのお皿をテーブルの端っこに寄せて、また飲み物を取りに行った。
 私が食べ終わって同じようにお皿を片付けるのを待ってから、テーブルに勉強道具を広げる。
「よしじゃあ始めようか」
「うん」
 お盆にそうめん流し、実現したらとても楽しそう。本来の坂上ならずーっとその話をしてそうだけど、根が真面目だからか集中し始めたら余計なことは何も言わない。
 受験生、だからなあ。遊ぶことばっかり考えてちゃいけないよね。
 私も頭を振って余計なことを追い出して、参考書に向かうことにした。

2006.08.06 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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