IndexProject2007夏企画

依頼編

 マナーモードで放りだしていた携帯に着信履歴を発見して、武正はそれを手に取った。
「あれ」
 きょとんと一つ瞬きして、着信履歴をマジマジと見る。
 同じ名前が三つ、大体一時間ごと。
「珍しいなあ」
 用事があればメールが基本なのに、本当に珍しい。思わずにんまりしながら武正は発信ボタンを押した。
 コールは三回。
「あ、もしもし? にーちゃん?」
 携帯にかけているんだから名前は出るだろうに、あえて尋ねてくるのがかわいい。
「うん。どしたの? 珍しく電話なんて」
「えーと、あのねぇ」
 電話先の妹は妙に歯切れ悪く口ごもっている。言いにくいことだからメールを選ばなかったのかと武正は妙に納得した。
 言いにくいことを記録に残す手段で伝えるほど妹は愚かじゃない。
「うん」
 とはいえその内容を推測することはできなかった。
「坂上君と何かあった?」
「違うよ!」
「それはよかった」
 元来妹は電話が苦手だ。メールもそこまで得意じゃない。
 そんな妹が唯一饒舌に語るのが彼氏のことなのだが。
「じゃあなんだろ」
「あー、えーとね、あのね」
 困った顔の妹の顔がたやすく脳裏に浮かんだ。思わず漏れる笑みを誰かに見られたらこのシスコンめとでも言われるんだろう。
「にーちゃん、お盆くらい、帰ってくる?」
「えーと」
 ためらいの後の問いかけに、武正はスケジュール帳に手を伸ばした。
「何日?」
 予定はそれなりに詰まっているけれど、全く空いていないわけでもない。妹の頼みならば顔を見せてもいいと思うし、おまけに彼女の顔だって見に行ける。
「十六日。坂上がね」
「うん?」
「流しそうめんしようって言うの」
「流しそうめんってあの流しそうめん?」
「流しそうめんにそんなに種類があるの?」
「ないねえ」
 武正があっさりうなずくと、妹はどこか呆れた様な息を吐いた。
「にーちゃんが好きそうだからっていうのが一つで、もう一つが、運転手さんしてくれないかなーっての、なんだけど」
 きっと今妹は心底困った顔をしているに違いない。くすりと武正は笑った。
「彼のことだから、大人数で集まるんだろうね」
「うん。その、無理にはいいんだけど」
 頼むから来てくれるな――そんな響きを感じ取り、武正はさらに笑みを深める。
 妹が乗り気でない理由も充分わかる。武正自身も数年前なら行かないと答えただろう。
「彼女も連れて行っていいっていうなら、いいよ別に。未夏のお友達にご挨拶してもいいからね」
「うー」
「お願いしてきたのに何でそんな嫌そうな声出すかなー」
「だって、にーちゃん」
「俺だってたまには面白いコトしたいもん。坂上君とも遊びたいもーん」
「にーちゃん! でも、いいの?」
 見えないのは承知で武正は電話先の妹に柔らかく微笑んだ。
「いいよ。何人くらい集まるの?」
「えーと、多分十人以上?」
「それ一台じゃ乗れないよね?」
「場所を提供してくれる先輩が一台車出してくれるの。五人乗りの。にーちゃん、ワンボックスは運転できる?」
「レンタカーか。おっけおっけ。どーんとにーちゃんに任せなさい。詳しくわかったら連絡して。あー、じゃあ俺、十五日には帰るから、かーさんにご飯よろしくっていっといて」
 でもとかえっととか言っている妹の言葉はシャットダウンして、武正は通話を切った。
 そして、リダイヤル画面を開くと慣れた手つきで彼女に電話をかけ始めた。
「やあ、優美。突然だけど十六日って暇――?」

2007.08.20 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

←BACK INDEX NEXT→

感想がありましたらご利用下さい。

お名前:   ※ 簡易感想のみの送信も可能です。
簡易感想: おもしろい
まあまあ
いまいち
つまらない
よくわからない
好みだった
好みじゃない
件名:
コメント:
   ご送信ありがとうございますv

 IndexProject2007夏企画


Copyright 2001-2009 空想家の世界. 弥月未知夜  All rights reserved. Never reproduce or republicate without written permission.