IndexProject2007夏企画

乗り合わせ編 未夏視点

 わかりやすい待ち合わせ場所だと春日井先輩が指定したのは、私たちと縁もゆかりもない聖華高校だった。
 先輩の知り合いが現役生で、先輩の家も私たちの中之城高校よりも聖華高校に近いんだって。だから多少見とがめられても言い抜けられる、とかなんとか先輩は言っていたらしい。
「未夏ー、出るよー」
 Tシャツに半袖のジャケット、それにジーンズ。プラス麦わら帽子。
 一部微妙な恰好でにーちゃんが玄関で張り切っている。
「はーい」
 忘れ物はないかカバンをチェックして、私は慌てて玄関に向かった。聖華高校に七時半なんて指定されたら、色んな人を拾っていかなきゃいけないにーちゃんと私が家を出るのはそれよりかなり早くなる。
「いってきまーす」
 二人で同時に声を出して、家を出た。
 にーちゃんが昨日の晩から張り切って借りてきたワンボックスカーはすでに準備万端。乗り込むと車内はほどよく冷えている。
「よしじゃあまずは坂上君を拾いに行くかー」
 にーちゃんはFMラジオをつけて、それから小さな音楽プレイヤーを操作した。歌のない曲が流れ始めて上機嫌にぶつぶつ口ずさみながら運転を開始する。
「なに、それ」
「MP3プレイヤー。FM電波に音を飛ばすの。いやこれが結構便利くさくてねー」
 ノリノリでにーちゃんはきれいな曲に適当な歌詞をつけている。
 今日は流しそうめんドキドキのイベントーって、せっかくの曲が台無しだよ。本物の歌詞が泣く。
 その作詞家にして作曲家にして歌い手たるにーちゃんが気にしていないんなら突っ込みようもないけど。
 坂上の家まではにーちゃんリサイタル。
 自分で作って自分で歌ってヒットチャートにだって信じられないくらいに上位に位置している曲を自ら貶め続けたにーちゃんはご機嫌なまま車を止めた。
 坂上はすでに外で待っていて、素早く乗り込んでくる。
「おはようございまーす」
「うん、おはよう」
「やあ、おはよう」
「今日は無理を言ってすいませんおにーさん」
「いやいや、可愛い妹の頼みならば〜」
 にーちゃんはご機嫌なまま車を再発進させた。正体がばれている気安さからか、ノリノリで引き続きリサイタル。
「うわー、なんだかすごく聞いちゃいけないものを聞いてる気がする」
「久々に彼女に会えるからご機嫌みたいなの」
 微妙な顔でうなる坂上にそっと耳打ちすると「なるほど」ってうなずきがかえってきた。
「家のかーさんが聞いたら卒倒しそうだなあ。変な意味で」
「――坂上のお母さんて、コナカのファンだったんだっけ」
「うん。まさか未夏ちゃんのお兄さんがそーなんて言えないけどね」
「色んな意味でね」
 くすくす笑い合っているとにーちゃんが赤信号の時に不思議そうに振り返ってくる。
「どしたの?」
「なんでもないよー」
 顔を見合わせて笑いながら言っても信憑性はないかもしれない。でもにーちゃんは「そう?」と首を傾げてまた何か口ずさみ始めた。

2007.08.27 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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