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見送り編
子供たちが全員七時前に出かける予定なので、井下家の面々は珍しく六時過ぎに全員顔をそろえた。
「出かける時に限って早いなあ」
「学校に行く時より早いんじゃないの?」
両親の言葉に苦笑で応じるのは優美だけで、水葉は食事に夢中だし、敬太は眠そうに目をこすっている。
「ほら、けーた。ちゃんとご飯を食べないとお昼まで持たないよ」
「ぅあい」
苦笑しながら祖母が差し出したお茶碗を受け取って、敬太はやる気のない声でうなずいきのろのろと箸を持ち上げる。
「じろ君ところに、ちゃんとお礼を言うんだぞみーこ」
「もちろん。子供じゃないんだからちゃんと言うって」
「いや、高校生はまだ子供だろう」
「半分大人のようなものだって。ね、ねーちゃん」
「どうかしら」
「うっわ、ねーちゃん裏切った!」
「裏切るも何も」
「何も何さー」
ごまかし微笑む優美を不満そうに軽く睨みつつも、水葉は食事を続けている。
変なところでしっかりしている妹だけど、まだ子供っぽいところがあるから楽しむだけ楽しんでお礼を言い忘れることはありそうだった。
「そうだ、じろ君のお友達に迷惑かけないようにね」
「それもわかってるし。けーた、あんまりはしゃぎすぎるんじゃないよ」
「ん」
聞いていないような敬太の返事に家族みんなで苦笑する。
食べ終わったあとに昨日から用意しておいた荷物を確認しているとチャイムの音が鳴り、仕事に出かける寸前の母がインターフォンを取った。
「ああ、じろ君。今日はありがとうね。ちょっと待ってて」
がちゃりと母がインターフォンを置く前に、迎えと聞いて目を覚ましたのかすでに荷物を持った敬太が駆けだしている。水葉がそれに続き、その後を優美はゆっくり追った。
「じろ兄おはよー!」
「おう、元気だなお前ら」
「今日はよろしく、じろ兄」
水葉がきちんと挨拶するのに微笑みつつ、優美は春日井に軽く頭を下げた。
「迷惑かけると思うけど、よろしくね」
「ちょっとねーちゃん、大丈夫だってば」
「本当かしら」
「くー!」
悔しそうに地団駄を踏む水葉を苦笑で見下ろして春日井はうなずいた。
「ま、みーこなら大丈夫じゃないか?」
「さすがじろ兄わかってるぅ」
「そういうところが心配なんだけど」
「ゆっこねえは心配性だよな」
水葉はいぇいと拳を振り上げ、優美が頭を振ると、春日井は苦笑した。
「だって、みーこだもの」
「ああー」
「ねえ?」
だけど言葉少ない優美の主張に思わず彼は納得したようだった。
「ちょっと、何そこ二人でわかりあってんの?」
水葉が不満げに二人を交互に睨み付け、年長組はお互いに苦笑を交わす。少なくない時間を一緒に過ごした仲だから、水葉がおもしろい物を見つけると暴走することはお互いによーく知っている。
「ねー、まだ出ないのー?」
一人勢いよく外に飛び出していた敬太が顔をのぞかせて、ピリピリとした空気を振り払う。
「ま、そんなに心配することはないさ。ウチのメンバーにもみーこに似た輩は存在するから」
「それは倍増して危険ってことじゃないかしら」
「あー、まー、わはははは」
春日井は笑いで誤魔化して不満げな水葉の肩を押す。
「みーこも気に入ると思うぞ、ウチの奴らは。さあ車に乗った乗ったー」
優美の迎えもそろそろ来る頃だから時間もない。追い打ちを避けて玄関を出ると、優美は去りゆく車に手を振って見送った。
2007.09.21 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
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