IndexProject2007夏企画

車中編2

「じろ兄の運転って初めてだなー」
「みーこねー、ゆっこねーがいないんだから端よってよー」
 春日井が車に乗り込むと、後部座席で隣家の幼なじみ達は騒いでいた。運転席と助手席の間に顔を出している水葉に敬太が嫌な顔をしている。
「いいじゃん、私ここが好きなんだよね」
「狭いだろー」
 ああそういえばみーこは真ん中が指定席だったよなあと春日井は懐かしく思い出しながら、顔半分飛び出た彼女の額をぺしりと叩いた。
「危ないから顔引っ込めろ。免許取ってから半年っきゃ経ってないんだからな。事故ったら危険だろ」
「えー」
「えーじゃない。事故なんて起こしたくもないけど、万が一ってことはあるからな。せめてシートベルトくらいはつけてくれ」
 不満そうに唇を尖らせた水葉は、一応説得に応じて渋々春日井の言葉に従った。
 春日井はキーをひねってエンジンをかける。サイドブレーキをおろしシフトをドライブに入れ、アクセルを踏み込む。
「まずは、残りのメンバーと合流するぞ」
「どんな人がくんの?」
「ほとんど俺の後輩だな。ぜひともクラブに入れたかったヤツと、その連れ」
 朝も早いとは言え、住宅街の運転は気を遣う。徐行で様子を見ながら春日井は説明した。
「どう考えてもこの車には乗らないから、運転手代わりに首謀者の彼女の兄とその彼女も参加するらしいが」
「へー」
「じろ兄も彼女がいたらよかったのにねー」
 素直に感心したようにうなずくのは敬太で、水葉は楽しげに嫌なことを言ってくる。春日井は一瞬言葉に詰まった。
「……お前達兄弟には遠慮ってもんがないよな。ゆっこねえは違うけど」
「えーだって、そうじゃない? ゆっこねえは遠慮がちだから聞きたいのを我慢してるんだって」
「それは絶対違うと思うな」
 春日井は嘆息して、運転に集中することにした。これ以上何を言っても軽くあしらわれるのは間違いない。ゆっこねえもみーこには手を焼いてるくらいだからなーと、春日井は自分を慰める。
 朝だからまだそう暑くなく、開けっ放しの窓からさわやかな風が吹き込んでくる。それでも信号で止まるとじわりと汗が浮かんできた。
「あつっ」
「暑いな」
「あっつー」
 異口同音に三人とも主張し、春日井は一つうなずくとエアコンを入れてウィンドウを上げた。

2007.10.03 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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