IndexProject2007夏企画

寄り道編

 ワンボックスは住宅街の途中で緩やかに止まった。
「ちょっと待ってねー」
 にこやかに武正は後部席に声をかけると、鼻歌を歌いだしながら車を出る。
「ねえねえ、コナカの――ていうか、未夏のお兄さんの彼女ってどういう人なの?」
 ご機嫌な背中を見ながら麻衣子は興味津々で親友に顔を近づける。
「どうって、えーと。いい人だよ。にーちゃんとお付き合いしてくれるくらいだし」
「ちょっと待って未夏、コナカの彼女になりたい人は日本中に山ほどいると思うんだけど」
「その中でにーちゃんをちゃんと見てくれる人は、いないと思うよ?」
 普段にない未夏の鋭い言葉に麻衣子は思わず納得した。麻衣子の知るコナカタケノジョーと、今日の運転手である未夏の兄には多少のギャップがある。コナカはそこまでテレビには出ないけれど出演が皆無なわけでもないし、雑誌や何かのインタビューで十分露出している。その中で築き上げられたイメージがそのまま本人のものでないのだから――いきなり自分の曲に妙な替え歌をつけて歌う男と付き合う彼女は、確かに稀少かもしれない。
「なるほどねえ」
「にーちゃんにはもったいない人だと思う」
「へえー」
 彼女がいることも、心に響くと評判の歌を自ら貶めていることも、信者が知ったら卒倒しそうなニュースだわと思いながら、麻衣子は興味深く未夏の兄が入っていった家の玄関を眺める。
 ややして彼女連れで武正が現れ、運転席と助手席に乗り込んだ。
「お待たせー。えーと」
「井下です、よろしく」
 紹介方法を悩んだ様子の彼氏に先んじて、後部席に顔を出した彼女は軽く頭を下げる。
「えーっと、坂上君の隣が篠津君で、後ろが小坂さん、その左が原口君で、さらに隣が里中さん――だったよね、未夏」
「うん」
 一度説明されただけで覚えているらしく武正は説明すると、じゃあ一度聖華高に寄りまーすと明るく宣言して車を出す。
「なんで聖華?」
「他にも何人か来るらしいよー。待ち合わせのわかりやすい目印ってことで聖華」
「それはいいけど。もう車に乗らないんじゃない?」
「車はもう一台あるけどそっちじゃこの人数も無理らしくて、だから俺が運転手で誘われたの」
「二台で行くわけ?」
「そうそうー」
「で、結局どこに何しに行くわけよ」
「えー、それはまだ秘密。場所は俺も知らないし。どこなの? 坂上君」
 坂上は顔を上げて「さあ」と呟くと、そのまま横を向いた。
「新、先輩の家ってどこ? 俺も距離があるとしか聞いてないや」
「俺も行ったことがないからわからん」
「だそーです」
「なんだって」
「とてもあやふやな話なのね」
「ねえ、にーちゃん。優美さんに今日何するか言ってないの?」
 黙って話を聞いていた未夏が眉間にしわを寄せながら口を開いた。
「その方が楽しいでしょ?」
「楽しいと言うより、はっきりしなくてイライラするけど」
「ええっ。絶対楽しいから大丈夫だって!」
 運転席と助手席はぽんぽんと言葉を交わしている。
 確かに坂上にちょっと似てるわと麻衣子は内心呟いた。
「まあ、あなたが変なことをたくらむのなんていつものことだけどね」
「別に変じゃないし」
「武正、次の角左に曲がると早いわよ」
「了解ー」
「変よ、変。どこに行って何をするかで心構えが変わるんだから」
「えー」
 それにしても仲の良さそうなカップルでとてもうらやましい。麻衣子はこっそりと隣の冷静な幼なじみ兼彼氏を見て、ふうと息を吐いた。

2007.10.12 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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