IndexProject2007夏企画

合流編2 春日井視点

 聖華高に着いて、しばらく人を待つんだと言った瞬間にけーたが校内に突撃しに行ったのには正直参った。車の中ではむしろみーこがうるさかったから、小学校高学年になってけーたも多少男っぽく落ち着いたのかと思っていたら甘かった。
 要するに暴れられる場所を待っていたんだ。
 自分も将来聖華に入りたいんだと言い訳しながらも、実際の所探検してみたくてたまらなかったに違いない。止める暇もないくらいに慌ただしくけーたは出て行って、それを制止しながらみーこが追いかける。
 車のキーを抜いてドアを閉めている間に出遅れた俺も追いかけてみたが、地の利のなさであえなくリタイアした。小学生や女子高生の足に負ける俺じゃないが、先に校舎に入った二人の後ろ姿を見失い、耳を澄ませても反響する音でさっぱりわからない。それでもしばらくうろついてはみたが、そのうち鬼ごっこがかくれんぼに変化したのか、音沙汰がなくなるとお手上げだ。
 現役生のみーこや、その弟で小学生のけーたなら見咎められても言い訳がきくが、無関係の俺には言い訳する術もない。あえて言うならば今俺は系列の聖華大に通ってるが――それだけでここにいる理由にはなるまい。
 校門が堂々と開かれているからには必ず誰かがいるだろう。見咎められたら一応卒業生だと言い訳しようと考えながら、俺は車に戻るべく来た道を逆行し始めた。
 携帯が鳴り始めたのはようやく校舎を出ることが出来ると思った瞬間で、人影のない校舎に高らかに響くその音に慌てて校舎を出つつ、ジーンズの後ろから携帯を出す。
 大方新か利春が到着を知らせるためにかけたのかと思ったら、液晶に出ているのはゆっこねえの名前。自分もデートなのに心配性のゆっこねえは様子伺いでもしてきたのか――通話ボタンを押そうと思った瞬間に携帯は鳴りやみ、かわりに新が俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
「おう、来たか」
 かけ直すべきとは思うがとりあえず後輩どもに顔を向け、そこで俺は驚きで固まった。
 何故かそこにいたゆっこねえが、こっちに向けて歩いてきている。
「早速迷惑をかけてるみたいね」
「え、いや、迷惑ってほどでは……」
「みーことけーたは?」
「けーたが探検だとか言って飛び出して、みーこが追ってる」
 もう、とため息混じりにゆっこねえは吐き出して校舎を睨んだ。
「それより、ゆっこねえは何でここに? 誰か忘れ物でもしたか? ――いや、俺ここに寄るって言ってないような……」
 もごもご呟く俺に構わず、ゆっこねえはみーこに電話で連絡を取り「一緒に捕獲してくるから待ってて」と言い残して校舎に入っていった。現状を理解しきれなかった俺はぽかんと後ろ姿を見送るしかない。我に返ってとりあえず残るメンバーと合流する。
 新に利春、祐司に、それぞれの彼女。見慣れない麦わら帽の男は今日運転手として利春が引き込んだ小中さんの兄だろう。
「いつも妹がお世話になってます。兄の武正です」
「こちらこそお世話になります。春日井です。あー、俺の知り合いの子が今校舎内を探検に出てて、ちょっと出るまでに時間がかかると思うんですが」
「お気になさらずー」
 明るく言われたにも関わらず、麦わらの奥の目は鋭く俺を見る。やんわりとした妹に似ない鋭さは、その妹が似ていると主張する利春にもまったく似ていない。
「えーと、何か?」
 訳もわからず睨まれても反応に困る。小中さんが兄の腕を引いて「ちょっとにーちゃんっ」と声を上げると、我に返ったように目線の鋭さが緩んだ。
「幼なじみ、ってヤツになるの?」
「え?」
「さっきの彼女」
 ぼそりと問われてうなずくと、小中さんの兄は「幼なじみ! なんてことだ!」と頭を抱える。
「えーと、何?」
 小中さんには失礼かと思ったけど、さすがにどういう人だこの人はと思ってしまう。少し引きつつ問いかけると、申し訳なさを前面に出した小中さんがぺこりと頭を下げた。
「ちょっと、ショックを受けたみたいで」
「ショック?」
 小中さんはこくりとうなずいて兄を振り返った。頭を抱えていた兄の方は、なにやらブツブツと呟いている。
「あー、なにかひらめいたのが正解かもしれないデス」
 呟きが聞き取れたらしい小中さんが、彼女にしては乾いた声で続けた。何をだと問い返すのもどうかと思って俺はうなずくにとどめた。
「ああ、いいなあ」
「はあ」
 そのうち立ち直ったらしい小中兄はそう言って俺の肩をぽんと叩く。
「彼女は昔どんな感じだったのかな」
 そしてこっそりと潜めた声で問われた。思わず肩の手を振り払った俺を誰も責められないと思う。
 こいつは一体何を言ってるんだ?
 麦わら帽なんて代物を被っちゃいるが、その下は意外と整っている。あくが強いとよく言われる俺からするとうらやましい話だ。現代的とでも言うんだろうな、「○○に似てるね」と女の子に言われそうだなと思う。
 早く言えばモテ顔ってヤツ、だろうか? 正直その言葉の意味はよくわからないが、こういうやつのことを言うんだろうなと俺が思うそのもの。
「何を……」
 利春は小中兄が運転手をする代わりに出した条件は、自分の彼女も参加させることだった。なのに何で、ゆっこねえに興味を持つんだこの男は!
 小中さんには悪いが、この男とんでもないぞ。自分の彼女もいる場で、こっそりと何を言い出すんだ!
「もう、にーちゃん!」
「うわ」
 細い肩を精一杯怒らせた小中さんが兄の背中を叩いて、じっとりと目を細めた。
「本人がいないところで何聞いてるの? 怒るよ優美さん」
「だって、未夏ー。優美の幼なじみだよ幼なじみ。みーこちゃんに聞けるより昔の話が聞けるんだよ?」
「は?」
 聞いた言葉に理解が及ばないうちに小中兄は「可愛かったんだろうなー。いいなー、俺も彼女の隣に住んでいたかった」なんてしみじみ続けている。
「あー、ええと」
 目尻を下げて呟く小中兄とそれを呆れて見ている小中さんと呆然と立ちすくむ俺を面白そうに見ていた利春が、ひょいひょいっと近づいてきたのはその時だ。
「どういうことだ?」
「未夏ちゃんのおにーさんの彼女の優美さんは、先輩の家の隣に住んでるんだって?」
 ぼそりと問いかけると利春は察してにやりと笑い、ご丁寧に説明をくれた。
「ゆっこねえの、彼氏、ってことか?」
「ゆっこねえっていうのが優美さんのことならそうだねえ」
 信じられねえ!  認められねえ!
 あの真面目なゆっこねえの彼氏があれか?
 そりゃ、今の様子を見ると心底ゆっこねえに惚れてると見て間違いないだろうが――全然タイプが違うだろ。軽そうで今風な男がゆっこねえと付き合ってるなんて嘘だろ!
「もう大分長いみたいだよ」
 俺の内心の叫びが聞こえたのか、利春が追い打ちをかけてきた。
 首尾良くゆっこねえたちがけーたを捕まえてくるまでの数分間、俺は現状認識が出来ないまま頭を垂れ続けた。 

2007.10.23 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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