IndexProject2007夏企画

車中編4

 車に乗り込んだ途端、運転手ははああと大きく息を吐いた。
「うう……怒ってるのかなあ、優美……」
 力ない低い呟きだったのにその声は車内によく響いた。
 まあそりゃそうでしょうね――そう突っ込みたい気持ちを麻衣子はぐっとこらえて、代わりに窓の外を見た。知らない高校はどこかよそよそしく目に映る。
「何するか教えてもらえずに連れてこられたら、そりゃ機嫌も悪くなるわ」
 運転手こと武正は未夏に促されてしぶしぶハンドルを握り、前の乗用車を追ってワンボックスがゆっくり動き出す。こらえきれなかった思いを麻衣子がこっそり口にすると祐司が軽く吹き出した。
「お前なら確実にそうだよな」
「わかってるようで何よりだわ」
 満足げに二人の会話の合間に「ねえそう思うでしょ坂上君ー」などと武正は坂上に話を振っている。
「そうだなあ」
「坂上君だって未夏があっちに行っちゃったら悲しいでしょ? つまりそういうことだよ」
「あー、まあ確かに」
 一人で納得している武正に坂上はうんうんうなずき、それぞれの彼女トークで盛り上がる。
「しっかり面識があるのね、坂上と未夏のお兄さん」
 声の大きい二人の会話は車内にしっかりと響き、一方の当事者である未夏が赤い顔で頭を抱えている。麻衣子は同情を込めて親友の背中を見た。
「私ならとっくに祐司の口を塞いでるわ」
「怖い言い方はやめろよ」
「どこが怖いのよ」
「口封じみたいじゃないか」
「あんたは私を何だと思ってんのよ」
 耐え切れなくなってとうとう耳を塞いだ未夏から視線を祐司に移して、麻衣子は声に力を込めた。
「大体――まずそういう事態はあり得ないから」
「そりゃそうだ」
 自分で言って少し悲しい気もしたが、祐司が自分の彼女のことを自慢げに語る姿など麻衣子には想像できなかった。想像しようとするだけで身悶えそうになるからしたくないが正解かもしれないが……、まずそんなことはしないと断言できる。
 何かにつけ未夏が好きなことを大々的にアピールする坂上を見るとうらやましく思うし、それに恥ずかしがる未夏の可愛さは見習ってみたいと思うけど――麻衣子は思いながらちらりと変わらぬ坂上の様子を伺った。
(度が過ぎると害悪よね)
 一人でそう結論づけて、麻衣子はわずかな願望にフタをする。横目で見た祐司は涼しい顔。ただ、目だけはどこか呆れたような光を宿している。
 しばらくして麻衣子の視線に気付いたらしく祐司は口の端を持ち上げて、ふっと笑った。
「――身の丈に合わないことをしても、お互いストレスたまるだけだと思うぞ?」
 その眼差しが語るのは「口にするのが最上ってわけじゃないだろ」だと麻衣子は踏んだ。
「そーね」
 声高に恋だの愛だの口にするのは自分たちらしくない。
 だからあっさりと麻衣子はうなずいて、見るだけなら面白い前の座席の様子を心おきなく堪能することに決めた。

2007.11.06 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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