IndexProject2007夏企画

ご挨拶編

 停車した後ぞろぞろと順番に車を降りていると、平屋の住宅の横手から春日井の祖母が出てきた。
 到着の気配を察して勝手口から出てきたのだろう。春日井の祖母はまず孫に目をとめて「よく来たねえ」とにこにこ笑った。
「久しぶりだねえ次郎。お盆なんだからみんな家に来たらいいのにねぇ」
「お盆ぐらいしか遠出できないからって、温泉に遊びに行っちゃったからなあ」
「まったくあの子たちはねえ、ご先祖様をお迎えしようって気がないのかねぇ」
 春日井の祖母の言葉は愚痴めいて続く。
「秋の連休にでもこっちに顔を出すとは言ってたけど」
「そうかい?」
「ああ」
「まあ、これだけたくさん遊びに来てくれたから、今日はいいことにしようかねえ」
 顔を出すと聞いて満足したのか、春日井の祖母は一つうなずいた。それから順繰りにメンバーの顔を眺め、井下兄弟のところで視線を止める。
「まあまあ、大きくなったねえみんな」
 眉間にぐっとしわを寄せて、春日井の祖母は三人の名前を口にし、三人がそろって頭を下げるとますますにこにこした。
「ゆーこちゃんは来ないって聞いてたけど、来てくれたんだねえ」
「ええ、まあ……」
 優美の視線が軽く武正を見据える。見られた方はどきりと肩を揺らした。
「色々とご迷惑をおかけすると思いますが、よろしくお願いします」
 優美の言葉に続いて坂上が「よろしくお願いします」を繰り返すと、他のメンバーも口々に続く。タイミングの合わない挨拶だったが、「こちらこそよろしくねえ」と目を細めて春日井の祖母は言った。
「じゃあばーちゃん、どの竹切ってもいい?」
「それならこの間切ってもらっておいたよ」
「は?」
「孫がそうめん流しに来るんだって言ったら、村瀬さんとこがじゃあ切っておいてやろうって」
「あー、そうなん?」
「勝手口の脇っちょに置いてあるよ。割っておいてやろうかって言われたけど、それはやめといた。村瀬さんとこも忙しいしねぇ」
 ふうんと春日井はうなずいた。
「あー、あと台所借りたいんだけど。そうめんゆでたいし」
「そんなら茹でといたよ」
「はあっ?」
「泊まったらいいってのに、日帰りなんだろ? 手間は出来るだけ省いたらいいと思って。ばーちゃん張り切って十袋茹でてみたんだけど、足るよねえ?」
「どうだろ」
 困った様子で春日井が女子メンバーを順に見る。
「何束入りかによると思うけど……一人一袋弱あるんなら余裕じゃないかしら」
 答えたのは麻衣子で、大丈夫よねえと周りに同意を求めた。
「足りなかったら、他にも色々作ってるからそれ食べたらいいよ。若い人は煮付けとか嫌いかもしれないけども」
「そんなことないよー。私じろ兄ばーちゃんの作る料理好き。おいしいもん」
「うれしいこと言ってくれるねみーこちゃんは」
 近寄ってきた水葉に春日井の祖母はますますにっこりして、それから孫に向かってそうめん流しの段取りを事細かに指示してくる。
 それに苦笑がちに春日井はこくこくとうなずいた。

2007.12.01 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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