IndexProject2007夏企画

準備編3

 勝手口の近くに用意されたのは、予想以上に多い竹だった。
「すごい量だな」
 あとでお礼を言いにいかないとなと呟きながら、春日井はひときわ太く長い竹を後輩に任せる。
「とりあえず表に運んでくれ」
「じろ兄、俺は? 俺は?」
「敬太は――そうだな、俺と一緒にこれを運ぶか」
 ひときわ大きいものは一本だけで、あとは細く短い竹が何本もある。遅れてやってきた坂上と武正にも短い竹を押しつけて、春日井は敬太と前後を分け合うように数本の竹を抱え上げた。
「これにそうめん流せるの?」
「それは無理だろ。これは三本まとめて結んで流す用の竹を乗せる台にするといいんだってさ」
「ふぅん」
 勝手口のそばに用意してあった竹のすべてと工具を数往復で運び、まずは一息。
「おばーちゃん、どういう手順で行くといいって?」
「お前下調べとかしてないのか?」
「したけど、さっき先輩になんか言ってなかった? アドバイスがあるなら従った方がいいかなって。道具も借りてるし場所も借りてるし」
 坂上が言うと春日井はひらひら手を振りながら「たいしたことじゃない」と言った。
「芝生の方に水が流れるのは困るから、土の方でやれってくらいだな。で、どうやって流すヤツを作るんだ?」
「えーっと、竹をまっぷたつに割って、途中にある――節だっけ、節を削って、組み立てるくらいだけど」
 別に難しいことじゃないなと春日井が呟くと、割るのは難しそうだけどねと坂上が応じる。
「作業自体は難しくないだろうけど、どうやって流すの? 工具はあるけど、ホースはないよね。っていうか、あるとしても新しいのじゃないとなんかちょっと衛生的に問題な気もするし」
 運んだ竹やら工具を興味津々に見ていた武正が口を挟む。
「土のあるところでやるってことは立水栓から五メートルくらい長さがいるかな。あと、どうやって流す竹を組むの? まっすぐだと面白くない気がするよね?」
 武正は指で地面にまっすぐの線を引きながら同意を求め、続いてぐるぐるとらせんを描いて「こっちの方が面白そう」と続けた。
「初めてするっていうのにそんな冒険は無理じゃないか?」
 冷静に突っ込みを入れる祐司に春日井がこくこくとうなずき、坂上と篠津、敬太はそんなことはないと異論を唱える。
「凝ったことすると時間がかかるだろ。そうすると帰りも遅くなる」
「えー、でもこっちの方が面白そうだし」
「けーた。昼が遅くなっても大丈夫なのか? それにあんまり遅くなると俺が叱られるだろ」
 春日井が確実に敬太の反論を封じ、その勢いで他にも同意を求める。
「大体そんなスペースも竹もない」
「竹は切って上手いこと組めば何とかなるんじゃないかな」
「あらかじめ切ってくれてたぶん、余計な作業しても平気だよね?」
「三等分して割れば六本だろ。結構長い竹だし、いいんじゃね?」
「細い方の竹の長さを調節して段をつければいいんじゃないかなー。置き具合さえ良ければ大丈夫と思うけど」
「最初に水を流して様子見ればそうめん落とすこともないだろうし」
 なるとを囲むようにスクラムを組んだ三人が地面に図面を書きながら検討していく。
「どー思います?」
 深いため息を漏らした祐司が首を振りながら春日井に尋ねる。
「奴ら、暴走したら止まらないと思うけど……」
「そうだな」
 春日井は軽くうなずいた。頑張ると言うんだからそう言った奴らに頑張らせればいい――そうは思う、思うんだけど。
「女の子たちを巻き込んで多数決に持ち込めば……」
 余計な作業の言い出しっぺが喜ぶのかと思うと、春日井は何となく納得できなかった。
(ゆっこねえなら余計なことをするなって言ってくれそうだろ。里中さんも、祐司につくと見た。みーこは絶対あっちにつく。小坂と小中さんは読めないが――)
 反対に二を数えたところで、春日井は反応が読めなくなってううむと唸る。
「どうにか?」
 問いかけた祐司は春日井が渋い顔で固まっているのを見て肩をすくめた。
「――無理そうなら、抵抗するのは無意味か」
「上手くすればドローに持ち込めるんだが」
「負け色が濃いなら時間の無駄です」
 きっぱり言い切られると迷う春日井も強くは言い切れず、諦めて積極的に相談に混じることにした。

2007.12.14 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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