IndexProject2007夏企画

準備編7

「まったくもう。何考えてるのあんたは」
「や、坂上君達とただ流すのは面白くないって話をね?」
 なるとを巻くようなそうめん流しの台を作るのだと聞いた優美が、武正に文句をつけるとそんな返事。
 優美は頭を振りながら大げさにため息を漏らした。
「よく考えたの?」
「もちろん」
 地面に書いた設計図まで優美を導いて、武正は胸を張る。設計図とは言っても最初のぐるぐるよりもかくかくしたただの線。
「竹の数はあるし、長いのを切って組み合わせればうまくいくと思うよ」
「――うまくいかないと思うけど」
「なんで」
 武正は出来たアイデアをあっさり否定されて語気鋭く問うた。
「なんで、って。ねえ武正、それちゃんとみんなに相談した?」
「もちろん。半分ゲスト的な扱いなのに勢いで突っ走るほど俺は神経太くないよ」
「十分太いと思うけどね」
「気のせいだってば」
 優美は武正の反論をろくに聞かずに、親しい春日井を呼んだ。作業を始めようとしていた春日井は不思議そうに顔を上げ、何故か少しためらいつつ近付いてくる。
「じろ君、悪いけどとりあえずみんなに作業は中止してもらって」
「優美ちゃんっ?」
「武正は黙ってて」
 目を見開いて二人の様子を伺っている春日井に重ねて優美が頼み込むと、彼は一つうなずいて優美の言うとおりにみんなに指示する。
「お昼まで時間がないんだけど」
「だからこそもう少し話を詰めないと行けないと思うわ」
「ちゃんと相談したよ」
 言い合う二人に何かを感じたのかぞろぞろと全員が二人の周りに集まってくる。
「何で止めんの、ねーちゃん」
 不満げに敬太が唇をとがらせて文句を言い、そうそうと武正がそれに同意した。
「一つ聞くんだけど、このなると状の物体のどこからそうめんを流すの?」
「中でも外でもいいんだけど、ホースをのばすこと考えたら外からの方が短くていいかなって」
「中心に向けて低くなるってことね。そうめんを流す役はもちろん交代制よね」
「まだ考えてないですけど」
「竹と竹の幅はどれくらい取るつもり?」
「えっと」
 矢継ぎ早に問いかけていた優美は応じる声が止まったので大きく息を吐く。
「幅を取らないと出入りがしにくいと思うわよ」
「出入り?」
「そう。渦を巻いたら出入り口は一カ所でしょ。十分距離を取らないとすれ違えないし、万が一にも組み上げた竹が崩れたら元も子もないわ」
「すれ違う?」
 武正が繰り返すと優美はこくりとうなずいた。
「そうめんを流すのは交代なんでしょ」
「あー、ああ」
「螺旋状だなんて非効率的だから、止めておいたら?」
「なるほど。さすがゆっこねえ」
 素直に春日井は納得して、祐司は気付かなかった自分に嫌気がさした。
「非効率って。その辺が男のロマンなのに!」
「それで失敗したら目も当てられないわ」
 自分の言葉に納得したのが二人しかいないと気付いた優美はしゃがみ込み、武正の設計図の横に自ら図を描く。
 武正のそれに似たらせんを少し大きめに書き、そこに人を模した丸をいくつも書き加える。
「竹と竹の間のスペースが重要よ。ああ、下をくぐるとか考えても無駄だからね。あんまり高くしすぎるとそうめんがとれないから、竹はどうしても低めになるから。ずいぶん竹を切ってもらったみたいだけど幅を取ろうとしたら、予想ほど渦は描けないと思う」
「うー、でも」
 諦めきれずに武正と坂上は同時に唸る。
「一理あると思うな。わかってんだろ、利春」
「でーもー」
 祐司の言葉にだだをこねるように言いながら、坂上は優美の描いた図を見る。
「言われると確かにそうなんだけど、ねえおにーさん」
「だよね坂上君」
 二人で分かり合う空気に優美は大げさに頭を振った。
「本音を言うならシンプルに直線で作ったらいいじゃないって思うんだけど」
 優美は自分が書いた図を消して、新しく地面に線を引いた。
「お互い譲歩しましょ」
 新しく書いたのはコの字の形の線だ。
「作業も簡単だし、少しだけこっちの面影を残してるでしょ?」
「少し過ぎると思う」
 自分の書いたカクカクのらせんと優美のコの字を見比べて武正は不満を口にする。
「これなら小さい直線を長めに取れば幅が確保できるし、出入りも難しくないわよね。ああ、中に並ばなくても外に並べばいいんだけど。今回の経験を踏まえて――そうね、出来そうだと思ったら来年にでも、機会があったらもう一度やればいいじゃない」
「えー、でもこんな機会なんて」
「じろ君、おばーちゃんさえよければだけど、また来年出来たら、いい?」
 問われた春日井はためらったあとうなずいた。
「その頃予定が合うようだったら、その時聞いてみる」
「ほら、じろ君だってこう言ってるし」
 次々に逃げ道をふさぐ優美を見て、武正は諦めの吐息を吐いた。
「わかった。今回みたいに都合良くスケジュールが空いてたらいいけど……」
「じゃあそういうわけで」
 武正を言い負かした優美はにっこりと微笑んで、続けて竹の配置を指定した。

2007.12.30 up
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

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